俺の超常バトルは毎回夢オチ

みやちゃき

文字の大きさ
34 / 39
第一部 四章

夢の続き

しおりを挟む
先ほどまでツヤのある黒髪だったはずの彼女の長髪は、色を銀色に変えていた。

 光を反射し、神々しく輝く銀髪。
 言葉を失ってしまった。あまりの麗しさに。
 絶世の光景だ。この世のものだとは思えなかった。
 呆気にとられてしまい、ただ呆然と見上げることしかできない。
 それは奇しくも、初めて俺と彼女が出会った状況をなぞっているようだった。

 確かあの時は、唐突に彼女はブレザーの懐に両手を忍ばせたと思うと、何かを宙に投げたんだ。
 くるりくるりと空へ舞った二つの黒い物体。あるところまで行くと重力に従って彼女の元まで戻ってきて。
 胸のところで両手を交差してそれを掴む。刹那の間に行われた無駄のない所作。そして彼女は両手に握ったものをまっすぐと俺へと向けたんだ。

 それはおもちゃの拳銃。その銃口と向かい合う。
 記憶の中にある、思い出の彼女はそうしたんだ。

 もしや。嫌な予感する。またあの痛みに見舞われるようなことがあれば一溜まりもない。
 注意深く様子を伺っていると、スーッと彼女はその片手を懐から離すように天へと掲げる。
 よかった。拳銃を取り出す気は無いらしい。

 ホッと胸を撫で下ろす。

 すると上にあげた手の平が、桃色と紫色を混ぜたような光を帯び始める。
 その発光は次第に増し、まばゆいくらいの輝きに思わず瞼を閉じて片腕で双眸を隠す。
 なんだ。何が起きたんだ。

 目を開くと聖本ひじりもとの片手が放っていた輝きは既に収まっていた。
 その代わりに彼女の手の平にあるものが姿を現す。

 それは彼女の片腕ほどの大きさをしていて、所々がシャープで所々がカーブで。色は彼女の髪色と同じ銀。たまにピンクが点々。そんないびつな形をした。

 銃、だった。

 それをまっすぐこちらに振り下ろす。そのメカニックで、幾何学的な銃口と目が合う。
 初対面の時、教室で向けられた拳銃。あれは本物そっくりの見た目をしていた。
 対して今グラウンドで向けられる拳銃。そのおかしな形をしたこちらの方が「おもちゃ」っぽかった。
 けれど、生物の本能か。

 本物だ。

 確かな直感が走った。
 やばい。
 逃げなくては。

 立ち上がろうとするが、地面に着いた両手は動かない。
 せめて距離を取ろうとするが、両足はすくんでいる。

 早く、動け。俺の体。

 汗が目尻をかすめ流れるのがわかった。
 目の前の少女が優しく微笑んだ。

 それを合図に体はようやく言うことを聞いた。
 全身を起こして、とにかく、どこか遠くに走り出そうとした。

 けれど時は遅く。

 きらりと銃口が怪しく光り、彼女がトリガーを引く。
 迫る輝き。
 ああ、死んだ。なんて考える暇もなかった。

 銃弾は俺の腹部を捉える。衝撃を真正面から受け止め、後方に体が吹っ飛ぶ。
 一撃が筋肉にめり込み、肋骨をきしませる。
 何か酸っぱいものが口のあたりまで登ってくる。
 強烈で、猛烈で、痛烈な激痛が俺の呼吸を妨げる。

「ぐおあぁっ」

 息が出来ない。苦しい。
 その場でもがき、苦しみながらも、両手で患部をこすった。

 出血はない。体を貫通していない。
 なんだ、今。何が起きたんだ。確かに俺は今彼女に撃たれた。

 そんな疑問に答えるように聖本は口を開く。

「ダイジョーブ大丈夫。普通の弾は打てないから」

 にこやかに楽しそうに自慢げに。明るい口調で話し出す。

「何も大丈夫じゃねぇよ!」

 呼吸が整いカラカラの口で叫ぶ。

「これすごいのよ」

 そう言うと俺を向いていた銃口がピタリ90度真横に向く。
 その先にあるのは学校の敷地を囲うブロック塀。銃身が光り、彼女はまたも引き金にかけた人差し指を曲げる。
 すると握りこぶし七、八個ほどの薄紫色をした半透明の光の塊が射出されズドンと重い着弾音が響く。

 ブロックからは煙がたち、ポロポロと破片が落ちる。
 大きくえぐられ、黒く変色した銃痕。
 それがその威力の凄まじさを物語っていた。

「ね? すごいでしょ」

 聖本はおどけてウインクをしてみせる。
 慣れてないのか、両目を瞑ってまるで出来ていなかったが、それに笑える余裕はなかった。

「これ絶対貫通はしないの! 打撃って感じ? 例えるなら刀じゃなくて木の棒と一緒だから! そう木の棒とおんなじなの。だから安心してっ! 体に命中しても穴が開くことはないし。死ぬ……こともきっとないと思うし。うん」

 弾む声音で嬉しそうに語る口調はまるで深夜のショッピング番組みたいだ。
 何も安心できないし、何も大丈夫ではない。

「なんで……」

 どうして一体、なにゆえに。

「なんでこんなことすんだよ」

 彼女はなぜ俺に攻撃するのか。

 その疑問は愚問であるかのように。彼女はさも当然とばかりに胸を張る。そして悪戯げに微笑む。

「あんた……いいえ失礼したわ、ゴミトウくん」
「言い直すなよ!」
「主人公になりたいんでしょう? だったら私と勝負しなさい」
「なんでそうなるんだよ!」

 そこで彼女はちょこんと小首をかしげる。
きっと可愛いと思ってやっているのだろう。実際様になっていて何も言えないのが悔しい。

「主人公っていうのはピンチをくぐり抜けるものよ?」

 澄んだ声で口にすると横を向いていた銃口をこちらに正す。

「強敵を倒すことも主人公には必要だわ」

 やっぱり彼女は一方的だ。
 徹頭徹尾、終始一貫して。

 再び光る銃口に恐怖し、考える前に走り出していた。
 とにかく身を隠さなくては、そびえ立つ灰色の校舎へと駆ける。
 途中、彼女は数発を俺に向けて発射したが先ほどより距離が開いたため寸前のところで反応して、かわすここができた。

 裏口から校内へと入る。
 追ってきては––––いないようだ。
 ふと心を休めれば、その場にへたり込んでしまいそうだ。
 それでも恐怖と焦りが俺の狭い心の中で暴れ、足を止めることを許さない。
 けれど、自分の高校とはいえ、俺はこの建物のことをまだよく知らないのだ。

 どうしよう。

 どこかに隠れようか。物陰に姿を隠そうか。
 どこか隅で暗闇の中膝を抱えて体育座りする自分を想像したが、そんな風に怯えながら何時間も耐え凌げる自身はなかった。

 どうしよう。

 悩んでいる間も足は止まらず。
 階段へと向かっていた。
 生物の帰巣本能というのだろうか。
 気がつけば四組の教室へと逃げ込んでいた。見知った場所、一番長くいた場所。
 少し心が落ち着く。

 どうしてこうなった。
 教室には誰もいない。

 自分の席まで足を進める。
 ここに来る前まで、そうだ。気が付いたらグラウンドにいた。

 なんでだ。それまでは、確か龍太郎と一緒に帰って、そしてこの教室まで引き返して。そこには俺を待っていた聖本がいて。考えても頭が混乱する。頭痛がマジで痛い。

 あいつは今どうしているのだ。

 俺は少し態勢を低くして、窓際まで近づいた。そこから先ほど俺たちがいた場所を見ようとしたんだ。
 聖本がもしあの場所にまだいたら、その位置から見えないように恐る恐る足を進める。

 そして、あと少しの距離まで来た時。
 目の前に彼女が現れた。
 現れたと言っても瞬間移動をしたわけじゃない。

 下から、姿を現したんだ。
 下から、そう地面から。

 聖本麗はその両腰に先ほどのメカニックな銃を地面に向けて装着していた。
 そして二丁の銃口は薄紫色に発光しながら、まるでジェット機のエンジンみたいに噴流を生成し、エネルギーを噴射してその出力で彼女は空に飛んでいた。

「そんなのアリかよ……」

 つーかその銃、何個も出せるのかよ。
 爆音をとどろかせ、彼女の銀髪が舞う。
 けれどなぜかスカートはめくれ上がらない。

 ガラス越しに彼女は「すごいでしょ?」と勝ち誇った顔で両手をこちらに伸ばす。
 右手と左手。その手の温もりを俺は知っている。

 両方の手の平が眩しく光る。
 手に持つものが機関銃なら君は平成の薬師丸ひろ子だ。
 まぁうちの服はブレザーだけど。

 ああ、空飛ぶ女の子っていうのはこんなに危険な存在なのか。
 だから幾人の主人公たちはトラブルに巻き込まれるのか。

「平穏な毎日が過ごしたかっただけ」そんなことを口にする彼らの気持ちが少し理解できた。
 振り返らず教室の出口へと急ぎ、勢いよく引き戸を引いた。


 そして、俺は。
 生徒も教師も誰もいない。
 無人の廊下を走るんだ。


 これでようやく。
 夢の続きを話せる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...