俺の超常バトルは毎回夢オチ

みやちゃき

文字の大きさ
35 / 39
第一部 四章

一人レジスタンス

しおりを挟む
 これでようやく。
 夢の続きを話せる。


                ☆      ☆     ☆


 端の壁にもたれる格好で座り込む。だらんと垂れ下がった両腕。

 両足の間には一枚のボロ紙。
 元々は長方形だったはずが、破られ折り曲げられ、ひどいシワがよって不恰好な三角形に変形していた。
 それは生徒の校外活動や優秀な成績を収めた部活の紹介などが載っている、広報担当の先生が掲示した「がっこうだより」だったもの。

 無残な姿に変わり果てたプリントの上に、ポロポロと破片がこぼれる。
 身を包んでいた鋼の鎧。鋼鉄の硬度を誇るはずが、ひびが入り俺が体を動かす度に剥がれ落ちていった。床にはまるで宝石みたいな輝きを放った破片が広がる。

 綺麗、思って眺めていると、止められた時間の針が動き出したみたいに、固められたしろがねの炎が一瞬揺らめきそのまま消えてしまった。それを合図に鋼の鎧は、炎に姿を戻し俺の体で燃えたあと最後のきらめきを放って消失する。

 代わりに体を包んでいるのは、まだ着慣れていない高校の制服。
 あの時、俺が彼女を追い詰めたと勝手に思い込んでいた時。

 刹那せつなの戸惑いのあとタックルをかまそうと結論づけた俺を彼女は嘲笑っていた。
 力を溜め続けて解き放った渾身の一撃。

 どうやら自分では無意識に最低限の鎧を生成していたようだ。さすが偉大な主人公、大地鉄真だいちてつまの能力。
 咄嗟に発動して俺の身を守るだなんて、その恩恵があるのかもしれない。主人公補正の恩恵が。

 あんな、見るからにヤバそうな一撃をまともに食らっていたら命はなかったかもしれない。
 よろめきながらも、背面の壁に手を付きながら立ち上がる。

 よかった、まだ体は言うことを聞いてくれるみたいだ。
 吹き飛ばされ、壁と衝突した衝撃で、所々が悲鳴をあげているが幸い致命傷ではない。
 不幸中の幸いといったところか。

「まだ生きてたんだ」

 廊下の向こうで聖本ひじりもとは感心したような声を出す。

 余裕の満ちた表情だ。

 このままではダメだ。こんな状態じゃ一生、いや五生くらいかかっても彼女には敵わない。
 それはつまり主人公に、俺の憧れが叶わないということ。
 どこか、どこかで体制を立て直さなければ。

「その様子じゃ死んでるのと変わんないか」

 フーッと一息。ラジオ体操第一、腕を前から上に挙げて大きく背伸びの運動ーーはいっ! とでも言わんばかり体を伸ばす。続いて体を横に曲げ脇腹を反らし、手首足首の関節をポキポキ鳴らす。
 一連の動作はまるで、今までは準備運動の一環よ、と伝えているようだった。
 右の腕をブンブン勢いよく回す彼女に向けて人差し指を突き立てる。

「いいか、聖本。これは逃げるんじゃない、決して尻尾を巻いて逃亡するのとは違う……勝つための、そう、戦略的撤退だ!」

 彼女に聞こえる声で選手宣誓ばりに宣言し、脇腹を抑えながらすぐ真横の階段を降りる。
 足が絡まりもたつく。酔っ払ってもいないのに千鳥足。
 とりあえず、どこか。どこか場所を移さないと。
 手すりを掴み、二段飛ばしで階段を踏みつける。
 三階と二階の間の踊り場。窓から外を見下ろす。

 ここから飛び降りてみるか。鋼の力を持ってすれば怪我などしないはずだ。
 いや、ダメだ。外は見晴らしが良く遮蔽物が少ない、彼女にとっては絶好の的となってしまう。
 戦略的など都合よく言ってみたものの、勝どきを上げるための戦術なんて一つも浮かんでいなかった。

 くそ。どうすればいい。

 頭を抱えていると、コツリ。頭の上で階段を降りてくる音が聞こえる。
 近寄る音は焦りと恐怖を倍増させ、俺の足は目的もないが一階へと急ぐ。

 目の前には昇降口。右横に伸びる長い通路は特別棟へと繋がっている。左手には教員室と保健室と、トイレ。
 いっそのこと男子トイレに籠城するか。それもありだ。例えこの勝負に負けたとしても、彼女が一歩足を踏み入れた時点で別の勝負には勝った気がする。

 コツリコツリ。硬質な足音が近寄ってくる。きっと今彼女は二階くらいか。
 ああ。もうそうするしかないのか。残された手段は、何か。

 周囲を血眼になって見渡す、すると来校者向けに校内を案内する地図が廊下にあるのを見つけた。何か手がかりになる場所は。彼女に勝つための戦場はないのか。すがる思いで自分の背の高さほどの案内板へ。

 特別棟一階、図書室。戦争するには向いている場所かもしれない。二階に移って、理科室。音楽室。美術室………。どこだ。どこに行けばいい。理科室にはどんな薬品が置いてある、何か役に立ちそうな楽器はあるか、美術室の造りはどうなっている? 

 ああ、一度とて行ったことがない場所で、どうやって戦えばいいんだ。なにも知らない場所でどうやって。情報がなにもない。情報が。
 階段を降りてくる足音が次第、大きさを増す。一段一段、丁寧に、慎重に、確実に近づいてくる。

 ダメだ。もう時間がない。ここで対峙するしか選択肢はないのか。こんな何も無い所で。どこか、どこか俺の知っている場所はないのか。

 この時に限っては鋼の力より、天才的なひらめき力が欲しかった。危機を脱するような思いつきが。

 必死になって凝視する。すると一つの教室に視線が引き寄せられる、記載されたその名称が光って見えた。見覚えというより、聞き覚えがある文字。震えるか細い声で、あの人はあの時なんて言っていたか。
 一般棟一階。特別棟へと続く左手の通路の途中にある場所。
 俺はそこに一縷いちるの望みを託した。
  
 錬真れんま少年は、ボタンを押すのが好きな子供だった。

 レジスターのおもちゃを買ってもらって一日中ポチポチ遊んでいた。
 エレベーターなんて乗ったらもう大変。全ての階のパネルを押していた。

駅のホームにある赤いボタンを押したら駅員が血相変えてすっ飛んできた時は焦った。
 怪しげなスイッチを見つけると、「これを押したら何が起きるのだろう」という好奇心が掻き立てられた。
自分の小さな人差し指で、同じく小さな突起を押したら、大きく複雑な機械が言うことを聞くのが面白かったのだ。

 ゲームが好きな理由の一割くらいは、コントローラーを扱うのが楽しいから。
 俺が息を切らして駆け込んだその部屋には、大きさは自分の部屋と同じくらいか少し狭いくらいの一室には無数のボタンが並んでいた。小さい頃の俺が来たらさぞ興奮することだろう。

 ああ、時間があるならここにあるもの全てのオンとオフを切り替えたい。なんてお門違いな欲望を抑える。

 そう、一つでいいのだ。触れるスイッチは一つでいい。

 目当てのそれは長い延長コードで繋がれ、間違って押してしまわないよう他のボタンとは分けて机に置かれていた。そのお陰で初めて入った人間でも一目でわかる。

「さすが、全校生徒の前で宣伝するだけあるな」
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...