俺の超常バトルは毎回夢オチ

みやちゃき

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第一部 四章

ニーケーのコイントス

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「さすが、全校生徒の前で宣伝するだけあるな」

 おさげの先輩に感謝しよう、いや委員の皆さんに感謝しよう。
 人知れず校内を守ってくれていることに。

 主電源を入れ、マイクをオン。伸びたコードを丁重に引っ張り、自分の足元にそっと置く。
 あとは彼女を待つだけだ。
 扉は開けっぱなしにしてある。何か罠があることはバレバレだろうけれど、それでいい。

 いつかお笑い番組で芸人が言っていた。
「怪しいな、これドッキリだろうな、と勘付くことはあるけれど何が仕掛けられているかはわからないから、あのリアクションは本物です」と。そう、それでいいのだ。仕掛けさえわからなければ。

 足音が廊下の奥から近づいて、そしてすぐそこで止まる。今あいつは壁一枚隔てたそこで
 何を思っているのだろう。俺のその場しのぎの策略に気づいただろうか。呆れているのだろうか。この狭い部屋だ。彼女の武器なら適当に乱射していれば勝利に繋がるかもな。

 先ほどの一撃だったらこんな部屋吹き飛ばせるだろう。だから、頼む。
 そんなことはしないでくれ。
 この部屋に入って、一歩でいいから俺に近づいてくれ。
 一瞬でいい。勝負はきっと瞬きの間で決着するはず。

「こんな所でなにする気?」

 初めに銀髪がドアの隙間から見えて、そのあとに全身が目に飛び込んでくる。

「必死になって逃げ込んだ場所が…………放送室って。もっと他になかったの」

 聖本ひじりもと大仰おおぎょうに肩を落とし、ため息ついてご入室。
 よし、いいぞ。あと一歩、こっちに近づけ。

「俺な、ちっちゃい頃ボタンが好きでさ、こういう部屋、入って見たかったんだよ。どうせならさ。だって俺、ここでお前に殺されちまうかもしれないし」
「あら、もう諦めたの?」
「ああ、わかったんだよ。やっぱ自分には無理だったって。幼い時に憧れた主人公なんて俺には似合わないんだって」

 ピクリ、聖本の眉根が寄り、鋭い眼光でこちらを睨みつける。せっかくの美人が台無しだよ。
 お前はもっといい顔できるだろ。でも、それでいい。少しでも感情的になって、俺の話を聞いてくれ。

「その点すげーよ聖本。お前はすっげーカッコいいよ。だってさ、さっきの戦いだってお前の視点から見たら敵を煽って挑発して、本気を出させた上で余裕の勝利だもんな。舐めプもいい所だよ。無双系俺つえー主人公そのものだよ」
「そうね、私は強いわね」

 彼女は得意げに笑みを浮かべる。
 ドヤ顔で髪なんて搔きあげちゃって、鼻なんて鳴らしちゃって。

「だからさ、俺からの最期のお願い。お前みたいな、カッコいい主人公の力で俺を倒してくれ。ヒーローの手にかけられるなら本望だ。最後の一発は外さないでくれ」

 そう懇願こんがんする。
 俺は演技とか苦手だ。うまくない。

 それでもこのセリフは上手く言えているだろう。

 だって半分は本心からの言葉だから。

「わかったわ」

 彼女は呟き、その手元を眩しく光らせる。
 白旗を揚げた俺は、両手を頭の高さまで持って来て降参のポーズを取る。
 お馴染みのおもちゃみたいな拳銃の登場。俺の眉間に照準に合わせ、ゆっくりと一歩こちらに歩み寄る。

「ありがとな」

 口にした言葉の残響が消えるのも待たずに、俺は上げた両手を勢いよく自分の耳にぶつけ押さえる。
 そして右足で思いっきり、コードで繋がれ伸びたロッカースイッチを踏みつけた。

 どんな音が響き渡るのか、押した本人にさえわからない。
 けれど、先に起こる未来の事象を、事前に知っているのといないのとでは歴然とした違いがあるのだ。

 音量はマックス。
 轟く高い警報音。
 とても嫌な音だ。

 目前の少女はなにが起きたかわからない。
 鼓膜をつんざくような爆音に体勢を崩す。

 その隙。一瞬の好機。

 左の手で彼女の握る拳銃を払う。それが地面に落下した音さえかき消される。
 右の手を、肩が稼働する範囲ギリギリまで後ろに持っていく。
 拳に力を、炎上を。

 しろがねの炎に包まれた鋼鉄の右手。
 その右ストレートが一直線。彼女の横面めがけて伸びる。

 勝った。

 確信した、勝利はもう目前まで。
 あと少しで俺の憧れが叶う。

 彼女は言った。

 主人公はピンチをくぐり抜けるものだと。
 ここまで、この一撃を喰らわせるために、俺は何度も危機にひんした。
 俺こそ主人公にふさわしいんだ。

 思えばこの学校で起きたことだけじゃない。一番初め、ドラゴンに化けた師匠に大空から落とされた時、あの時に能力が発動しなければ全てなかったことだ。上空何百メートルから無抵抗に落とされたただの人間だ。

 彼女は言った。

 主人公は強敵を倒すものだと。
 その時はすぐそこまで来ている。

 目の前の強敵は表情を歪め、無防備なままだ。
 目の前の強敵、そう、無防備な、女の子……。

 一瞬だけ、逡巡しゅんじゅんした。

 今まで俺は自分が悪と戦うヒーローになったつもりでいた。
 聖本麗ひじりもとうららは敵だと。
 まるで世界制服を企んでいる極悪非道な怪物だと。

 けれど、今俺の前にいるのはただの人間じゃないのか。制服を着た、普通の高校生じゃないのか。
 遥か彼方の上空から雪や植え込みなしの地面に落とされても無傷のままでいられるほどのこの鋼。

 そんなもので人を殴ったらどうなる?
 そもそも本当に。
 俺が殴りかかっている女の子は。

 聖本麗は。

 敵なのか。

 なんて、迷ってしまったんだ。
 隙を生み出してしまったんだ。

 彼女はそれを、見逃さない。

 硬く閉じた瞳を見開くと、崩れていたはずの体勢を右足一本で踏みとどめ、首を横に傾け、左の脇で俺の伸びた腕を挟み込んで押さえ込む。

 余った左足で膝を横から蹴りつける。鈍い痛みと、衝撃で今度は俺が倒れこむ。

 体勢が入れ替わり、彼女が俺を押し倒していく。重力のままに崩れていく俺に右手の人差し指と中指二本を伸ばして、手製のピストルを作りピタリと額に当てた。

 そして聖本は俺の耳元に唇寄せて爆音のなか確かにささやいた。

「バーン」

 制服越しの三十六度、体温を感じる間も無く。

 そこで俺の意識は途絶えた。
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