俺の超常バトルは毎回夢オチ

みやちゃき

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第一部 四章

俺の憧れたバトルは毎回––––

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 制服越しの三十六度、体温を感じる間も無く。
 そこで俺の意識は途絶えた。


                ☆    ☆     ☆


「黒髪だ」

 気がついたら四組。
 教卓から見て左後方、鳥瞰ちょうかんすれば右後方の一番後ろの席に着席していた。

 隣に座る聖本ひじりもとは自分の腕を枕がわりにして、首だけをこちらに向けている。まっすぐな黒目、蠱惑的こわくてきな笑みを頬に。袖からちょこんと指先だけ姿を見せて。

 垂れた長髪は光を帯びた綺麗な漆黒。
 教室には二人だけ。

「ああ、あの髪? あれは夢と現実がこんがらがらないように体のどこかに変化が生じるの。ゴミトウにも起きてたはずよ」
「えっ、嘘。マジで」

「私みたいに大きな変化から、つむじの向きが時計周りから反時計回りになってたり、太もものホクロが消えてたり。まぁ人によって個人差はあるわ」
「ホクロとか気付かんだろ」

 遠くでカラスが鳴いている。廊下では人の騒めき声が聞こえたが、誰もこの教室には入ってくる気配がない。

「はぁぁぁ、ていうかゴミトウは本当にゴミね」

 深いため息を吐き出し、顔を埋める。

「せっかく私に勝てるチャンスだったじゃない。なんで迷ったのよ」

 腕の中で紡がれる言葉はくぐもって響く。

「いや俺、人とか殴ったことないし、それに女子とか。普通無理だろ! 心優しいの、俺は」

 プイッと腕から顔を覗かせ、あんたバカぁ? とでも言いたげなジト目を向ける。

「そういうのは優しさって言わない、甘さっていうのよ。最後の一撃は殺す気で放たないと命取りになるわ」

 ばーか、口だけ動かしてはにかむ。
どこまでも人を馬鹿にするやつだ。

「てかお前の最後のなんだよアレ、あの技」
「空砲よ。威力はほとんどないわ。あんなんで気絶しちゃって情けない」
「そんなことも出来るのかよ……」

 敵うわないな、こいつには。
 空砲とかでんじろう先生かドラえもんだけが使えるんじゃないのかよ。……って、え。今こいつ、なんて言った? 

 ほとんど威力がないだって? 

それで決着をつけたのか。それって、まるで。

 ブーメランじゃね?

「なぁ、空砲使ったお前だって、俺を殺す気なかったんじゃ…………」

 言った瞬間、彼女はガバッと立ち上がる。
 弾みで腰掛けていた椅子が倒れる。

「なっ、ちっ! ちがう! あれは、あんな至近距離で発砲したら私に跳弾ちょうだんするかもしれないし、あ、あんたの散らかった脳みそ片付けるのが面倒くさかったから! よ!」

 跳弾するのかよあの銃弾。
 声を荒げて上気して、興奮気味に捲し立てる聖本。
 その頬の色は赤く色づいていた。それが夕日のせいじゃないことは、バレバレだ。

 先ほどの俺もそうだったんだから。

「バーーカ!」

 ベーと舌を出して。彼女は席を離れる。

 数歩歩き出して、振り向き「ほら行くわよゴミトウ」と急かす。
 いい加減、人のことゴミ呼ばわりするのはやめてもらえませんか?


 やっぱり可愛げのないやつだ。


 本当に、聖本麗は可愛げがなく、一方的で、暴力的で。
 けれど本当に。


「カッコいいよ」


 ヒーローみたいな女の子だ。
 いや、みたいじゃないな。
 俺にとって彼女は。
 聖本麗はヒーローだ。

 彼女は選んでくれた。
 俺の名前を呼んでここじゃない、どこか別世界に連れて行ってくれた。
 瞼を開けて目にするのは見知った天井ではなかった。
 それがなにより嬉しかった。


「………………!」


 どこか遠く。
 遠くの方から声がする。

「…………トウ!」

 ああ、誰かが俺を呼んでいるんだ。
 向こうから。

「……ミ……ウ!」

 遠くというのは距離的な意味じゃなく、なんというか自分の意識の外というか、本当に、ずっと遠くの方から。
 ああ、わかってるよ。


 今いくよ。


「…………ミトウ!」

 今、そっちにいくよ。
 俺は両腕の中に顔を埋めて机に突っ伏せて。

「…………レンマっ!」



 そっと静かに瞳を閉じた。
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