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二章
私と似ている
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満月の夜だった。
薄いベールのような雲がかかっている。
さよは夜空を見上げ、見とれてしまう。
外に出てよかった。寝てしまうには、もったいないほど綺麗だ。
心なしか、夜も普段より明るく感じる。
兄妹は街の少し外れにある、広大な面積のホームセンターに来ていた。
もちろん買い物に来たわけではない。営業時間は既に終了している。
屋上にある看板は眩しく光り、閉店後でも存在感を放っていた。
「さよ! 今日も圧倒的な力を見せつけるぞ! 格の違いってやつを見せつけてやろうぜ」
夕方、坂本豪に挑発されたせいか。レクの目の色はやる気に満ち溢れていた。
若干めんどくさいな、と心中思う。
二人はホームセンターの入り口ではなく、罪獣が放つエナジーの気配を追って、その隣に併設されている立体駐車場へと向かった。
四階建ての駐車場には割とすんなり入ることができた。
さよは鼻を突く排ガスとオイルの匂いに顔をしかめる。
灰色のコンクリート支柱が低い天井を貫いている。地面には黄色い矢印が描かれていた。所々にタバコの吸殻も落ちている。
ゆるい坂を登った二階に気配の元はいた。
そこには大柄の人の形をした罪獣がいた。
初めに目についたのは、板チョコのように割れた腹筋。頭は天井に着きそうだった。窮屈な場所のためか、一層体が大きく見える。骨太の体格で、腕や足は立派な筋肉の鎧に包まれている。
太い首の上。顎はしゃくれ気味で割れている、長い顔面だ。鼻は大きく、眉毛は太い。髪はサイドが刈り上げられた短髪。どう見ても、人間で言ったら男性の容姿をしている。しかし、睫毛が長い。唇は厚く、紅が塗られている。全体的に厚化粧。
こちらに気がついた罪獣はニチャアと気持ち悪い笑みを浮かべる。
その笑顔にさよは鳥肌が立った。首から下は自身の覚醒時とほぼ同じ姿をしていた。
「アラァ~キャワイイおにゃの子じゃなァ~い」
さよを見た罪獣は両手を合わせ頬の横に添えると、身をくねらせる。
女性にしては少し低く、男性にしては高い声が、立体駐車場に響く。
「ヒッ」とさよは、その不快な声と、熱い眼差しに悲鳴をあげる。
罪獣の頭上の電球は、明かりが切れかかっていてチカチカと点滅し、地面に不気味な影を作っていた。
「お姉サンが、たぁっぷりキャワイがって、ア・ゲ・ル」
唇を尖らせ角砂糖のような甘ったるい声を出すと、罪獣はクラウチングスタートの姿勢に移る。そして次の瞬間には一直線にさよ達の方向へと走り出した。その迫力に、思わず二人は逃げ出した。
「ちょ、お兄ちゃん、格の違いを見せつけるんでしょ!?」
「無理無理無理! あんなキモい奴は無理!」
振り返ると罪獣は物凄い速さで二人に迫っていた。そして目の前は壁。左右に道が分かれている。さよは左に曲がり、レクは右に曲がった。
そして罪獣は―。
左を選択した。
「なんでええええ!」
さよの悲痛な叫び。罪獣との距離はすぐ背後まで縮まっていた。巨漢の右腕が振りかぶられ、まっすぐ地面に叩きつけた。さよは転がりながら、間一髪かわす。先ほどの一撃で割れた地面のヒビが、足元まで伸びていた。
「イイわァ。イイわヨ。その表情、恐怖に満ちたそのキャワなお顔ォォ……。もうアタシ、ビンビンじゃなァい、ねぇ、今、どんなキ・モ・チ! なのかしらァん」
罪獣は恍惚な表情を浮かべ、鼻息を荒くする。
さよは立ち上がり、駐車された車と車の細い隙間に逃げ込む。しかし、罪獣は両方の拳で二台の車を殴りつける。
ガラスが割れ、車体は歪に変形する。盗難防止の為の警告音が鳴り響く。
「そんなところに逃げても無駄よォ」
またも醜い笑みを浮かべ、罪獣は車体をこじ開け道を作る。
すぐさまさよは逃げさす。駐車場で繰り広げられる、鬼ごっこ。
ところがさよは縁石に足を引っ掛け、倒れてしまう。呼吸を荒くした罪獣の足が一歩、また一歩とこちらに近づいてくる。
助けて! お兄ちゃん!
レクの姿を目で追う。
すると少し離れたところ、止まれの標識の下に兄はいた。そして「さよー任せたぞー」とこちらに手を振っている。
するとレクはその場で座禅を組み、今日こそ、意識的に覚醒してみせる……」と口にすると瞳を閉じて、何かをブツブツ唱えながら瞑想を始めた。
罪獣は近くに停めてあった赤色のセダンを両手で持ち上げると、ニタニタ笑いながら近づく。
さよはある決心をすると、迷いなく走り出す。
「待ちなさァい子猫ちゃんッ」
その後を、車を持ち上げながら罪獣は追う。さよが一直線に走り出したのは、レクの元だった。
それは我が兄に助けを求める為じゃない。
「死ねバカ兄貴ぃぃぃぃ!」
怒りに満ちた叫び声を上げ、レクの背後に回る。聞いたことのない、さよの言葉に驚いて目を開けるレク。その目には、鬼のような形相をした妹と、その後を追う罪獣。レクの顔は恐怖に歪み、反射的に立ち上がった。
さよは「歯くいしばれぇぇ!」と叫びながら背後から兄を羽交い締めにする。
「えっ、ちょ、おいおいおいおいお、さよ!」
もういい。どうせこの兄は、数秒後には。
記憶を無くすんだから。
「フンッッッッッ!」
罪獣は肩を下げ、腰をひねると持ち上げていた車を、兄妹へと投げつける。飛んでくる車から、兄を盾にする。
気絶する兄。さよの手に、生暖かい温もりが伝う。
ドクンッ。
心臓が胸を突き破るように跳ねた。
薄いベールのような雲がかかっている。
さよは夜空を見上げ、見とれてしまう。
外に出てよかった。寝てしまうには、もったいないほど綺麗だ。
心なしか、夜も普段より明るく感じる。
兄妹は街の少し外れにある、広大な面積のホームセンターに来ていた。
もちろん買い物に来たわけではない。営業時間は既に終了している。
屋上にある看板は眩しく光り、閉店後でも存在感を放っていた。
「さよ! 今日も圧倒的な力を見せつけるぞ! 格の違いってやつを見せつけてやろうぜ」
夕方、坂本豪に挑発されたせいか。レクの目の色はやる気に満ち溢れていた。
若干めんどくさいな、と心中思う。
二人はホームセンターの入り口ではなく、罪獣が放つエナジーの気配を追って、その隣に併設されている立体駐車場へと向かった。
四階建ての駐車場には割とすんなり入ることができた。
さよは鼻を突く排ガスとオイルの匂いに顔をしかめる。
灰色のコンクリート支柱が低い天井を貫いている。地面には黄色い矢印が描かれていた。所々にタバコの吸殻も落ちている。
ゆるい坂を登った二階に気配の元はいた。
そこには大柄の人の形をした罪獣がいた。
初めに目についたのは、板チョコのように割れた腹筋。頭は天井に着きそうだった。窮屈な場所のためか、一層体が大きく見える。骨太の体格で、腕や足は立派な筋肉の鎧に包まれている。
太い首の上。顎はしゃくれ気味で割れている、長い顔面だ。鼻は大きく、眉毛は太い。髪はサイドが刈り上げられた短髪。どう見ても、人間で言ったら男性の容姿をしている。しかし、睫毛が長い。唇は厚く、紅が塗られている。全体的に厚化粧。
こちらに気がついた罪獣はニチャアと気持ち悪い笑みを浮かべる。
その笑顔にさよは鳥肌が立った。首から下は自身の覚醒時とほぼ同じ姿をしていた。
「アラァ~キャワイイおにゃの子じゃなァ~い」
さよを見た罪獣は両手を合わせ頬の横に添えると、身をくねらせる。
女性にしては少し低く、男性にしては高い声が、立体駐車場に響く。
「ヒッ」とさよは、その不快な声と、熱い眼差しに悲鳴をあげる。
罪獣の頭上の電球は、明かりが切れかかっていてチカチカと点滅し、地面に不気味な影を作っていた。
「お姉サンが、たぁっぷりキャワイがって、ア・ゲ・ル」
唇を尖らせ角砂糖のような甘ったるい声を出すと、罪獣はクラウチングスタートの姿勢に移る。そして次の瞬間には一直線にさよ達の方向へと走り出した。その迫力に、思わず二人は逃げ出した。
「ちょ、お兄ちゃん、格の違いを見せつけるんでしょ!?」
「無理無理無理! あんなキモい奴は無理!」
振り返ると罪獣は物凄い速さで二人に迫っていた。そして目の前は壁。左右に道が分かれている。さよは左に曲がり、レクは右に曲がった。
そして罪獣は―。
左を選択した。
「なんでええええ!」
さよの悲痛な叫び。罪獣との距離はすぐ背後まで縮まっていた。巨漢の右腕が振りかぶられ、まっすぐ地面に叩きつけた。さよは転がりながら、間一髪かわす。先ほどの一撃で割れた地面のヒビが、足元まで伸びていた。
「イイわァ。イイわヨ。その表情、恐怖に満ちたそのキャワなお顔ォォ……。もうアタシ、ビンビンじゃなァい、ねぇ、今、どんなキ・モ・チ! なのかしらァん」
罪獣は恍惚な表情を浮かべ、鼻息を荒くする。
さよは立ち上がり、駐車された車と車の細い隙間に逃げ込む。しかし、罪獣は両方の拳で二台の車を殴りつける。
ガラスが割れ、車体は歪に変形する。盗難防止の為の警告音が鳴り響く。
「そんなところに逃げても無駄よォ」
またも醜い笑みを浮かべ、罪獣は車体をこじ開け道を作る。
すぐさまさよは逃げさす。駐車場で繰り広げられる、鬼ごっこ。
ところがさよは縁石に足を引っ掛け、倒れてしまう。呼吸を荒くした罪獣の足が一歩、また一歩とこちらに近づいてくる。
助けて! お兄ちゃん!
レクの姿を目で追う。
すると少し離れたところ、止まれの標識の下に兄はいた。そして「さよー任せたぞー」とこちらに手を振っている。
するとレクはその場で座禅を組み、今日こそ、意識的に覚醒してみせる……」と口にすると瞳を閉じて、何かをブツブツ唱えながら瞑想を始めた。
罪獣は近くに停めてあった赤色のセダンを両手で持ち上げると、ニタニタ笑いながら近づく。
さよはある決心をすると、迷いなく走り出す。
「待ちなさァい子猫ちゃんッ」
その後を、車を持ち上げながら罪獣は追う。さよが一直線に走り出したのは、レクの元だった。
それは我が兄に助けを求める為じゃない。
「死ねバカ兄貴ぃぃぃぃ!」
怒りに満ちた叫び声を上げ、レクの背後に回る。聞いたことのない、さよの言葉に驚いて目を開けるレク。その目には、鬼のような形相をした妹と、その後を追う罪獣。レクの顔は恐怖に歪み、反射的に立ち上がった。
さよは「歯くいしばれぇぇ!」と叫びながら背後から兄を羽交い締めにする。
「えっ、ちょ、おいおいおいおいお、さよ!」
もういい。どうせこの兄は、数秒後には。
記憶を無くすんだから。
「フンッッッッッ!」
罪獣は肩を下げ、腰をひねると持ち上げていた車を、兄妹へと投げつける。飛んでくる車から、兄を盾にする。
気絶する兄。さよの手に、生暖かい温もりが伝う。
ドクンッ。
心臓が胸を突き破るように跳ねた。
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