氷焔の冒険者~元ヲタは異世界で侍になるそうです~

不知火 氷雨

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第一章

2 敵との遭遇

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 歩き始めて数時間後、俺は途方に暮れていた。

「だぁぁぁぁっっ!!なんだよ、これ!何処見ても木、木、木じゃないか!道とかないのかよ!」

 そう、いくら歩いても道らしきものが見当たらないのだ。
周囲を取り囲むのは鬱蒼と茂った木々だけ。他には時折、モンスターらしき声が聞こえて来たり、近くを何かが通り過ぎる気配したりするくらいだ。

「はぁはぁ......お、落ち着け。落ち着け、俺。こんなところで体力を消費していられない。とりあえず栄養補給だ......」

 その場に座り込み、ウ○ダーインゼリー(マスカット味)を取り出して飲み干す。

「ふぅ......あ?」

 軽く水分補給もして落ち着いた時、何処からか視線を感じることに気付く。それも複数だ。周囲を見渡すと、ある一角の木々の隙間からトカゲ?のような顔がいくつも覗いていた。
 俺はその顔の明らかに有り得ないサイズに思わず叫びそうになった。

「おいおい......洒落にならないって......」

 リュックを背負い、視線を逸らさずそろりそろりと立ち上がる。
 ど、どうする?戦うか?いや初戦闘が一対多なんてのはリスクが大きすぎる。よし、こういうときは......

「......逃げるんだよォォォォッッ!」

 そう叫び(小声)、クルッと方向転換して走る、走る、走る。
ジョー○ター家の家訓がこんなところで役にたつなんて思ってもいなかったけど!
 背後からはギャアギャアという鳴き声と敵の足音らしき音がドスドスと聞こえて来る。感覚的にまだ距離はあるようなのでチラリと後ろを振り向く。

「ウッソォ......」

 そこには人とトカゲを足して二で割ったようなモンスターが、十体近く走って来ていた。

「......運悪すぎじゃないか?俺」

 しかもどうやら彼らの方が若干足が速いらしく少しずつ距離を詰められているようだ。

「クソッ! このままじゃ、いずれ追いつかれてやられてしまうだけだ。
どうにかしないと......」

 だが、どうする?数ではあっちが圧倒的に有利。身体能力もかなり高く見える。対するこちらは武器はあるが、不慣れ。身体能力も以前よりかは上だが勝てる自信はない。.....あれ?詰んでない?
 せめて弱点とか向こうの情報を知っていたら......って情報?

「それがあった......!何も変わらないかもしれないが、何もしないよりかはマシだ!」

 再度、振り向きモンスターを視界に入れる。
先程よりも近づいていることに恐怖を感じ、身体は強張るがお構いなしに「鑑定」をする。
 瞬間、視界にウィンドウが現れ、敵の情報を表示する。


種族:リザードマン

光沢のある灰色の鱗で覆われた大柄な身体にリザード系の顔立ちをした亜人型のモンスター。並みの刃物など通さない防御力と常人の身体など一撃で再起不能にしてしまうほどの怪力をもつ。基本的に数十匹単位で洞窟などに集落を形成していているが、外に出て狩りを行うのは5~7匹ほどの戦闘部隊だと言われている。また視力が弱い、しかし並外れた嗅覚で獲物の位置を把握する。


 ウィンドウの出現を確認すると同時に前を向いて走り出す。視界に浮かべたままのウィンドウから情報を読み取っていく。習性...弱点...なんでもいい。なにかこの状況を打破できるようなものはないか......?
 情報の中に信じたくないようなものもあった気がするが、気にしちゃいけない。
 やめたくなる気持ちを押さえ、とにかく読み進めていく。

「......あった!並外れた嗅覚で......か」

 ようやく見つけた情報をもとに作戦を組み立てていく。現在、リザードマンとの距離は約20メートルほどだ。一瞬でも気を抜けば追いつかれてしまうだろう。一方、俺の体はトレーニングの成果かこの世界に来た為かはわからないがほとんど疲れていない。後先考えなければよりスピードを上げることもできるだろう。
 そこまで考えてなんとなくリザードマンを倒すための道筋が掴めたように思う。確信はないし、それに伴う技術もないため、かなり一か八かの賭けになるだろうが。

「まぁ......やってみますか」

 俺はその場で立ち止まり、大きく深呼吸をする。クラウンチングスタートの姿勢を取り、肺から空気を押し出しながら全身の血液を脚へと送り込むようなイメージで力を貯めていく。そうこうしているうちにリザードマンたちは10メートルほどに距離を詰めていた。焦る気持ちを抑えて俺は弾かれたように走り出した。あまりの急加速に倒れそうになるが、何とか踏ん張り走り続ける。どうやら本気で走るとかなりのスピードが出るようだ。後ろをチラリと盗み見るとどんどんリザードマンとの距離が離れ、リザードマンたちが見えなくなっていく。立ち止まって確認するが、姿は見えないし距離を取れたようだな。

「よし......こんなものかな」
 
 辺りを見渡し、ちょうどいい広さの空間と隠れられそうな場所を探す。

「......ここがいいな」

 視線の先には、ぽっかりと口を開けた見晴らしのよい空間とそのすぐ近くに隠れられそうな立ち枯れた木があった。
 そして目立つところにリュックを下ろし、中身を広げる。服も脱ぎ、刀は動きを阻害しないように一本のみを抜き身で持つ。そして鞘ともう一本の刀も邪魔にならないように置いておく。傍から見れば俺は半裸に抜き身の刀のみというおかしな出で立ちをしていることだろう。だが...これでいい。こうすることで俺は動きやすくなり、広場には俺の匂いが染みついたものが置けるというわけだ。後は奴らが荷物などの匂いを俺自身だと誤認してさえくれれば隙を作ることができるだろう。
 周囲の植物を体に擦り付け、体臭を消してから近くの立ち枯れの木へと向かう。そのまま広場の様子を確認できる位置に隠れ、息を潜める。

 隠れ始めてすぐ、地に響くような足音が聞こえてきてリザードマンらが姿を見せた。俺は緊張と恐怖で全身から汗が吹き出し、心臓が痛いくらいに拍動している。今にも飛び出してしまいたいが、自分の腕をきつく握りしめ、冷静さを保つ。
 どうやらうまくいったようでリザードマンたちは俺には気付かず、荷物のほうへ向かったようだ。だがしかし、おそらく不意を突いたとしても当てられるのは一撃から三撃までだろう。ここから確認できる限りでは奴らの総数は七体、つまり一撃で一体葬ったとしても残りは四体......。そこからは、まぁ、なるようにしかならないだろう。

(とにかくやれる限りのことをするしかないな......)

 そう、俺は決意を固め、戦闘へと赴く。

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