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第一章

17 疑念の答え

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「――――失礼しました。お見苦しいところをお見せしましたね」
「い、いえ。大丈夫ですよ」

 あれから十分ほどだが、体感では何時間にも感じられた。わりと、説教って居合わせた人も辛いよね。
 隣のアリアは、某ボクシング漫画のように真っ白に燃え尽きている。

「それで、"特別冒険者試験"についてでしたね。これはですね、Bランク以上の冒険者からの推薦があれば受けることが出来る文字通り"特別"な試験です」
「なるほど、というかアリアのランクって......」
「聞いていないのですか?」
「ええ、まぁ」

 あんまり自分のことを話さないんだよな、師匠の時から。
 ギルドに来た時、いろいろと聞こえてきた気もするが......。

「こんなのでも一応、Bランクですよ」
「確かに、こんなの・・・・でもですね」

 二人でクスリ、と笑いあう。その笑顔はとてもきれいで思わず、見惚れてしまう。
 そしてお互いに気恥しくなり、どちらともなく顔を逸らす。

「そ、それでですね」
「は、はい! 」
「普通、冒険者になるには申請と登録料のみで良いんです」
「......やっぱり 」

 おかしいとは思ったんだ。もし、こんなに難易度の高い試験を受けなきゃいけないなら、冒険者なんて不人気な職業だろう。しかし、現実には俺たちがギルドに入った時のように、この街には多くの冒険者がいた。
 それが示すところは、人気......とまではいかないものの普通に成り立っている職業だということだろう。

「えっと、それで基本は最低ランクのHランクからのスタートとなります」

 聞けば冒険者には、高い順にA~Hのランクがあり、依頼をこなしたり、新種の魔物を発見したり、または試験と様々なことで実績を積んでランクが上がって行くそうだ。また、例外的に相応の実力を持つーーー例えば一人で軍隊に敵することが可能な人間などは、Sランクに認定されるそうだ。世界に数人とか聞こえはいいが、体のいい危険人物指定ではなかろうか。
 そして、ここで出てくるのが俺が受けた"特別冒険者試験"ということだ。

「先程も言いましたように”特別冒険者試験”というのは、Bランク以上の冒険者の推薦により 受けられるのですが、これには幾つかの利点があります。まずひとつ、それなりに高いランクからスタートできる。ふたつ、相応の実力があるとギルドに直接示せるため、信頼を獲得しやすい。みっつ、上位の実力を持った人間との顔つなぎをしやすい、などです」

 俺も、今回の試験に合格したからその恩恵を受けられるというわけだ。
 そういう方法で合格したというだけで、ある意味のネームバリューがあるのだろうし。

「......?」

 ふと、後ろから覚えのある視線を感じた。
 振り返ると、ふくれた顔をしたアリアがこちらを見ていた。

「お、戻ってきたな」
「むぅぅぅぅ......!!」
「な、なんだよ!?」
「何、私をほったらかしてミライアと楽しそうに話しているのさ!」
「はぁ!? 」

 こいつは何を言っているのだろうか。俺たちは普通に、冒険者について話していただけだぞ?
 それに――――。

「――――元はといえば、お前が悪いんだろうが」
「うっ......!」
「お前が勝手にそんなことしなければ、こんなふうに色々とややこしいことにはならなかったのに」
「そ、それは、だって、簡単に冒険者なれるってなったらサボりそうじゃない。これはソウジくんのために涙をのんで、行ったことなんだから!」
「そうか。それだったら仕方ない......」
「で、でしょ!?」
「......訳ないだろーが!」

「――――いい加減にしなさいっ!」
「「おわぁ!? (ふぇっ!?)」」

 ギャーギャーと俺たちは長らく言い合っていたが、やはりというかなんというか、ミライアさんに叱られてしまった。

「もう......あなた達の仲がいいのは十二分にわかったわよ」
「「だれとだれがっ!?」」
「アリアとソウジさんが」
「「はいっ!?」」
「ほら」

 声を合わせる俺たちをみて、そら見たことか、という顔をするミライアさん。
 俺たちは言い返すに言い返せず、顔を見あわせて黙るだけだった。
  
「さて、続きを話します」
「あ、はい」
「ソウジさんはこの度、Eランクとして合格しましたね?」
「はい、そう聞きました」
「本来、特別冒険者試験に合格したとしても一個下のFからとなっています。しかし、今回、グランさんの強い要望と私から見た評価を統合し、Eとなったのです」
「......グランさんが」
「はい。そして、ランクEとは下積みの時代を経験して、一人前として扱われるランクです。ですので、いきなりそこになったソウジさんは、なかなか下積みから抜けられない人たちや苦労してそこまで辿り着いた人たちからは良い印象を持たれないと思います」
「それは......」

 俺たちの世界でいえば、会社のコネでいきなり係長とかに配属されたやつみたいなものか。
 そりゃ良い印象なんてないだろう。

「一方で、今回の審査員だったグランさんは公明正大、きっちりした人だと冒険者時代から有名だった人です。そのグランさんが合格、そしてEランクに推したとなれば、グランさんのことを知っているベテランの人たちからはかなり一目置かれる存在になることでしょう」

 一目置かれるって、そんなに大した人間じゃないから戸惑うな......。

「その辺が理解できましたか?」
「はい」
「では、いよいよ登録と参りましょう」
「はいっ!」

 俺はその言葉に強い返事を返し、大きく頷いた。
  

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