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7 場違い女
しおりを挟む貿易港を出発して半日以上が経過した頃、私を乗せた魔獣車はある屋敷の前で止まった。
「アシュリー様。長旅でお疲れでしょうし、今晩はこちらの屋敷で休息をお取りください」
そろそろ日没ということもあり、ノクス団長はほかの騎士団員にも野宿の準備をするよう指示を出し始める。
私はというと、シュバルツィア公爵家が管理する屋敷の部屋を使わせてもらうことになった。
「皆さん屋敷で過ごされないのですか? 私よりもずっとお疲れでしょうし」
「心配ご無用です。我々はあくまでも護衛であり、屋敷周辺の警護も重要な任務ですので」
「…………」
「私の顔になにか?」
「あっ、いえ! そうではなくて、ええと」
騎士然と接してくる彼と、貿易港で出発前に盗み聞きした際の彼の口調があまりにも違いすぎて、ついまじまじと見つめてしまった。
心なしが不信感漂う眼差しを向けられている気がしたので、私はべつの話題で誤魔化すことにした。
「あの、ノクス団長。港では、申し訳ございませんでした」
「え?」
「教団の者があなたがたを軽んじた件です。あのような不遜な態度は決して許されません。本当はもっと早くお伝えすべきだったのですが……」
そこで一度言葉を止め、私は周囲を見回す。ぽかんと口を開けてこちらを窺っていた騎士団員たちにもそっと頭を下げた。
「皆さんにもお詫び申し上げます。大変失礼をいたしました」
私の謝罪ひとつで鬱憤が晴れるほど簡単な問題ではないのだろうけれど、謝れる状況でそれをしないのはなんだか違う気がして。
こうして関わる以上は、私も自分にできる精一杯の誠意を見せるべきだと思ったのだ。
それが吉と出たか凶と出たかは正直わからないけれど、ほんの少しだけ私を目にする眼差しの圧が緩んだような気がした。
とはいえ、やっぱり私をよく思っていない人はどこにでもいるようで。
「──公爵様に嫁いできたっていうレグシーナ教の聖女、典型的な箱入り娘って感じじゃない?」
「ちょっと押しただけで倒れそうなほどひ弱そうよね。帝国じゃ貴族令嬢でもあったらしいけど、そんな頼りない女がシュバルツィア公爵家の公爵夫人になるだなんて、とんでもない場違い女だわ!」
「そうよそうよ。というか、どうして魔女様を信仰する私たちが、聖女の世話なんてしないといけないのよ」
その晩、喉が渇いてベッドから抜け出した私は、屋敷に勤める女性使用人たちの会話を偶然耳にしてしまった。
(場違い女……場違い女、かぁ。確かに)
シュバルツィア公爵がレグシーナ教団の聖女を妻にしたという事実は、すでに巷では話題になっているらしい。
もちろんシュバルツィア公爵家が管理する屋敷に勤める彼女たちも知っていたことなのだろうが、会話の内容を聞いていると聖女を必要とする理由まではわかっていないようである。
(大結晶に綻びがあるってことは機密事項なのかしら。聖女との婚姻も、単純に対立関係の緩和が目的だと思われているようだし)
本当は聖女でもなく、神聖力をほぼ扱えない私は間違いなく諸侯たちからすると「場違い女」だと言える。
そして、そんな事情を知らなくとも、シュバルツィア公爵家の特性を知る領民たちは、聖女云々に加えて箱入りの貴族令嬢だと思っている私のことをシュバルツィア公爵夫人にふさわしくない「場違い女」と揶揄しているのだった。
(でもそれって、離婚を申し出るには絶好の状況とも言えるのかしら)
不特定多数の人々から悪印象を持たれていることにまったく心が傷つかないと言えば嘘になるけれど、やっぱり気分的には微妙である。
(聖女の私のお世話は相当嫌みたいだけど、その"魔女様"も、私のことなんだものね……)
大結晶の修復のために私を娶ることを決めたシュバルツィア公爵や、各諸侯たちも魔女信仰者らしいが、やっぱり彼らも私の存在は相当不本意なのだろうと思う。
「私が信仰する魔女だと知ったらどんな反応をするのかしら。まあ言わないけど」
水を頼める雰囲気でもなかったので、大人しくベッドに戻った私は、ぼんやりそんなことを呟く。
言ったところで信じてもらえるか微妙だし、なによりも私の目的は今度こそ人生を余すことなく自由に謳歌すること。前世のようなしがらみに囚われてしまっては元も子もない。
(……魔女だったことすべて苦しかったとは言わないけどね)
私を心から慕ってくれたあの子に出会えたのも、魔女時代の大切な記憶である。
(そういえば……私が死んだあと、あの子はちゃんと自分の人生を歩んでくれたのかしら)
魔女の付き人としてではなく、あの子自身の人生を。
そうだったら嬉しい。それだけでも千年前、命を賭したことに意味があると思えるから。
──翌日、ノクス団長から行き先を『魔女の都』に急遽変更する旨を告げられた。
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