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①
しおりを挟む「またお姉ちゃんがあたしのアクセサリーを盗んだの! どうして亜美の嫌がることばかりするの……っ」
大好きだったおじいちゃんが亡くなり――私、西ノ宮 依十羽は、今年から高校生になる。
そして今日も妹に濡れ衣を着せられていた。
「私……取ってないよ。亜美の部屋に入ったこともないのに」
広い邸宅の食堂には、朝食を摂るお父さんとお義母さん、そして壁に控えた使用人がいる。
私は無実を伝えるけれど、誰も信じていないようで冷めた瞳をこちらに向けていた。
「またお前は、いい加減にしないか」
「だから嫌なのよ、薄汚い泥棒猫のような真似をする子なんて」
特にお義母さんの視線はとてつもなく鋭い。嫌われているので仕方がないと思いつつも、怖いものは怖いのだ。
「あたし、知ってるんだよ? お姉ちゃんがあのネックレスを羨ましそうに見てたの……言ってくれたら、あげたのに」
「羨ましいなんて思ってないよ」
あんなにゴテゴテとした宝石だらけのネックレス、欲しいだなんて思っていない。イタズラ好きのあやかしに狙われそうだなぁとは、考えたけれど。
だけど今回は、イタズラとは違うみたい。
「嘘ばっかり……!」
亜美に強く押されて、私はその場に勢いよく尻もちを着いた。
顔をあげると、俯いた亜美がにやっと笑ったところを目撃してしまう。
周りが気づいていないのをいいことに、お得意の嘘泣きを始めてしまった。
「…… 依十羽、お前はしばらく部屋を出るな」
「私はなにもっ」
「人に迷惑ばかりかけておいて、悪びれもなくなにを言っているんだ!! これ以上、何かしでかしたら今度こそただじゃおかないからな!!」
聞く耳を持たず、お父さんは席を立つと食堂を出ていってしまう。
私は何もしていないのに。
けれど、このやるせなさは慣れっこだった。
だって私は、この家に来てからというもの、一度だって話を聞いてもらったことがない。
私はこの屋敷の使用人として働いていたお母さんと、手を出したお父さんとの間にできた子ども。
お腹に私がいると知ったお母さんは、屋敷を出たあとに出産し、その後はおじいちゃんの家で一緒に暮らしていた。
三歳の頃、お母さんは交通事故に遭い亡くなり、私が中学に上がる頃にはおじいちゃんも病気でこの世を去った。
そのあと、私の存在を知ってお父さんがこの西ノ宮家に迎えたのだけれど。
もちろん歓迎されるはずもなく、お義母さんと亜美は私を心底疎んでいる。
それは、確かに仕方がないとも思う。
だったら私のことは無視してくれていいのに、存在が気に入らないのかいびり続けてくる。
「……はあ」
食堂をあとにした私は、屋敷の一階の隅にある物置部屋に入った。
ここが私の部屋で、長いこと過ごしてきた場所。
物置部屋といっても、この広い屋敷の物置なのでそれなりに大きい。
けれどある物といえばベッド、机、椅子、クローゼットくらいで、私物はほとんどなかった。
「…………やることがワンパターンなんだから!!」
物置部屋に人が来ることはまずない。
それをいいことに私は溜まりに溜まった鬱憤を声に出すことで発散していた。
今朝の濡れ衣は可愛いものだ。
ひどいときは狭くて暗い部屋に閉じ込められ、食事抜きは日常茶飯事、そして使用人たちからの体罰は今でもある。
でも、辛いとか悲しいとか、怒りなどの負に近い感情に支配されてはいけない。
そうなれば呪力が溢れ出してしまい、周りの人たちに影響を及ぼしてしまう可能性がある。
だからおじいちゃんは、いつどんな時でも平静さを忘れないでと口酸っぱく言っていた。
「それに、私にはこの御守りも、この子たちもいるから……大丈夫」
血が繋がっているといっても、お父さんは他人と変わらない。父親という存在に期待していた頃もあったけれど、もう諦めはついている。
気分が落ち込んだとき、私を支えてくれたのは、おじいちゃんから貰った五芒星を模したペンダントと、このふたりだ。
『イト、また小娘にひどい目に合わされたの? コンたちが凝らしめてやりゅのに』
『しょうだよう。ガマンはよくないよう』
ポンッと音を立てて現れたのは、もふもふとした手のひらに載せられるぐらいの毛玉が二つ。
それぞれに耳と尻尾があり、丸々としているけど、れっきとした妖怪。
区別としては、人の姿を象った者をあやかし。怪異的な姿の人外は妖怪としてわかりやすいように分けられている。
白毛の妖狐コンと、黒毛の妖狸ポンは、私が幼い頃に式神召喚で契りを交わした妖怪。
こんなふうに小さくなっているとき、コンは「ら行」が、ポンは「さ行」が拙くなる。
そんなところも可愛いくて、いつも癒されていた。
「今日はネックレスを盗られたって言われただけだから」
『ねっくれしゅ?』
ポンがこてんと首を傾げる。
そして隣にいるコンと目配せをすると、一緒に私の手のひらで宙返りをした。
「え、これって……亜美のネックレス?」
たった一瞬で、手には宝石がはめ込まれたネックレスが現れる。
驚いてふたりを見ると、どちらもへへんと得意げな顔をした。
『さっき廊下で、小娘のそばにいる女のポケットかりゃ落ちた』
『イトに見しぇようと思って、持ってきたんだよう』
やっぱり盗んだなんだというのは濡れ衣だった。
亜美のそばにいた女、というのは亜美の専属メイドのこと。
食堂での亜美の様子からすると、メイドが持っていることを知っていてあんなことを言ったんだ。
というより、亜美がメイドに持たせたのかもしれない。
そこまでして私を貶めたいのかと思うけれど、これまでも似たようなことをされてきたんだから不思議じゃなかった。
「とりあえず、そのメイドさんのポケットに戻してきてくれる?」
このままでは本当に盗ったことになってしまうので、そうお願いする。
コンとポンは揃って頷くと、ネックレスと一緒に姿を消した。
あの子たちのことだから、うまくメイドのポケットに入れてきてくれるだろう。
「こんな調子で大丈夫かな。……来週から学園に通うのに」
ふたりがいなくなった部屋で、私はついため息をこぼしてしまう。
壁に掛けられた真新しいグレーのブレザーを見て、先が不安になってしまった。
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