魅了体質な鬼のあやかしは、隠れ陰陽師にご執心。

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 人妖じんよう学園。
 名前のとおり人とあやかしの国立共学校で、充実した設備と広大な敷地を有している。

 世界ではじめて設立された人間とあやかしの学校ということで、歴史深く誰もが憧れる場所だ。

 そして人妖学園は、どの学校よりも推奨されて行われていることがある。

 それが、人間とあやかし同士が結ぶ「番契約」だ。

 番とは、いわゆるパートナーのことであり、契約を交わすことでその二人は強い間柄で結ばれる。

 相手を思いやり、相手を慈しみ、相手を受け入れる。そうすることで強固な絆となった番は、人間とあやかしの血を混じらせ種族間で広げていく。

 人間とあやかしの婚姻が公的に認められるようになり、あやかしたちは自身の血を色濃く繁栄させる番を求めるようになった。

 あやかしが求める血の繁栄は、妖力を持たない人間と交わることでうまくいくとされている。

 何色にも染まっていない純粋な器が人間は、妖力のあるあやかしからすれば力が混じりやすい存在なのだ。

 昔は生贄としてあやかしに嫁ぐ人間も多かったと聞いているけれど、このご時世はもはや争奪戦である。

 より上位のあやかしと番になることは、人間にとって、特に女子からするととてつもないステータスだった。


 ***


 人妖学園に入学して、一週間が経った。


「あっ、ごめ~ん。全然見えてなかった」


 廊下を歩いていると、前から歩いてきた女子とぶつかる。
 じんわりと痛みが残る肩を押さえてその子を見ると、にやりと意地の悪い笑みを浮かべていた。

「でも、あんたが悪いのよ? また家でも亜美に嫌がらせをしたらしいじゃない」

 周りにも聞かせるように大声で言ったその人は、中学でも亜美の取り巻きのひとりだった。
 その隣にいる子も同じく、中学から私に嫌がらせをしていた。

「ていうか、あんたがこの学園に入れるなんてなにかの間違いじゃないの?」
 
 鼻で笑われ、いつものように見下される。
 周りにいた生徒たちの目は、驚いたような反応もあるけれど、ほとんどが軽蔑的に私を見ていた。

 もうそこまで亜美お得意の根回しがされているのかと、呆れてしまう。


「私が入学できたことが、何よりも証明だと思うけど」

 身分も家柄も問わない人妖学園には、一つだけ規定がある。
 それは、ある程度の妖力に体が受け止められるかということ。
 これはあやかしが持つ妖力が作用して、体調不良や妖力酔いを起こさないための安全措置だ。

 つまりこの学園への入学が認められた人間は、少なからず妖力に耐性があるということ。

「だから、それが間違いだって言ってんだよ!」

 今度はさらに強く肩を押され、体勢を崩して床に転がってしまう。
 狙ったのか、背中に当たった飾り棚から大きな花瓶が落ちる。私は頭から水を被り、花瓶も割れてしまった。


「あんたなんかが番契約できるわけないだろうし、身の程を知る前に早く退学しちゃえば?」

 そう言って二人は笑い声をあげながらその場を去っていく。

 周囲から強く突き刺さる視線は、同情よりも私を避難するものが多く、居心地は最悪だった。


「依十羽お姉ちゃんっ!」


 そのとき、廊下の先から私を呼ぶ声がした。亜美だった。


「どうしたのお姉ちゃん? 誰にやられたの?」

 心配そうな顔をして駆け寄った亜美は、ハンカチを取り出すと濡れた髪を拭いていく。

 傍から見れば優しく手を差し伸べられている光景だけど、私にだけ見えるように亜美は「ざまあみろ」と嘲笑していた。

 こういうところが、本当にたちが悪い。

「触らないで」
「きゃっ」

 さすがに少し頭にきてしまい、私は亜美の手を払いのけた。

 ハンカチが床に落ち、亜美は目を大きく広げている。


「ど、どうして……お姉ちゃん。あたし、どうすればお姉ちゃんと仲良くなれるの?」

「やめてくれる? そういう心にもない言葉を聞いていると、寒気がするから」


 ざわりと周りに批判の声が広がった。

 私も馬鹿だなとは思う。何も言わなければ事が大きくなることはないのに、歯向かってしまうなんて。

 でも、黙っていたところで状況はそんなに変わらない。
 中学時代。黙りに徹していた結果が、さっきの取り巻きをたくさん生んでしまったんだ。

 だからもう、高校では亜美の思う通りには動かない。そう決めていた。


「ひどい……お姉ちゃん、そんな」

 亜美が涙目で見つめてきた。
 私はその顔から背けるように、亜美が来た方向とは反対の廊下を歩いていく。

 これできっとまた印象は悪くなった。

 傍観気味だったあやかしの生徒たちも、亜美を同情的な目で見ている。

 昔から亜美にはそういうところがあった。
 他人を惹き付けて、意のままにするような不思議な力。

 呪力とは違うから、魅力ということなんだろうか。

 実家は名の通った企業グループを束ねる西ノ宮家。
 その可愛らしい容姿も合わさって、彼女は自分が特別なお姫様だと疑わない。


 私はいつになったら、亜美から解放されるんだろう。
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