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10.声 ①
しおりを挟む小さな建屋の改修と改造が終わるまで、私は持ち込む本や生活用品を吟味していた。
最小限に、楽しく過ごせる、そんな物をリスト化している。
「欲しい物はそれだけか?好きな物を買えばいい。」
「物が多いのも落ち着かないので、この位でいいかなと思っています。」
後ろからひょいっと顔を出したジークハルト様は、リストをふむふむと覗き込む。
「アリシアは欲がないのだな。」
「欲を出しても手に入らないものが、世の中にはありますから…自分の立ち位置や境遇を弁えているだけです。」
あ…ちょっと嫌味っぽいかな?と思い、ジークハルト様を見上げる。
「良かったら、今から買い物に行くか?カシウス殿からお茶の誘いが来ていたし。姉妹の再会も、ちょっと久しぶりだろ?」
「……そうですね…行きましょう。」
先程の嫌味は、訂正も言い訳もしない。
そして、この人は気にもしていない。
リシアンヌに逢いたいのだと察してしまった。
珍しいなと思ったら、その為の買い物なんだろう。
お飾りの夫人は、目立たぬよう同行する。
必要な物を買い、待ち合わせの場所に着いたら、背を向けたカシウス様がいた。
「お待たせしましたか?」
話し掛けるとカシウス様が驚く。
「あ、アリシア夫人でしたか。リシアと声がそっくりで、一緒間違えてしまいました。昔は気付かなかったけど、声がよく似てますね。あ、リシアはちょっと遅れるそうなのですが、まもなく来るでしょう。」
そんな話をしていると、リシアンヌがやって来た。
「遅くなって申し訳ありません!さあ、中に入りましょう。ここは、ブルーベリーのケーキといちごムースが絶品らしいですよ?」
愛らしいリシアンヌにカシウス様もジークハルト様も微笑む。
私だけが口元を少し歪めただけだった。
ダメだ、これじゃ。
この場では満面の笑みが必要だ。
透明な仮面は、笑顔の形を造る。
カフェでの会話は、リシアンヌとカシウス様の結婚の話に終始した。
私の結婚で、リシアンヌの結婚話が複雑になっているようだ。
やはり公爵家と子爵家では難しいのだろうか。
「二人が愛し合っているなら、お父様とよく相談しなさいね。応援してるから。」
リシアンヌとカシウス様は力強く頷いたが、ジークハルト様の眉がピクリと動いたのを、私は見逃さなかった。
そのままカフェを後にして、ジークハルト様と私は馬車で帰路についた。
ジークハルト様は、少し疲れたなと居眠りを始める。
私は、狸寝入りで知らぬ振りをする。
どうして私の勘はこういう時に冴えるのだろう。
自分自身が恨めしい。
もし、リシアンヌ達が婚約破棄になったら、ジークハルト様は私と離縁して公爵家に帰し、リシアンヌを娶りたいと言い出すだろうか。
先程の様子からは窺い知れない。
新たな不安に胸が押し潰されそうだ。
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