9 / 21
9.衝動 Side ジェスター
しおりを挟む
二十六歳まで仕事一筋で来てしまった、ある日。
俺は、取り引き先の招待で、ある侯爵家のパーティに顔を出した。
そこで、ミラと出会った。
正確には、見つけた!と思った。
ミラは、背はそこそこ高いが、顔立ちや立ち姿がローズに似ていた。
ただ、とても健康的で明るい令嬢だった。
目が離せず、しばらく魅入ってしまう程に、俺はミラに惹かれた。
(ローズに似たあの子が欲しい…)
そんな衝動に駆られ、俺はその令嬢のことを調べた。
その令嬢は、シュバルツ侯爵家のミラ令嬢だった。
十八歳、婚約者無し。
俺はすぐさま求婚書を送った。
初めて顔を合わせた時、ローズよりもずっと表情豊かなミラに釘付けになった。
ミラの絹糸のような繊細で艶やかな金髪と、キラキラ輝く翠眼に、俺は心臓が落ち着かなくて困った。
幸い、ミラは俺を気に入ってくれて、無事に婚約し、結婚式を挙げることになった。
ミラに快適な暮らしをして欲しくて、邸も改修工事をし、家具も新たに買い揃え、俺達は幸せになる筈だった。
ローズが現れるまでは。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「静養していた叔母が、わざわざ結婚式に来てくれるの!綺麗で優しくて、すっごく大好きな叔母なの!!」
にこにこと笑うミラに、ほっこりしながら俺はその日を迎えた。
まさか、その叔母がローズだとは思いもしなかった。
義母になるフローラの一番上の姉、マーガレットの邸に滞在するということだし、俺とミラの仮住まいの別邸には今日一日だけ、ほんの数時間、そこにいるだけだと思っていた。
(ミラには、過去の話はしたくない。ローズと関わるのは、今日の数時間と、結婚式の時だけだ。)
そう思っていた俺の予想や願望は、ミラの妊娠で想定外の展開を迎えた。
悪阻が酷く、誰か傍に付いていた方がいいという話で、まさかのローズが名乗りを上げた。
皆が良い案だと頷く中、俺は一抹の不安を覚えた。
そんな不安を抑え切れなかったのか、ローズと再会した日に、ミラの純潔を奪ってしまった。
ミラを抱きたい気持ちは、結婚式後の初夜まで我慢するつもりだった。
しかし、ローズが訪問した日、不安に取り憑かれ、俺の決意は呆気なく崩れてしまった。
ミラを抱いていると、俺が安心出来る。
そんな我儘な衝動に、ミラが気付いていたのだろうか。
一度体を繋げてしまえば、何度でも欲しくなり、底なしの欲望と快楽に身を沈める。
最初は痛がるだけだったミラが、日を追うごとに俺に反応し、恥ずかしそうに求めてくる姿が嬉しかった。
だから、俺はただ幸せだった。
しかし、悪阻の為にローズが別邸に滞在するようになって、俺の平穏に影が射した。
事あるごとに、ローズが俺と二人きりになろうとする。
息抜きの為に庭園に出れば付いてくる。
イライラを抑えて、ふらりと躱して逃げ続けた。
しかし、俺のストレスが限界になった時、ローズに寄りを戻そうと告白され、それをミラに見られていた。
俺は、ミラの表情が硬いことには気付いていたが、結婚式前にナーヴァスになっているのだろうと、たかを括っていた。
そして、結婚式の夜も。
一人にしないでと縋るように言ったミラの言葉を、俺は可愛いで済ませてしまっていた。
酔い覚ましに部屋を出て、ローズと遭遇した時は、酔いに任せてキツく言ってやる位の気持ちでローズの滞在する部屋に行ってしまった。
ローズを引き剥がそうとした手は、ミラには抱き締めているように見えたのだと、ローズを突き飛ばさなかったことを後悔した。
今となれば、己の愚かさを悔やんでも悔やみ切れない。
どの日も、どの瞬間も、俺がちゃんとミラに全て話していたら、ミラは俺を信じてくれただろう。
振り返れば、淡く苦い初恋よりも、ミラと過ごして積み重ねてきた愛の方が、俺には何よりも大切だ。
ミラ、お願いだ。
叶うなら、言い訳からさせてくれ。
そして、心から詫びさせてくれ。
ミラが許してくれるなら、俺はどんなことでもする。
命に代えても君と子を守る。
だから、ミラ、どうか目覚めてくれ。
愛していると、もう一度、俺に言わせてくれ。
ーーーーーーーーーーーーーー
本エピソードの最後の『命に代えても君と子どもを守る』につきまして
有名な作品で『命に替えても』という漢字表記されていることは存じ上げておりますが、この作品中では、敢えて『代えても』を選択しました。
ジェスターにつきましては、一読者として読んだ時に、自らを『犠牲』にしても愛する人を守りなさいという気持ちがあります。
また、以下をご覧いただけましたら幸いです。
「命に代えても」、「命に替えても」、「命に換えても」の3つの表現は、いずれも正しい日本語表現です。
ただし、それぞれの表現には微妙なニュアンスの違いがあります。
例えば、「命に代えても」は、自分の命を犠牲にしてでも、何かを守り抜くという強い決意を表します。
一方、「命に替えても」は、「自分の命と引き換えにしてでも、何かを守り抜く」という意味合いがあります。
また、「命に換えても」は、「自分の命を犠牲にして、何かを手に入れる」という意味合いがあります。
以上のように、3つの表現は、微妙なニュアンスの違いがあるものの、いずれも正しい表現です。
参考にさせていただいたURL
https://novelup.plus/story/980848111/777749881
俺は、取り引き先の招待で、ある侯爵家のパーティに顔を出した。
そこで、ミラと出会った。
正確には、見つけた!と思った。
ミラは、背はそこそこ高いが、顔立ちや立ち姿がローズに似ていた。
ただ、とても健康的で明るい令嬢だった。
目が離せず、しばらく魅入ってしまう程に、俺はミラに惹かれた。
(ローズに似たあの子が欲しい…)
そんな衝動に駆られ、俺はその令嬢のことを調べた。
その令嬢は、シュバルツ侯爵家のミラ令嬢だった。
十八歳、婚約者無し。
俺はすぐさま求婚書を送った。
初めて顔を合わせた時、ローズよりもずっと表情豊かなミラに釘付けになった。
ミラの絹糸のような繊細で艶やかな金髪と、キラキラ輝く翠眼に、俺は心臓が落ち着かなくて困った。
幸い、ミラは俺を気に入ってくれて、無事に婚約し、結婚式を挙げることになった。
ミラに快適な暮らしをして欲しくて、邸も改修工事をし、家具も新たに買い揃え、俺達は幸せになる筈だった。
ローズが現れるまでは。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「静養していた叔母が、わざわざ結婚式に来てくれるの!綺麗で優しくて、すっごく大好きな叔母なの!!」
にこにこと笑うミラに、ほっこりしながら俺はその日を迎えた。
まさか、その叔母がローズだとは思いもしなかった。
義母になるフローラの一番上の姉、マーガレットの邸に滞在するということだし、俺とミラの仮住まいの別邸には今日一日だけ、ほんの数時間、そこにいるだけだと思っていた。
(ミラには、過去の話はしたくない。ローズと関わるのは、今日の数時間と、結婚式の時だけだ。)
そう思っていた俺の予想や願望は、ミラの妊娠で想定外の展開を迎えた。
悪阻が酷く、誰か傍に付いていた方がいいという話で、まさかのローズが名乗りを上げた。
皆が良い案だと頷く中、俺は一抹の不安を覚えた。
そんな不安を抑え切れなかったのか、ローズと再会した日に、ミラの純潔を奪ってしまった。
ミラを抱きたい気持ちは、結婚式後の初夜まで我慢するつもりだった。
しかし、ローズが訪問した日、不安に取り憑かれ、俺の決意は呆気なく崩れてしまった。
ミラを抱いていると、俺が安心出来る。
そんな我儘な衝動に、ミラが気付いていたのだろうか。
一度体を繋げてしまえば、何度でも欲しくなり、底なしの欲望と快楽に身を沈める。
最初は痛がるだけだったミラが、日を追うごとに俺に反応し、恥ずかしそうに求めてくる姿が嬉しかった。
だから、俺はただ幸せだった。
しかし、悪阻の為にローズが別邸に滞在するようになって、俺の平穏に影が射した。
事あるごとに、ローズが俺と二人きりになろうとする。
息抜きの為に庭園に出れば付いてくる。
イライラを抑えて、ふらりと躱して逃げ続けた。
しかし、俺のストレスが限界になった時、ローズに寄りを戻そうと告白され、それをミラに見られていた。
俺は、ミラの表情が硬いことには気付いていたが、結婚式前にナーヴァスになっているのだろうと、たかを括っていた。
そして、結婚式の夜も。
一人にしないでと縋るように言ったミラの言葉を、俺は可愛いで済ませてしまっていた。
酔い覚ましに部屋を出て、ローズと遭遇した時は、酔いに任せてキツく言ってやる位の気持ちでローズの滞在する部屋に行ってしまった。
ローズを引き剥がそうとした手は、ミラには抱き締めているように見えたのだと、ローズを突き飛ばさなかったことを後悔した。
今となれば、己の愚かさを悔やんでも悔やみ切れない。
どの日も、どの瞬間も、俺がちゃんとミラに全て話していたら、ミラは俺を信じてくれただろう。
振り返れば、淡く苦い初恋よりも、ミラと過ごして積み重ねてきた愛の方が、俺には何よりも大切だ。
ミラ、お願いだ。
叶うなら、言い訳からさせてくれ。
そして、心から詫びさせてくれ。
ミラが許してくれるなら、俺はどんなことでもする。
命に代えても君と子を守る。
だから、ミラ、どうか目覚めてくれ。
愛していると、もう一度、俺に言わせてくれ。
ーーーーーーーーーーーーーー
本エピソードの最後の『命に代えても君と子どもを守る』につきまして
有名な作品で『命に替えても』という漢字表記されていることは存じ上げておりますが、この作品中では、敢えて『代えても』を選択しました。
ジェスターにつきましては、一読者として読んだ時に、自らを『犠牲』にしても愛する人を守りなさいという気持ちがあります。
また、以下をご覧いただけましたら幸いです。
「命に代えても」、「命に替えても」、「命に換えても」の3つの表現は、いずれも正しい日本語表現です。
ただし、それぞれの表現には微妙なニュアンスの違いがあります。
例えば、「命に代えても」は、自分の命を犠牲にしてでも、何かを守り抜くという強い決意を表します。
一方、「命に替えても」は、「自分の命と引き換えにしてでも、何かを守り抜く」という意味合いがあります。
また、「命に換えても」は、「自分の命を犠牲にして、何かを手に入れる」という意味合いがあります。
以上のように、3つの表現は、微妙なニュアンスの違いがあるものの、いずれも正しい表現です。
参考にさせていただいたURL
https://novelup.plus/story/980848111/777749881
734
あなたにおすすめの小説
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない
たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。
あなたに相応しくあろうと努力をした。
あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。
なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。
そして聖女様はわたしを嵌めた。
わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。
大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。
その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。
知らずにわたしはまた王子様に恋をする。
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
【完結】裏切られた私はあなたを捨てます。
たろ
恋愛
家族が亡くなり引き取られた家には優しい年上の兄様が二人いました。
いつもそばにいてくれた優しい兄様達。
わたしは上の兄様、アレックス兄様に恋をしました。
誰にも言わず心の中だけで想っていた恋心。
13歳の時に兄様は嬉しそうに言いました。
「レイン、俺、結婚が決まったよ」
「おめでとう」
わたしの恋心は簡単に砕けて失くなった。
幼い頃、助け出されて記憶をなくして迎えられた新しい家族との日々。
ずっとこの幸せが続くと思っていたのに。
でもそれは全て嘘で塗り固められたものだった。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
【完結】愛してました、たぶん
たろ
恋愛
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
あの人のことを忘れたい
ララ愛
恋愛
リアは父を亡くして家族がいなくなった為父の遺言で婚約者が決まり明日結婚することになったが彼は会社を経営する若手の実業家で父が独り娘の今後を託し経営権も譲り全てを頼んだ相手だった。
独身を謳歌し華やかな噂ばかりの彼が私を託されて迷惑に違いないと思うリアとすれ違いながらも愛することを知り手放したくない夫の気持ちにリアは悩み苦しみ涙しながら本当の愛を知る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる