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10-2.宿での夜 -抱き締められるー
しおりを挟むしばらくして、背中がふわっとあたたかくなる。
「サラーシュ、寝ちゃった?」
お風呂上がりのヴィルヘルム様が背中に抱き着いてきた。
「寝てませんよ。」
嘘です。
寝てました。
でも、ドキドキし過ぎて、顔が上げられない。
「サラーシュ、こっち向いて?」
「無理です!」
「こっち向かないと襲っちゃうよ?」
そっと顔を上げて、ヴィルヘルム様を見る。
「もう、勘弁してください。ヴィルヘルム様、やる事なす事めちゃくちゃです…どんな顔したらいいかも分かりません…」
ちょっと泣きそう。
ヴィルヘルム様は穏やかに笑って、私を抱き締めて言った。
「サラーシュはさぁ、自分だけ知らなかったって悲しかったでしょう?みんなが教えてくれなかったから寂しかったでしょう?そこで疎外感を感じる位なら、俺がサラーシュを貰ってもよくない?」
ヴィルヘルム様の真意がイマイチ分からない。
「貰うとか、物じゃないし。」
頭がぐるぐるする。
「言い方悪かったら、ごめんね。サラーシュと一緒にいたいんだ、俺は。ずっと前から好きだったから。」
ヴィルヘルム様は、私をすっぽり包み込むように抱き締めた。
「ずっと…好き…?何で…?」
そんなこと考えたことも無かった。
久々に会って、過去よりも親しげだったけど、とても感じの良い人だったし。
でも、それはあくまでも私の印象でしかない。
「俺はさ、サラーシュがリュシフェルを追い掛けてる姿を可愛いと思っちゃったんだよね。あんなにキラキラした笑顔で『好き』って真っ直ぐに伝えてきて。他の男が気を引いても全く相手にしない。ひたすら一途なサラーシュが眩しかったんだ。」
「私を可愛いなんて、ヴィルヘルム様って変わってます。その一途な結果が、周りが見えないただの愚か者ですよ…軽んじられてるから、誰も教えてくれなかったんですよ…要は、バカにされてただけじゃん。」
抱き締めるヴィルヘルム様の腕の力が更に強くなる。
「俺は、サラーシュがいいんだよ。一緒にいたら、きっといつもあったかい。浮気とかの心配も絶対ない。俺がちゃんと向き合えば、サラーシュはそれ以上に向き合ってくれそうな気がするんだ。だから、サラーシュ、俺といて?」
「買い被り過ぎですよ、ヴィルヘルム様。並み以下の容姿で、賢さもない。どこを見てもヴィルヘルム様に釣り合わない…ヴィルヘルム様のお気持ちは嬉しくもありますが、きっと一時的な感情だろうと…」
突然、むくっと起き上がるヴィルヘルム様が私の横に胡座をかく。
「言葉では伝わらないみたいだな。」
ヴィルヘルム様は、雰囲気がガラリと変わり、真顔で私を見下ろした。
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