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4.執事と侍女長の想い
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オーレリアが離れに住み始めて五日。
子ども達は興味津々のようだが、レオリックは誓約書を守り、オーレリアには遭遇していない。
私はこの状況を、先ず執事のファーガソンを始め、侍女長のクレシアに説明した。
「オーレリア様は、旦那様の大切なお方です。今十九歳で、来月二十歳のお誕生日をお迎えになるそうです。離れにお住まいになられますが、私や子ども達との交流は控えていただくよう、旦那様にはお願いしてあります。だからと言って、ご不便を感じてお過ごしになるようではお可哀想ですから、何があれば私か旦那様に相談してくださいね。」
説明の間、ファーガソンもクレシアも、ずっと私を真っ直ぐに見つめながら、眉間に皺を寄せたままだった。
「奥様は…それでよろしいのでしょうか…?」
ファーガソンが重い口を開くと、クレシアも続く。
「ご主人様は、何故…奥様と仲睦まじくお暮らしになられていた筈ですが…」
二人の顔を見ながら、私は困ってしまう。
「それは、私も不思議に思っているの。でも、半年も前からオーレリア様とはお付き合いされていたと仰るし、男爵家のご事情がおありなので、離れにお住まいになることも、既に決まっていることのようだったから…そのような兆候にも気付かなかったし。仕方ないのよ…」
「奥様…私は執事として、侯爵家に、奥様に仕える者として、これからも誠心誠意尽くして参る所存でございます。どうか、お一人でいろいろ溜め込まないよう、何なりとお申し付けください。」
「私もでございます。先代の侯爵様にお仕えしてから、ずっとこちらにお世話になって、お坊ちゃまのお小さい頃から存じ上げております。素直で優しい方でした。今は…お坊ちゃまのお心が分からなくはなりましたが、奥様にも大変良くしていただいております。ですから、頼りないかもしれませんが、私にも奥様をお支えさせていただきたく思います。」
侍女も付けず、一人で嫁いで来た私に、こんなにもあたたかい想いを寄せてくれる人達が居る。
私は胸がいっぱいになり、しばらく黙り込んでしまった。
「奥様、泣いてもよろしいのですよ?ファーガソンも私も、奥様のご両親様程の歳ですから。たまには、弱さもお見せくださった方が嬉しいのです。奥様は嫁いでいらしてから、ずっと頑張っていらっしゃいましたから…」
「クレシア……ファーガソンも…ありがとう…」
クレシアとファーガソンは、そっと私の肩に手を掛けて、涙が止まるまで傍に居てくれた。
両親にさえ抱き締められたことのない私が、レオリックに包まれ、その温もりを失うだろう今、まだ私を包んでくれる優しさがある。
私は侯爵家の為に、まだ出来ることがあると改めて気付き、この優しさと信頼に応えていこうと決意した。
そして、私の涙が止まった頃、リオラとリディアが執務室を訪ねてきた。
コンコンコンと早めのノックは、きっとリオラだ。
「はい、何かしら?」
「お母様、少しよろしいですか?」
リオラがひょっこりドアの隙間から顔を出す。
後ろにリディアも居る。
「よろしくてよ?お話があるの?」
「はい…」
「入ってらっしゃい、リオラ、リディア。」
九歳とはいえ、しっかり教育を受けさせてきたリオラとリディアは、淑女のような礼をして、執務室に入って来た。
「ファーガソン、クレシア、外していただけるかしら?」
双子達の気配を察して出て行こうとする二人をリヴィアが引き止める。
「駄目…ファーガソンとクレシアも居て?」
「リディアお嬢様、しかし私とクレシアは侯爵家の使用人でございますので…」
「いいから!一緒に居て!!」
「リオラお嬢様、リディアお嬢様、ここに居りますね。大切なお話でしょうに、一緒に聞かせていただく許可をくださり、ありがとうございます。」
リオラが強請るので、クレシアは安心させるかのように双子と手を繋ぐ。
「皆、ソファに座って、ゆっくり話しましょう。クレシア、お茶とお菓子の準備をお願いしていいかしら?リオラとリディアも、お腹が空いていると、感情の浮き沈みが激しくなりますから、落ち着いてお話ししましょう?」
「「はい、お母様!」」
クレシアが双子の専属侍女のコリンヌにお茶を準備させている間、双子達は私の両隣に座り、黙り込んで俯いていた。
その様子に、私は離れに住む人について、双子達が気付いたと感じ、この状況をどう説明するか、思考を巡らせた。
「さあ、お嬢様方、お茶が入りましたよ。リオラお嬢様のお好きなチョコレートとリヴィアお嬢様のお好きなガレットをお持ちしました。」
コリンヌが笑顔で差し出すが、双子達は神妙な顔付きのままだ。
「リオラ、リディア、お母様にお話って何かしら?」
「奥様、私は失礼いたします。」
「駄目!」
「コリンヌも居て!!」
「…っ!?」
その声を聞き、コリンヌはそっと部屋を出ようとしたが、またもや双子達は引き止める。
「リオラとリディアのお願いだから、コリンヌも座りなさい。」
「はい…畏まりました。」
ファーガソン、クレシア、コリンヌは並んで座り、どうやら双子達が信頼する者が集まったようだ。
「リオラ、リディア、お話を聞かせて?」
私は、右手でリオラの手を、左手でリディアの手を優しく握る。
リオラがはっと顔を上げ、口を開いた。
「離れに住む人は…お父様の大切な人ということは『愛人』なの…?」
「誰がそんなことを…」
私は、想像以上に双子達が情報が早いことに驚いた。
リオラはいつものような明るさもなく、リディアは更に思い詰めた顔をしている。
(誤魔化したら、きっと良くない方向に行くわね…聡い子達だし、本音で話した方が分かってもらえるわ。ファーガソン達も居るし、きっと大丈夫!)
私は腹を括り、双子達と向き合うことにした。
子ども達は興味津々のようだが、レオリックは誓約書を守り、オーレリアには遭遇していない。
私はこの状況を、先ず執事のファーガソンを始め、侍女長のクレシアに説明した。
「オーレリア様は、旦那様の大切なお方です。今十九歳で、来月二十歳のお誕生日をお迎えになるそうです。離れにお住まいになられますが、私や子ども達との交流は控えていただくよう、旦那様にはお願いしてあります。だからと言って、ご不便を感じてお過ごしになるようではお可哀想ですから、何があれば私か旦那様に相談してくださいね。」
説明の間、ファーガソンもクレシアも、ずっと私を真っ直ぐに見つめながら、眉間に皺を寄せたままだった。
「奥様は…それでよろしいのでしょうか…?」
ファーガソンが重い口を開くと、クレシアも続く。
「ご主人様は、何故…奥様と仲睦まじくお暮らしになられていた筈ですが…」
二人の顔を見ながら、私は困ってしまう。
「それは、私も不思議に思っているの。でも、半年も前からオーレリア様とはお付き合いされていたと仰るし、男爵家のご事情がおありなので、離れにお住まいになることも、既に決まっていることのようだったから…そのような兆候にも気付かなかったし。仕方ないのよ…」
「奥様…私は執事として、侯爵家に、奥様に仕える者として、これからも誠心誠意尽くして参る所存でございます。どうか、お一人でいろいろ溜め込まないよう、何なりとお申し付けください。」
「私もでございます。先代の侯爵様にお仕えしてから、ずっとこちらにお世話になって、お坊ちゃまのお小さい頃から存じ上げております。素直で優しい方でした。今は…お坊ちゃまのお心が分からなくはなりましたが、奥様にも大変良くしていただいております。ですから、頼りないかもしれませんが、私にも奥様をお支えさせていただきたく思います。」
侍女も付けず、一人で嫁いで来た私に、こんなにもあたたかい想いを寄せてくれる人達が居る。
私は胸がいっぱいになり、しばらく黙り込んでしまった。
「奥様、泣いてもよろしいのですよ?ファーガソンも私も、奥様のご両親様程の歳ですから。たまには、弱さもお見せくださった方が嬉しいのです。奥様は嫁いでいらしてから、ずっと頑張っていらっしゃいましたから…」
「クレシア……ファーガソンも…ありがとう…」
クレシアとファーガソンは、そっと私の肩に手を掛けて、涙が止まるまで傍に居てくれた。
両親にさえ抱き締められたことのない私が、レオリックに包まれ、その温もりを失うだろう今、まだ私を包んでくれる優しさがある。
私は侯爵家の為に、まだ出来ることがあると改めて気付き、この優しさと信頼に応えていこうと決意した。
そして、私の涙が止まった頃、リオラとリディアが執務室を訪ねてきた。
コンコンコンと早めのノックは、きっとリオラだ。
「はい、何かしら?」
「お母様、少しよろしいですか?」
リオラがひょっこりドアの隙間から顔を出す。
後ろにリディアも居る。
「よろしくてよ?お話があるの?」
「はい…」
「入ってらっしゃい、リオラ、リディア。」
九歳とはいえ、しっかり教育を受けさせてきたリオラとリディアは、淑女のような礼をして、執務室に入って来た。
「ファーガソン、クレシア、外していただけるかしら?」
双子達の気配を察して出て行こうとする二人をリヴィアが引き止める。
「駄目…ファーガソンとクレシアも居て?」
「リディアお嬢様、しかし私とクレシアは侯爵家の使用人でございますので…」
「いいから!一緒に居て!!」
「リオラお嬢様、リディアお嬢様、ここに居りますね。大切なお話でしょうに、一緒に聞かせていただく許可をくださり、ありがとうございます。」
リオラが強請るので、クレシアは安心させるかのように双子と手を繋ぐ。
「皆、ソファに座って、ゆっくり話しましょう。クレシア、お茶とお菓子の準備をお願いしていいかしら?リオラとリディアも、お腹が空いていると、感情の浮き沈みが激しくなりますから、落ち着いてお話ししましょう?」
「「はい、お母様!」」
クレシアが双子の専属侍女のコリンヌにお茶を準備させている間、双子達は私の両隣に座り、黙り込んで俯いていた。
その様子に、私は離れに住む人について、双子達が気付いたと感じ、この状況をどう説明するか、思考を巡らせた。
「さあ、お嬢様方、お茶が入りましたよ。リオラお嬢様のお好きなチョコレートとリヴィアお嬢様のお好きなガレットをお持ちしました。」
コリンヌが笑顔で差し出すが、双子達は神妙な顔付きのままだ。
「リオラ、リディア、お母様にお話って何かしら?」
「奥様、私は失礼いたします。」
「駄目!」
「コリンヌも居て!!」
「…っ!?」
その声を聞き、コリンヌはそっと部屋を出ようとしたが、またもや双子達は引き止める。
「リオラとリディアのお願いだから、コリンヌも座りなさい。」
「はい…畏まりました。」
ファーガソン、クレシア、コリンヌは並んで座り、どうやら双子達が信頼する者が集まったようだ。
「リオラ、リディア、お話を聞かせて?」
私は、右手でリオラの手を、左手でリディアの手を優しく握る。
リオラがはっと顔を上げ、口を開いた。
「離れに住む人は…お父様の大切な人ということは『愛人』なの…?」
「誰がそんなことを…」
私は、想像以上に双子達が情報が早いことに驚いた。
リオラはいつものような明るさもなく、リディアは更に思い詰めた顔をしている。
(誤魔化したら、きっと良くない方向に行くわね…聡い子達だし、本音で話した方が分かってもらえるわ。ファーガソン達も居るし、きっと大丈夫!)
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