19 / 90
18.強さと脆さと
しおりを挟むエミリオンとの皇立学園の特別試験の話をした翌日、私はレオリックに時間を取ってもらうよう、執事のファーガソンに頼んだ。
そして、朝から話すことになった。
「お忙しいところ、すみません。リオラとリディアのことでお話があります。」
「いや、今日はそんなに忙しくないんだ。それで、話とは?」
レオリックの執務室で、ゆったりお茶を飲みながら、私はエミリオンの提案を話した。
「エヴァンス公爵家が後ろ盾になると?」
「はい、家庭教師の派遣業もなさっていて、あの子達の学力も把握なさっているようでした。才能を伸ばし、人脈も広がるので、学園は良い場になりそうです。」
「そうか…エヴァンス公爵家ならば、やり兼ねないな。皇立学園や学院にもかなり出資していて、優秀な人材を皇宮に送り込んでいる。そもそも、エヴァンス公爵は皇弟殿下だったお方だからな。」
レオリックは、眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
私は、じっとそれを見つめるしかない。
「分かった。一度だけ特別試験を受けさせよう。まだ九歳だ。十二歳から普通に入学させることも出来る。しかし、才能があるならば、挑んでみるのも良いだろう。」
レオリックの出した答えに、私は安心した。
「承知致しました。このお話は、旦那様から双子達にお伝えしますか?」
「いや、君が伝えてくれ。俺からだと命令のように感じるだろう。正直、受からなくても仕方ないことにチャレンジするのだ。努力はして欲しいが、強いることはしたくない。」
その顔は、穏やかな表情に戻り、娘達を愛する父親の顔に見えた。
「ありがとうございます。きっと喜びますわ。」
私はレオリックに心から感謝し、微笑んだ次の瞬間、レオリックは意外なことを言い出した。
「しかし、エヴァンス公爵令息は、君に想いを寄せているのでは?」
「ーーっ!?そ、そのようなことは…」
「まあ、君がしっかりしていれば、おかしなことにはならないだろう。ブランフォード侯爵夫人としての立場を重々弁えているとは思うが。」
「もちろんですわ。」
「その言葉を信じよう。」
レオリックは、執務室に私を残して出て行った。
その背中は、何を考えているのか分からない。
(リオラとリディアに伝えなきゃね。)
私は、もやもやした気持ちを切り替えて、子ども部屋に向かうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「リオラ、リディア、お父様から特別試験を受ける許可が出ましたよ!」
「「ほんとーーー!?やったーーー!」」
「本当ですけど、一度きりのチャンスよ?特別試験に受からなければ、一般の入学まで待たなければならないし、学園に入学出来るかも分からないわ。家庭教師になるかもしれないし。」
「お母様、頑張ります!ねぇ、リオラ?」
「うん!リディアは大丈夫みたいだけど、私はいっぱい頑張らないといけないし。でも、頑張ります!!」
拳を握る双子達の意気込む姿が可愛らしくて、私は微笑ましい気持ちでいっぱいになる。
「エミリオン様にお手紙を書きましょう。速便で届けさせましょうか。」
「「はーい!!」」
双子達は、早速便箋を広げ、一生懸命手紙を認める。
「「お母様、出来たーーー!!」」
「早いわね!綺麗な字で書けたかな?」
九歳とは思えない程に綺麗な文字が並んでいた。
「エミリオン先生に習ったの!」
「えっ?」
「絵にはサインを入れるでしょう?だから、文字は綺麗に書きなさいって!」
一見がさつに見えそうなリオラは、自慢げに話す。
「そうなのね。よく書けているわ。直ぐに送りましょう。」
私は子ども部屋を出て、ファーガソンに手紙を託した。
エヴァンス公爵家までは近いので、きっと午後には届くだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
手紙を読んで、直ぐに飛んで来たと、エミリオンが夕方やって来た。
手には、私と双子達が並んで立つ絵姿のカードが三枚握られていた。
「三ヶ月、苦しい時もあるでしょうが、これを見ながら頑張って欲しいと思いまして。三人分描いてきました。」
「うわっ、素敵です!」
「エミリオン先生は、お父様から許可が出ると思っていたのですか?」
喜ぶリオラと冷静なリディア。
そっくりな双子なのに、こういう時、性格の違いが出て面白い。
「はい、予想はしていました。お嬢様達の為になることを、侯爵様が反対するとは思えませんから。特別試験に受かれば、とても名誉なことなのですよ。」
「うわっ、私、頑張らないといけませんね…」
「リオラ、私と一緒に頑張ろう?私だって、油断していたら受からないかもしれないし。二人で頑張れば、つらいことも楽しくなるよ!」
「うん!そうだね。エミリオン先生、よろしくお願いします!!」
「前向きでいいね!面接は大丈夫そうだ。学科のテストに力を入れて、一緒に頑張りましょう。」
「「はーい!」」
私は、リオラとリディアの若さを微笑ましくも、羨ましく見ていた。
(私が出来なかったこと、この子達が望むなら全てやらせてあげたいわ。)
小さな子ども達が何かに向かって行く姿を頼もしいと思いながらも、少し寂しさと申し訳なさを感じる。
そんなに早く大人になろうとしなくていい。
ゆっくり、ゆっくり、大人になればいい。
しかし、きっと双子達も思うところがあるのだろう。
私とレオリックの以前とは違う雰囲気を感じ取っている。
離れの大切な人についても、何も聞いてこない。
だからこそ、私は情けない母の姿は見せられない。
(リオラとリディアの為に、ここで私も頑張らなくては。ブランフォード侯爵夫人として、しっかりしなくては!)
私は、この時の決意が、後に脆く崩れる程に危ういものだとは想像もしていなかった。
624
あなたにおすすめの小説
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない
たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。
あなたに相応しくあろうと努力をした。
あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。
なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。
そして聖女様はわたしを嵌めた。
わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。
大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。
その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。
知らずにわたしはまた王子様に恋をする。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
誰も愛してくれないと言ったのは、あなたでしょう?〜冷徹家臣と偽りの妻契約〜
山田空
恋愛
王国有数の名家に生まれたエルナは、
幼い頃から“家の役目”を果たすためだけに生きてきた。
父に褒められたことは一度もなく、
婚約者には「君に愛情などない」と言われ、
社交界では「冷たい令嬢」と噂され続けた。
——ある夜。
唯一の味方だった侍女が「あなたのせいで」と呟いて去っていく。
心が折れかけていたその時、
父の側近であり冷徹で有名な青年・レオンが
淡々と告げた。
「エルナ様、家を出ましょう。
あなたはもう、これ以上傷つく必要がない」
突然の“駆け落ち”に見える提案。
だがその実態は——
『他家からの縁談に対抗するための“偽装夫婦契約”。
期間は一年、互いに干渉しないこと』
はずだった。
しかし共に暮らし始めてすぐ、
レオンの態度は“契約の冷たさ”とは程遠くなる。
「……触れていいですか」
「無理をしないで。泣きたいなら泣きなさい」
「あなたを愛さないなど、できるはずがない」
彼の優しさは偽りか、それとも——。
一年後、契約の終わりが迫る頃、
エルナの前に姿を見せたのは
かつて彼女を切り捨てた婚約者だった。
「戻ってきてくれ。
本当に愛していたのは……君だ」
愛を知らずに生きてきた令嬢が人生で初めて“選ぶ”物語。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる