【完結】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい

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17.学びのススメ

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個展が終わり、私の執務室に飾る絵のデッサンの為に、エミリオンは毎日のようにブランフォード侯爵家に訪れるようになった。
私の執務の都合で、夕方訪れることが多い。
その時間帯であれば、双子達の勉強にも支障がないので、絵画の指導もそれに合わせるようにした。

「今日は絵姿のカードを持って来ました。リオラお嬢様のリクエストの海を背景にした物です。」

並べられた二枚のカードは、海を眺める私の横顔だった。
在り来たりな茶色の瞳と、煤けた茶色の髪は、あたたかな陽射しが当たり輝いていた。

「「お母様、綺麗!」」

「あら、髪も目もこんなに明るい色じゃないわ?もっと暗い色よ、私は。」

エミリオンはくすくす笑った。

「私には、こういうふうに見えているのですよ?髪も瞳もお美しいです。」

「ちょっ、何を!?」

「「きゃー、エミリオン先生ったら!」」

はしゃぐ双子達と慌てる私を見て、エミリオンは楽しそうだ。

「こうしてお嬢様達と一緒だと、ヴェリティ様の表情がくるくる変わって、画家の創作意欲が刺激されます。私は目に焼き付けた対象を持ち帰って、静かなアトリエで再現するタイプなので、ここでたくさんのデッサンが出来て嬉しいです。」

「エミリオン先生は、頭の中にいっぱいデッサンを貯蔵出来るのですね!私もお勉強したことが頭の中に保管出来たらいいのにー!」

「リオラは体を動かす方が得意だからね。それも凄いと思うよ!」

「リオラお嬢様の体幹や素早い動き、リディアお嬢様の思慮深く勤勉な姿勢は、どちらも素晴らしいですよ?
少し早いけど、皇立学園の特別試験を受けてみては如何ですか?
これからは、女性も才能を発揮する場が増えるでしょう。
ヴェリティ様のように、家庭教師ガヴァネスに指導を受ける令嬢も多いですが、学びながら人脈を広げられる学園も良いものです。
剣術や学問に特化した選択制の学部もありますから。
通常の試験なしの入学は十二歳からですが、特別試験の成績が優秀であれば、十歳から入学出来ますし、更に頑張れば、飛び級でもっと専門的な皇立学院に進めますよ。」

「リオラ、得意な剣術を伸ばせるかもよ?」

「リディアも好きなお勉強が出来るね!」

エミリオンの意外な提案に、双子達は目を輝かせたが、私は少し不安だ。

「しかし、皇立学園の特別試験を受けるには、この子達の実力が…それに、紹介状や後見となる保証人が必要と言われてますよね?ブランフォード侯爵家は、事業は盛んですが、そこまでの後ろ盾になってくださる高位貴族の方は…」

「私が居るではないですか。」

エミリオンは不敵に笑う。

「「「えっ!?」」」

私も双子達も、同時に驚く。

「エミリオン様が後ろ盾に…?」

「他でもない、リオラとリディアお嬢様の為ですから、エヴァンス公爵家が全面的に支援致しましょう。もちろん、不正に入学させることは出来ませんが、お嬢様達なら大丈夫だと思います。」

「……でも…」

「お母様!私、特別試験受けてみたいです。」

「私も!」

リディアとリオラは、やる気満々だ。

「そう来なくちゃね!私は皇立学院の卒業生だから、ついでに家庭教師ガヴァネスも兼務しようかなー。」

「エミリオン先生、頭も良いんだ!」

「すごーい!エミリオン先生に習ったら、私もリディアみたいに頭良くなるかなぁ?」

「それは、やる気次第です。努力は裏切らないし、努力し続けられることは、何よりも素晴らしい才能ですからね。どうしますか、チャレンジしてみますか?」

「「はい!やりたいです!!」

「ヴェリティ様はどう思われますか?」

急展開な話に、私は即答出来そうもない。
双子達は、侯爵令嬢なのだ。
レオリックに相談しなければ決められない。

「少し考えさせてください。とても良いお話だとは思いますが、私の一存では決め兼ねます…」

「そうですよね、急な話ですから。ただ、来年入学に向けた特別試験まで、そんなにたくさん時間がある訳ではありません。試験勉強に三ヶ月は最低でも必要です。」

「三ヶ月で大丈夫ですの!?」

「そこは経験者の知恵がありますからね。試験の為に必要なことだけ学べば、何とかなるものです。リオラお嬢様には、今から頑張っていただき、リディアお嬢様の知識なら今のままで楽勝でしょう。」

エミリオンは自信満々に語るが、私は疑問が浮かぶ。

「何故、リオラやリディアの能力まで、お詳しいのですか?」

「それは、私が副業で家庭教師ガヴァネスの派遣業をしているからです。」

「「「えーーーっ!?」」」

「くくっ、皆様同じ反応!私はただの絵描きじゃありません。一応、エヴァンス公爵家の人間ですから、優秀な人材は把握したいし、更に優秀な人材を育てたいのです。だから、レベルに見合った家庭教師ガヴァネスを選定して派遣しているので、お嬢様達の学力や能力は大体分かっています。」

「「エミリオン先生、怖っっっ!!」

双子達は、ちょっと引いている。
私は私で、絵の指導の割りには、毎回いろいろな知識を双子達に授けてくれるエミリオンに、こんな面があったからなのかと腑に落ちた。

「そこまでなさるなら、教育者としての道もあったのでは?」

私が尋ねると、エミリオンが笑い出す。

「あははっ、教育者という人格ではないのは、ヴェリティ様はよくお分かりでしょう?すぐ話はあちこち飛ぶし、真面目に一科目を教えるタイプではありませんから。」

「ふふふ、確かに!」

「笑うなんて酷いなぁ…」

珍しく膨れっ面をするエミリオンに、私も双子達も笑い合った。
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