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35.母娘の時間
しおりを挟む今朝は35話と36話の2話を公開してます
明日からは、また朝6時に1話ずつの更新に戻ります
ご了承ください( ´ ▽ ` )
2025.10.14 紬あおい
ーーーーーーーーーー
エミリオンが早急に手続きをすると部屋を出てから、私や双子達は久しぶりの母娘三人の時間を過ごしていた。
たまにはお勉強もお休みでいい。
私は、双子達を甘えさせたかった。
今は、リオラとリディアに用意された部屋で寛いでいる。
飾られた薔薇は、エミリオンが摘んできたのだろう。
優しい香りに包まれているようで落ち着く。
「学園では大変だったのね…」
私は、双子達の学園生活に配慮出来なかった自分を悔いていたが、努めて穏やかな表情を作る。
「お母様に心配を掛けたくなくて、黙っていてごめんなさい。
特別クラスで、騎士養成科や外国語科まで選択するのは珍しいみたいで…
一日何時間あっても足りない位に大変だったけど、リディアやジオルグも居たから大丈夫よ?」
「時間が足りない位なのに、わざわざ嫌味を言ってくる人も居てね。
エミリオン先生がちょくちょく気に掛けて、会いに来てくれたのを『エヴァンス公爵家に贔屓されてる!特別試験もズルしたんだろう!!』って言われたわ。
まあ、私もリオラも気にしないし、ますますやる気が出たわ!」
笑顔で双子達は話すが、ブランフォード侯爵家での生活では遭遇しない悪意に戸惑っただろう。
「リオラもリディアも偉かったわね。
人の噂や悪意に飲み込まれることなく、自分のすべきことに集中出来るって、本当に素晴らしいことだわ。
あなた達は、私の自慢の娘達よ。」
「えへへ、だってお母様みたいな大人になりたいもん!
あと、お母様よりも、ちょっと強くなりたい。
だから、私は騎士になりたいの。」
「そうそう!意地悪な人って顔に出てるからね。
そんな人にはなりたくないわ。
お母様みたいに、誰にでも優しい人になりたいの。
外国語を話せるようになれば、他の国の人とも触れ合えるし、広い世界を知りたいなぁ。」
リオラやリディアには、明確な目標があるようだ。
人に揉まれながらも、この子達は前を見ているのだなと胸が熱くなる。
「お母様は、おつらかったんですね…」
リオラがしゅんとするので、私は二人を抱き締めた。
「つらいって自覚がなくて…別につらくはなかったのよ?
コリンヌにお勉強を教えたり、気楽に過ごしていたの。
でも、あまり動かないから、お腹が空かなくて…
いつもの美味しいお料理なのに、食べる量が減ってしまったのね。
料理長のケビンには悪いことしちゃったわ。
そんなだから、熱が出るまで体調が良くないことも気付かなかったの。」
「お母様は我慢強いから、分からなくなっちゃったんですね…でも、コリンヌやエミリオン先生が動いてくれなかったら…」
リディアの目から涙が溢れ、リオラもつられて泣き出す。
「「おかぁさまぁーーー!」」
「ごめんね、ごめんね!」
「お母様が死んじゃったらって思ったら、怖かった!」
感情の起伏が少ないと思っていたリディアの方が、リオラよりも動揺していた。
人をよく観察するリディアは、普段から私に心配を掛けないように振る舞っていたのかと思うと、胸が痛い。
「リディア、お母様は大丈夫だから。リディアやリオラを残して死ねないわ!
ほら、可愛いお顔を見せて?ずっとずっと会いたかったの。」
リオラもリディアも顔を上げると、まだ十歳の幼子だ。
二人の涙で濡れた頬を手のひらで拭う。
「お母様の手はあたたかいね。」
「うん、ほっとする手だわ。」
やっと笑った双子達の頭を撫でると、照れくさそうにまた笑う。
「リオラ、リディア、愛してるわ。これからいろいろあるかもしれないけど、私はリオラとリディアのことが一番大事だから!」
「「うん!」」
「おやつ、食べようか!ここの焼き菓子、美味しいの!!お母様、太っちゃうかもしれないわ。」
「「もっと太っていいです!!」」
即答した双子達と、また笑った。
あどけない笑顔に、私は力をもらえているのだと改めて思う。
「ねぇ、お母様、もうお父様のことはいいの?」
クッキーを食べ終わると、リオラが口を開いた。
「お父様ね……お父様の方が、もう私が必要ないということなのかもしれないわ。」
戸惑いながらも、双子達には正直に話そうと私は思う。
「それなら、私やリオラも必要ないんでしょうね。
結局は、後継ぎとなる男の子が欲しかったのかな。」
リディアは寂しそうに呟く。
「ごめんなさいね…私が男の子も産めたら、こんなことにはならなかったのに…」
「違います!全部お父様の所為です。お母様は全然悪くない!!」
リオラが叫ぶと、リディアも頷く。
「優しいお父様だと思っていたのに、単なる女好きだったんです!恋愛小説に出て来る屑と同じだわ。」
「屑なんて言ってはいけませんよ。あなた達にとっては血の繋がったお父様なのだから。」
「それをなかったことのようにするのは、お父様の方だから…お母様と私とリオラは捨てられたのです。だから、許せません。」
「リディア…」
「リディアの気持ちと私も同じです。お母様、私も許せない。だけど、私達が幸せになって見返してやる!」
「リオラ…」
悲しみが憎しみとなり、双子達の心を縛り付ける鎖にならないよう、私は、私の生き様で双子達を導いていかなければならない。
レオリックが憎いかと聞かれたら、私には分からない。
十年という月日は、家族としては大切に思い合い、幸せだったからだ。
何も分からず、必死にブランフォード侯爵家に馴染もうとしていた私は、優しいレオリックを愛していた筈だ。
本当に?
初恋すら知らない私が?
それは愛だった?
一目惚れと言われ、急に結婚して、母になった私が抱いてきた感情は、愛だったのだろうか。
双子達を抱き締めながら、私は戸惑うのだった。
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