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37.目紛しさの中で
しおりを挟むグラナードは、こほんと咳をして、話を続ける。
「使用人達の雇用の話と、リオラやリディアの学園でのサポートにはグレイシアも加わる、これでいいな。
次はエミリオンとヴェリティの結婚の話だ。
もう、オーレリアとかいう平民の養子縁組の話は、サインするだけになっている。
受け先はガルシオン男爵家というが、まあ、直ぐにオーレリアはブランフォード侯爵と結婚するので、仮のものだ。
里帰りするような実家にはなり得ない。
その後、ヴェリティと侯爵の離縁書にお互いがサインして、離縁が成立する。
そして、即日、エミリオンとの結婚証明書にサインし、リオラとリディアも養子縁組してエミリオンの子となり、三人は正式にエヴァンス公爵家の人間となる。」
「えっ!?ちょっと待って、お父様!これって一日で全部済んじゃうってお話!?」
「また、お前か、グレイシア…そうだ、手続きは全て一日で完了させる。
陛下はお忙しいんだ。何日も拘束出来ないだろう?」
「っていうか、丸一日、拘束する気満々じゃないの!」
「ああ、その日、陛下はエヴァンス公爵家に来てもらう。ヴェリティや双子達にも会わせたいしな。何なら、皇太子も来るんじゃないかな。優秀な双子を見てみたいと言ってたし。」
私は、もう頭がパンクしそうな勢いだ。
予め、概要は聞いていたとは言え、あっという間に離縁し再婚するのだ。
「ヴェリティ、大丈夫か?」
エミリオンが心配そうに顔を覗き込む。
「…はい…あまりにも目紛しくて、目が回りそうです…」
「父上、ちょっとヴェリティを庭園に連れ出していいでしょうか?リオラとリディアも、ヴェリティを借りていい?」
「私は構わないが…」
「エミリオン先生、お母様をちょっと休憩させてあげてください。」
「私やリディアは大丈夫です。」
「そうか。では、ヴェリティ、ちょっと抜けよう。」
エミリオンは、私の手を取り、応接間を出た。
ゆっくりゆっくり、労るように歩幅を合わせ、庭園に向かった。
ガゼボに着くと、エミリオンと隣同士で座る。
「ヴェリティ、急な話ですまない。」
私の手を包み込むエミリオンのあたたかい手にほっとする。
「いえ、謝らないでください。
どうしていいか分からない私を、双子達と共に、エヴァンス公爵家の皆様に助けていただくのですから。
ただ、ちょっと頭が追い付いていなくて、目が回りそうでした。」
「うん、そうだよな。父上の行動の早さには、俺もちょっと驚いた。
でも、俺としては凄く嬉しい展開なんだ。
ヴェリティを妻に娶れるなんて、夢みたいだ。」
「エミリオン様…でも、私…」
エミリオンは、私の唇を人差し指で止めた。
「本当に私でいいのかって、もう言わないで?
俺はヴェリティしか望んでいない。過去にも恋人すら居ない。
あの日からヴェリティだけなんだ。
ここまで話が進んでから言うのも何だけど、俺と結婚してください。
生涯ヴェリティとリオラとリディアを大切にして、愛していきます。
白い結婚にする気はないので、ヴェリティとの子も欲しいです。
でもその時、俺は、その子とリオラやリディアを差別することはありません。
ヴェリティを愛し、どの子も愛することを誓います。
だから、ヴェリティ、俺の妻になってください。」
エミリオンは、真っ直ぐに私を見ている。
そして、双子達も大切に愛すると言ってくれている。
嬉しいと思う反面、やはり気に掛かることもある。
(今思うことを正直に伝えよう。)
「エミリオン様のお気持ちに、今直ぐ『私も愛しています』と応えるのは、やっぱり難しいです。
書類上のこともあったりするので…
でも、手続きが済んだら…私の気持ちをお話し出来ると思います。
だから、もう少しだけ待っていただけますか?
気持ちを伝える前に結婚て、変かもしれないけど…」
今、エミリオンに愛していると応えられなくても、このときめきは恋ではないかと私は思った。
「ああ、もちろんだ。今更焦る気はないよ。ヴェリティが話したくなったらでいい。」
そう言って、エミリオンは私の頬に口付ける。
「本当は唇に触れたいけど、ヴェリティの気持ちを聞いてからにする。」
私の気持ちを優先してくれるエミリオンに、胸が熱くなる。
「エミリオン様はお優しいのですね。」
「そんなことはないよ。ヴェリティに良く思われたいだけだ。」
くすくす笑うエミリオンに、何度目かのときめきを感じる。
(あぁ…この気持ちは何だろう…あたたかくて、胸がドキドキしたり、ぎゅっとなったり…エミリオン様と居ると、何だか胸が騒がしい…)
そして、エミリオンに抱き締められながら思うことは、大切な人と愛する人は、きっと同じでいいのだということだった。
レオリックは、私を愛しているが、オーレリアも大切な人だと言った。
その時、愛する人と大切な人は別なのかと漠然と思ったし、いつしかその立場が逆転してしまったのかと残念にも思った。
しかし、今はレオリックの言い訳だったのだと気付いた。
エミリオンのように、触れられなくとも大切に愛してくれる人も居れば、レオリックのように、触れられる人が居ても、また別の人に触れたくなる人も居る。
実家のワーグナー伯爵家では、社交の場に出ることもなく、レオリックとの結婚を機に、外の世界に出たつもりでいたが、結局私は狭い世界でしか生きていなかったのだ。
「エミリオン様、私、堂々とあなたの隣に立てる人間になりたいです。」
「大丈夫、心配要らない。ヴェリティはヴェリティのままでいい。」
「私のまま…」
良い娘に、妻に、母に、侯爵夫人に、いつも何かにならなければと思ってきた私には目から鱗だった。
「そうだよ、今のままでいい。リオラとリディアを一番大切に愛するヴェリティでいい。
一つ注文をつけるとしたら、肩の力を抜いて、俺にも甘えて欲しい。それだけだ。」
「エミリオン様は、私を甘やかして、駄目な人にしたいのですね。ふふっ。」
「それいいな!いくらでも甘えて?駄目妻製造機にでもなろうかな。ククっ!」
「もう!また揶揄って!!駄目妻製造機って何なのよ!あはははっ!!」
「俺は本気だよ?ヴェリティをめちゃくちゃに甘やかしてあげたいんだ。」
コリンヌの言う通りだった。
エミリオンは、私を笑わせる天才かもしれない。
頑張っていれば、親も認めてくれる。
頑張っていれば、侯爵夫人として認めてくれる。
頑張っていれば。
頑張っていれば。
頑張って…
そう思って生きてきた私。
抱き締められたエミリオンの胸の中は、あたたかくて安らげて、私は初めて、頑張らなくてもいいんだと思えた。
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