【完結】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい

文字の大きさ
76 / 90

75.家族旅行 ③

しおりを挟む

それから馬車は順調に走り、グリーンベル湖に到着した。

「皆様、ここが陛下ご自慢の別荘です!伯父上も遊びに来ることも想定して建てたので、チェスなどのボードゲームが出来る部屋や、楽器を取り揃えた音楽室もありますよ。
外遊びなら、湖でボートも乗れますし、ピクニック用のテーブルや椅子もあります。
そして、公園にはブランコや巨大な滑り台まで!
滞在中は退屈しないと思いますし、食事などは使用人達が居ますので不便はないと思います。」

エルドランドは、しっかり案内役をするつもりだ。
一度しか訪れたことがないが。

「では、各自、動きやすい服装に着替えて集合しよう。ドレスではなく、平民男子みたいな服を用意してあるからな!」

着替える為に通された部屋は広く、それぞれのサイズで準備されていた。
ひと通り着替えが終わり見回すと、騎士服を着慣れているリオラ以外は、そもそもパンツスタイルは初めてで新鮮だ。

「グレイシア様もお義母様も、背筋がしゃんとされていて、スタイルが良くてお似合いですね!」

「ヴェリティ様こそ、すらりとした体型とキュッと上がったお尻がセクシーですわ!
しかも、お胸が大きい!!お兄様には気を付けてくださいね?」

「えっ…」

ヴェリティが苦笑いをしていると、ファビオラが雰囲気を変えた。

「女性は髪を一つにまとめましょうか。その方が遊びやすいでしょう?」

ファビオラの提案に皆頷くと、クレシアとコリンヌに気合いが入る。

「では、高めのポニーテールにしましょうか。男性陣がうっとりしてしまいますわね!」

濃いめのベージュのパンツに白シャツの女性陣は、シンプルな服装なのに、着飾った時に引けを取らない位、美しかった。

皆は色違いのリボンだったが、ヴェリティはポニーテールをエミリオンからもらった薔薇の髪飾りで留めた。

「それ、お兄様がヴェリティ様にプレゼントした髪飾りですよね?」

「エミリオン父様が絵のモチーフにしてるやつですよ!ねぇ、リオラ!!」

「そうそう!お母様の目尻の薄い黒子ほくろまで描かれてましたねー!!」

「うわっ!お兄様、キモっっっ!!」

「あの子、そんなところまで記憶してたのね…我が子ながら、ちょっと怖いわ…」

ファビオラとグレイシアは、じっとヴェリティの目元を確認し、ぶるっと震えた。

「おーい!支度は出来たかー?」

「「「「はーい!」」」」

玄関先に集まると、男性陣はそれぞれのパートナーに見惚れている。
そんな男性陣も、ベージュのシャツに黒のパンツスタイルが似合っている。

「ヴェリティ、似合うね。薔薇の髪飾りも付けてくれたんだ!」

「はい、大切な髪飾りですから。エミリオン様もお似合いです。」

見つめ合うヴェリティとエミリオンに、グレイシアが呆れる。

「ほんとに、呆れる位に仲良しね!さあ、行きましょう!!」

「リオラァァァ、リディアァァァ、じぃじと滑り台に行こう!!」

「「ちょっ、待ってください!」」

グラナードが双子達を両腕に抱えて走り出すと、エルドランドとジオルグがそれに続く。
ファビオラものんびり歩きながら、滑り台を目指しているようだ。

グラナードが付いているが、エミリオンは見渡せる範囲に遊具があるのを確認し、ヴェリティを湖へと誘った。

「俺達も散策しようか。リオラやリディアには、最強の護衛が三人も居るからな。
グレイシアはサイファと過ごすんだろ?」

「もちろん!!!」

エミリオンに被せるように答えたのはサイファだった。

「サイファは、まだ完全に治っていないのだから、私とのんびりしましょう?」

サイファの腕を取り、グレイシアはブランコへと歩き出した。
その後ろ姿を見ながら、ヴェリティとエミリオンも歩き出す。

「良い所ですね。空気も澄んでいるし。」

「そうだな。久しぶりにのんびりした気持ちになるな。
あっ、ヴェリティ、ボートに乗ろうか。」

「はい、初めて乗ります!」

エメラルドグリーンの湖に、真新しい白いボートで繰り出す二人。
ヴェリティは、また初めての経験をする。

「透明感のあるグリーンですね。でも、近くで見ると透明なのは何故かしら…」

余裕綽々でボートを漕ぐエミリオンは、幼な子のような疑問を持つヴェリティにほっこりする。

「光が水分子によって吸収されて、緑色の光が反射や散乱されることが影響しているんだよ。
あと大量発生した植物プランクトンとかね。
要は、藻だ!」

「なるほど。エミリオン様はやっぱり物知りですのね。私、何も知らなくて恥ずかしいわ…」

「そんなこと知らなくても、生きていけるさ。俺は無駄な雑学王でもあるしな。」

「いろいろ教えてくださいね、旦那様。」

「何でも聞いて?女心以外は学んできたから。」

「女心以外って、あはははっ!」

「湖の真ん中まで行ってみよう!」

エミリオンは、ヴェリティの可愛さに暴走しかけて反省しつつ、シャツの袖を捲り上げ、オールを漕ぐ手を早めた。
ヴェリティは、エミリオンの腕橈骨筋わんとうこつきんに見惚れていた。

(あの腕で、いつも抱き締められているのね…)

「ヴェリティ、どうした?」

エミリオンは、突然頬を赤く染めたヴェリティに気付く。

「あっ、いえ、そのっ、エミリオン様の、う、腕が逞しいなと…」

「ヴェリティにしては珍しく不埒なことを考えているな!?
今は煽ったら駄目だぞ?この旅行では、恋人らしいデートをするんだから。」

「…はい……すみません…」

「ーーーっ!?ほんとに不埒なことを考えていたのか?
寧ろ、嬉しいっ!続きは今夜たっぷりと!!」

「は、話が違います!旅行中は控えると!!」

「控えるとは言ったが、しないとは言ってない。」

揶揄うつもりだったエミリオンは興奮し、ヴェリティは藪蛇という言葉が頭に浮かぶのだった。

「ほどほどに…お願いします…」

「分かってるよ。たくさん想い出作りをしに来たのだから。」

「旅行って、こんなにのんびりと楽しいのですね。
どなたもお仕事することなく、ただ楽しんでいて。」

「まあ、エヴァンス公爵家は遊びも本気だからな。
見てごらん?父上、滑り台から転げ落ちてるよ。」

ぎゃーという叫び声の方を見ると、グラナードがでんぐり返しをしながら芝へと転がっていた。

「お義母様、大笑いなさってますけど、お義父様お怪我はないのかしら!?」

「ああ、大丈夫だろ。父上は頑丈だからな。
あれがリオラやリディアなら、飛んで行って様子を見るが、父上だから放っておこう。
ああいうのも、父上には気晴らしになるんだよ。
陛下のスペアとして生きてきた父上が、自分として過ごせるようになったのは、母上と結婚してかららしいからな。」

「そうでしたのね…お義父様、おつらい日もあったでしょうに、優しい方だわ。お義母様も。」

「それを言うなら、ヴェリティ、君もだ。」

微笑むエミリオンは、いつもヴェリティを認めてくれる。

「エミリオン様、ありがとうございます。大好きです。」

座ったまま前屈みになり、エミリオンにそっと口付ける。
理性と闘うエミリオンは、ぐっと我慢し、付き合い始めの恋人のような口付けを返した。

「俺も、ヴェリティが大好きだ。」

エミリオンとヴェリティは、肩を寄せ合い、エメラルドグリーンに輝く湖をしばらく眺めていた。
その美しさは、ヴェリティの心のアルバムの一頁に記された。
しおりを挟む
感想 252

あなたにおすすめの小説

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――? エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

処理中です...