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74.家族旅行 ②
しおりを挟む結局あの後、エミリオンに好き勝手され、ヴェリティが微睡んでいると、とんとんと肩を叩かれた。
「ヴェリティ、大丈夫?休憩と食事なのだが。」
「…あい、大丈夫でしゅ。」
「ぷはっ、寝惚けてるじゃないか。」
ふと我に返ると、エミリオンが整えてくれたのか、きちんとドレスも着ている。
「あっ、申し訳ありません…」
「いや、寝惚けたヴェリティも可愛いから!」
その時、トントンと馬車のドアがノックされた。
「お兄様、ヴェリティ様!」
内鍵を外し、エミリオンが顔を出すと、グレイシアがほっとしたような声で話した。
「ああー、良かった!お兄様のことだから不埒なことを仕出かして、ヴェリティ様がふらふらだったりして?と私が呼びに来たの!!」
「グレイシア…お前、自分の兄を何だと思っているのだ…?」
(その通りなのだが…)
「拗らせ執着男に、浮かれぽんちで不埒な野獣が追加された感じかしら?」
「……………お前…」
(間違ってはいないことが若干腹立たしい…)
ヴェリティはキャビン内でくすくす笑っているが、若干疲労の色が見えた。
「強ち間違ってはいなかったようね…まあ、仕方ないわね。食事にしましょう!」
(バレバレだな…クソッ、グレイシアめっ!!)
流石のエミリオンもグレイシアにはタジタジのようである。
「……ヴェリティ…行こうか。」
「はい!」
エミリオンにエスコートされ馬車を降りると、目の前には可愛らしいカフェを彷彿させるような食堂があった。
「エミリオン様、初めて連れて行っていただいたカフェに似たお店ですね?」
「気付いたか?同じ系列店の食堂なんだ。
ヴェリティとカフェでのデートをたくさんしたくて。
それに、リオラやリディアもあまりこういう店に行ったことがないだろう?
この旅行は、三人の初めてだらけの旅行にしたくて、父上や母上とも相談しながら決めたんだ。」
「いつの間に…お忙しかったでしょうに、ありがとうございます。」
目を潤ませるヴェリティに、エミリオンは頬を撫でる。
「だめだめ、笑顔が見たくて計画したのだから。
ほら、笑って?食事にしよう。」
「ふふっ!分かりました。」
食堂に入ると、皆は席に着いていた。
「お母様、この食堂凄いの!食べたことのないメニューがいっぱいです!!」
「リオラなんて、あれも食べたい、これも食べたいって欲張りなの!お母様、少し叱って!!」
笑顔の双子達に、グラナードは満足そうだ。
「全部注文してシェアしよう。今は貸し切りだし、椅子もテーブルもあるが、基本立食で好きに動き回っていい。
デザートもたくさん食べていいからな。
どれが美味いか、じぃじにも教えて?」
「「わーい!!お祖父様、だいすきっ!」」
ヴェリティは、久々に子どもらしく振る舞う双子達に胸が熱くなる。
ゆっくり大人になればいいと話してきたのに、あまりにも考え方が大人な双子達が心配だったからだ。
「ヴェリティ、この旅行はきっとリオラやリディアの大切な想い出になるわ。
この先、頑張らなければいけない時、必ず心の支えになる。
自分が大切に想う人達が、自分を大切にして、限りない愛情を注いでくれる人達なんだと信じられるって、とても素敵でしょう?
私達大人は、子どもが安心して飛び立ち、心が折れそうな時にも、安心して戻れる心の拠り所にならなきゃね。」
お皿を持って、目をきらきらさせた双子達を見ながら、ファビオラはヴェリティに語り掛ける。
「お義母様、こんな環境や時間を与えてくださって、ありがとうございます。
リオラやリディアが、どんなにエヴァンス公爵家の皆様を慕っているか…
それでも、あんな姿、私も初めて見ました。」
「そうね、今までの環境だと二人はヴェリティを守ることに必死だったかもしれないけど…
これからはエミリオンや私とグラナードがヴェリティを守るから、リオラやリディアは自分の道を切り拓いていけるわ。」
「すみません…守られてばかりで…」
「やだ、ヴェリティったら!そんなつもりじゃないのよ?
ヴェリティが傍に居てくれるから、エミリオンもまともな人間や父親になれたし!
グレイシアも、ヴェリティが居るからサイファと結婚出来るのよ?
ヴェリティが来てくれなかったら、エヴァンス公爵家の後継ぎ問題が勃発していたわ。
だから、ヴェリティは我が家の救世主なの。」
「お義母様…」
「さあ、そろそろ私達もいただきましょう!」
「はい!」
エミリオンがヴェリティを必要としてくれるように、ファビオラも、何度でもヴェリティがここに居ていいと言ってくれる。
頑張っても褒められたことがなかったヴェリティは、不思議な感覚に心があたたかくなった。
「お母様、この串焼き、美味しいの!」
リオラが差し出す串焼きは、初めて見る料理だ。
「ここには、こんなお料理もあるのね!でも、どうやって食べるの?」
「このままガブッと食べるんだよ!」
「お母様もリオラみたいに食べてみて!」
口の端にタレを付けた双子達は、十一歳の子どもの素顔だった。
「ほら、ヴェリティも食べてごらん!」
ヴェリティに串焼きを差し出すグラナードもまた、口の端にタレを付けたじぃじだった。
「お義父様、口の周りがっ!あははは!!」
「ん?ありゃー、これを美しく食べるのは無理だな!はっはっは!!
ヴェリティも思い切って食べろ!無礼講だからな、この旅行は!!」
「はい!美味しいです!!」
「ヴェリティ、こっちも美味いぞ?これは小さく切ったから、食べさせてやる!」
「えっ!?エミリオンさまっ?」
次々と目の前に差し出されるメニューを、ヴェリティは雛鳥のように口を開けて食べる。
(これでは、私が子どもだわ!)
しかし、周りを見るとグラナードやファビオラまで同じ状態だ。
あちこちで繰り広げられる『あーん』にヴェリティは吹き出した。
「何なんですか、この状況は!?ふふっ!」
「どうやら、相手に尽くしたい男共の集まりだな。」
「皆様、素敵な男性達ばかりですね。リオラやリディアも楽しそう!」
「愛しい人を笑顔に出来るなら、ここに居る男達は何だってやるさ。
遠慮なく甘えていいんだよ、ヴェリティ。」
「エミリオン様も、あーんして?」
「いいねー、俺にも食べさせてくれる優しい妻!」
その声に、逆あーんが周りで繰り広げられたことは言うまでもない。
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