77 / 90
76.家族旅行 ④ 〜それぞれの恋〜
しおりを挟むエヴァンス公爵家の家族旅行は、皆がたくさんの楽しい想い出を作り、もう最終日の夜となっていた。
「最後の夜は晩餐会だー!」
双子達と遊び、顔にまで擦り傷を作ったグラナードは、爽やかな笑顔で皆に告げた。
食堂には、鹿肉や猪肉、きのこ料理が並び、双子達は好き嫌いなく、いろいろな料理に舌鼓を打っている。
ヴェリティも初めて見る料理ばかりだが、エミリオンが勧める物を順に口にする。
「猪肉なんて、初めて食べました!」
「充分に下処理して、赤ワインで煮込むと美味いんだよな。俺、これ好き。」
「私もです。柔らかくて美味しいです!」
(相変わらず、可愛いな俺の妻は。食の好みが似てるのも嬉しいな。)
エミリオンは、またヴェリティの初めてを手にしてご満悦だ。
食後は思い思いに過ごすこととなり、双子達とエルドランド、ジオルグは音楽室に向かった。
「エルは、何か楽器は弾けるの?」
「ああ、ピアノでもヴァイオリンでも!」
エルドランドは、楽しげな曲を選び、リディアやリオラ、ジオルグに披露した。
「流石、皇太子殿下ね!」
素直に話すリオラを見て、ジオルグは少し悲しい顔をした。
「やらざるを得ない環境だったしな。俺はジオルグみたいに剣術に長けている方が男らしくていいと思うよ?」
エルドランドがジオルグを気遣っていることに気付き、リオラは反省した。
「ジオルグ、ちょっと話そ?」
「はい、リオラお嬢様。」
音楽室を抜け出したリオラとジオルグは、誰も居ない部屋に入った。
「リオラお嬢様、二人きりはまずいです。」
「ドアを少し開けておけば大丈夫よ。」
改めて二人きりになると緊張するが、リオラは思い切って自分の気持ちを話そうと思った。
「ジオルグは、出自を気にしているようだけど、私はジオルグが好き。」
「俺は…嫡男でもない、しがない男爵家の生まれです。
リオラお嬢様のことは大切に思っていますが、侯爵令嬢だったリオラお嬢様が、今は公爵令嬢となられて…
あまりにも身分が違います。どんなに大切な方だと思っても、将来的に結ばれるのは難しいかと思います。」
ジオルグの言うことは尤もだ。
今、ジオルグが双子達の護衛騎士をしていることすら奇跡なのだから。
しかし、そこで諦めるリオラではない。
「ジオルグ、大切だと思う気持ちと、好きだと思う気持ちを切り離さないで!
そんなのはブランフォード侯爵だけで充分よ…
私は、絶対にジオルグと結婚する。お祖母様と約束したの。
これから三年間頑張って、エヴァンス公爵家の騎士団を作れるように。
皆を護る騎士団に、ジオルグも居て欲しい。
だから、私と一緒にジオルグも三年間頑張って!!」
「エヴァンス公爵家の騎士団…騎士として認められれば、リオラお嬢様の傍に居られるのか…」
「そうよ、ジオルグ。私の隣はジオルグだけだから!」
「分かりました。俺もリオラお嬢様の隣に立てるよう頑張ります。」
「そう来なくっちゃ!」
ジオルグは、リオラの手を取り、指先に口付けた。
その手は小さいながらも剣だこが出来ている愛おしい指先。
「リオラ、好きだ…本当はずっと好きだった…」
ジオルグの口から紡ぎ出される甘い言葉に、リオラは胸が締め付けられた。
「私もジオルグが好き。出会った時から、ずっと好きだったの。一生ジオルグだけよ?」
まだまだ幼く、始まったばかりの恋は、この先も熱が冷めることなく、二人の心に燃え続けだろうと思えた夜だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、音楽室に残ったリディアとエルドランドもまた、二人の気持ちを確かめ合っていた。
「リディア、この前は急に皇太子妃にしたいなんて、皆の前で言っちゃってごめんね?」
「大丈夫よ?私こそ、利用するみたいな言い方で、ごめんなさい…」
「僕は本気だし、リディアが妃になってくれるなら、これから好きにさせるから大丈夫だよ。」
エルドランドは、穏やかな性格なので、特に急かしていない。
でも、リディアは自分の気持ちを伝えようと思っていた。
「私もエルが好きよ。エルは、最初からリオラと私の区別がついていたし、いつも私にいろいろ教えてくれるもの。
勉強しかないと思って、外国語を選択したけど、私はエルの隣に立てる人になりたい。
だから、これからもいろんなことを教えて?」
エルドランドの顔がぱぁっと明るくなり、リディアをそっと抱き締めた。
「もちろんだよ!皇太子妃教育もあるけど、きっとリディアなら余裕だよ。
母上には会ったことがないだろうけど、きっとリディアを気に入るよ。」
「皇后陛下は、どんな方なの?」
ジェスティン陛下には会ったことがあるが、皇后陛下は謎のままだった。
「母上はね、アルベーヌ伯爵令嬢だったんだ。
体が弱いから、公務も僕が代わりに父上とやってるんだ。
身分も高くないし、生まれつき心臓が弱いから、本当は周りは父上との結婚も反対したみたいなんだけど、先に結婚したグラナード伯父上が、エヴァンス公爵家が後ろ盾になるからと応援してくれて。」
「お祖父様、大活躍ね!優しい方だわ。」
「だから、リディアの出自は問題ないよ。
母上が会いたがっていたから、今度皇宮に来て欲しいな。」
「分かりました。是非、ご挨拶させてください。」
「了解です。僕のお嫁さん!」
エルドランドは、リディアを抱き締めたまま頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして、グレイシアとサイファも、グレイシアの部屋となっている客間でソファに座り、想いをあたため合っていた。
「グレイシア、本格的に結婚の話を進めようと思う。
今回、国王陛下の立場じゃなく、俺の父上として一年待ってくれたんだ。
グレイシアを必ず妃にしろって。
だから、俺が刺されても国と国の話にはならなかったんだろうし、寧ろ俺の勝手な判断だと怒られるかもな。」
「サイファが刺された時、本当に生きた心地がしなかったわ。
あの瞬間思ったの、私、サイファとずっと一緒がいいって。
例え、お兄様がヴェリティ様と結婚していなくても、私はサイファしか考えられないって。
実際には、言い方は良くないけど、お兄様がヴェリティ様を見初めなかったら、あの事件は起こらなかったんだけど…
だけど、お兄様がヴェリティ様を好きにならなきゃ、私もデルーミアに留学しなかった訳で、サイファを知らないままだったかも?
運命って分からないわね、ほんとに!」
「俺は、それでもグレイシアを見つけたと思うよ。
レイグラント帝国とデルーミア王国は、近しい関係だからな。
でも、あの勇ましいグレイシアを見ることはなかったのか…?
まあ、どっちでもいいよ、グレイシアと添い遂げられるなら。」
別れを覚悟した日もあった。
責任感だけで、エヴァンス公爵家を継ぐ道も考えた。
だけど、サイファと出会ってしまった。
複雑に絡まった運命の糸が解けた時、各々のパートナーは、何も代え難い存在となったのだろう。
「サイファ、愛してる。私をお嫁さんにしてください。」
「こちらこそ、俺を生涯唯一の伴侶にしてください。」
サイファはグレイシアに口付け、グレイシアもそれを受け止めた。
「グレイシア、傷はもう大丈夫だから、この先に進んでいい?」
グレイシアは、頬を染めて頷いた。
サイファが刺された後から意識が戻るまでの時間、不安と闘いながらグレイシアは誓ったからだ。
サイファの望みは何でも叶えようと。
「優しくしてね?初めてだから。」
「俺も初めてだ。怖かったら、すぐ言って?止めてあげられるか、分かんないけど。」
「サイファなら怖くないよ。」
微笑み合う二人、ゆっくりとお互いを確かめながら、忘れられない夜を過ごした。
ーーーーーーー
グレイシアとサイファの夜のお話は、何れスピンオフの『嫌われ悪女は俺の最愛』の方で公開しようと思います!(≧∀≦)
更新が滞ってますが、本編との兼ね合いで控えています
ご了承の程、よろしくお願い申し上げます
m(_ _)m ゴメンナサイ
709
あなたにおすすめの小説
私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた
まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う
ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――?
エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。
〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした
ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。
自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。
そんなある日、彼女は見てしまう。
婚約者に詰め寄る聖女の姿を。
「いつになったら婚約破棄するの!?」
「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」
なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。
それを目撃したリンシアは、決意する。
「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」
もう泣いていた過去の自分はいない。
前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。
☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m
☆10万文字前後完結予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる