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81.初めての結婚式
しおりを挟むいよいよエミリオンとヴェリティの結婚式当日。
身重のヴェリティの負担にならないように、細心の注意を払っての結婚式だ。
エヴァンス公爵家一同は、朝から馬車を連ねて、
セント・ヴァレル大聖堂に向かった。
イヴ・カルーレは、またまた大人数のアシスタントやお針子を引き連れ、朝から大聖堂でエヴァンス公爵家の皆と合流し、それぞれの支度を手伝った。
「さあ、仕上がりましたよ!ヴェリティ様、完璧な花嫁様ですわ!!」
鼻息荒く語るイヴ・カルーレに、ヴェリティはくすくす笑いが止まらない。
「ふふ、私ではないみたいです。これはイヴ様のお力のおかげですわ。本当にありがとうございます。」
「何をご謙遜を!?ヴェリティ様の魅力を引き出すのが私の仕事でございます。元々ないものは引き出せません!
周りの皆様のお顔をご覧になって?
皆様、見惚れてらっしゃるでしょう?」
「「お母様、本当にお美しいです!」」
「ヴェリティ様、お兄様よりも早く拝見出来て、まさに眼福ですわっっっ!お兄様は、最初ベール越しでのヴェリティ様ですからね。」
「そうよ、ヴェリティ。ふっくらしたお腹も、更にヴェリティの優しさに華を添えて、本当に神々しい位に綺麗だわ!」
「お義母様、それは褒め過ぎです。ふふ!」
双子達もグレイシアもファビオラも、聖母のようなヴェリティに目を奪われていた。
普通なら『授かり婚』の花嫁は、世間からの目も厳しいだろうが、ヴェリティとエミリオンは既に皇帝陛下から結婚の承諾を得て、一年近く経っている。
二度目の結婚を非難する者は、エヴァンス公爵家にはおらず、他家に非難される筋合いもない。
それを非難するということが、どういった結末を迎えるかは、既に静かに知れ渡っているのだ。
「さあ、お兄様の所へ参りましょう。首を長くして待っていらっしゃるわ!」
「はい、皆様、後ほど。イヴ様も参列してくださいますよね。よろしくお願いいたします。」
「私まで、ありがとうございます。」
イヴ・カルーレは参列しても、ヴェリティの家族は、そもそも招待すらされていない。
噂を聞き付けたのか、ワーグナー伯爵家からの打診はあったが、グラナードとファビオラは、ぴしゃりと撥ね付けた。
エヴァンス公爵家に取り入ろうという魂胆が、見え見えだったからだ。
この佳き日は、くだらない欲望は排除し、本当に心から祝福する者だけで祝おうと思ったからだ。
「扉の前までは、私とリディアがエスコートしますね?ベールがありますから、お母様はゆっくり歩いてください。」
「ちょっと変わった結婚式かもしれないけれど、扉が開いたらお父様が迎えに来ていますから、私とリオラと向かいましょう!」
「分かったわ。お願いね、リオラ、リディア。」
「「はい!!」」
双子達は宝物のようにヴェリティの手を取り、ゆっくり歩き出す。
「お母様、お腹の赤ちゃんと一緒に、お式を楽しんでくださいね!」
「私とリディアは、中でお待ちしてます。」
双子達の手がそっと離れ、お腹に優しく触れた後、係の者と式場へ入って行った。
(最初の結婚は、お式を挙げなかったから、二度目の結婚で初めての結婚式だわ。
緊張するわね…一度目はサインしただけだったもの…
レオリック様は今頃、遠くの地へ移住されたのかしら?
もうお会いすることもないでしょうね。)
微かに聞こえる牧師の開式の辞に耳を澄ましながら、ヴェリティはレオリックに、心の中で別れを告げた。
そうしてぼんやり考えていると、扉が静かに開かれ、そこには満面の笑みを浮かべたエミリオンが立っていた。
「ヴェリティ、お手をどうぞ。」
(あぁ、私の旦那様…誰よりも私を大切にして、愛してくれる人。)
純白のタキシードを見に纏い、大きな手を差し出すエミリオンに、ヴェリティの視界がぼやける。
「ほら、ヴェリティ、行こうか。もしかして、泣いてる?まだ泣くのは早いぞ?」
「ぁい…」
ぎりぎり涙を堪えて、ヴェリティはエミリオンとヴァージンロードを歩き出す。
参列者は、エヴァンス公爵夫妻、双子達、エルドランド殿下にジェスティン皇帝陛下とエレノア皇后陛下、サイファ王太子殿下に、イヴ・カルーレだった。
(あれは…皇后陛下…お体が弱くていらっしゃると伺っていたのに…)
ジェスティン陛下は笑顔で小さく手を振り、エレノア皇后も微笑んでいた。
エミリオンの腕がぷるぷるしているのは、きっとこのサプライズ・ゲストにヴェリティが動揺していることに気付いたからだろう。
(エミリオン様ったら!夜はお仕置きだわっ。)
それでも、だんだんと落ち着いてきたヴェリティは、エミリオンと祭壇の前に立った。
澄んだ歌声の讃美歌斉唱、牧師の聖書の朗読や祈祷が厳かに行われ、誓いの言葉と指輪の交換へと進んでいく。
「新郎エミリオン・エヴァンスは、新婦ヴェリティ・エヴァンスを妻とし、今日から未来永劫、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、愛し、慈しみ、死が私たちを分かつまで、あなたに誠実を誓いますか?」
「はい、誓います。」
「新婦ヴェリティ・エヴァンスは、新郎エミリオン・エヴァンスを夫とし、今日から未来永劫、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、愛し、慈しみ、死が私たちを分かつまで、あなたに誠実を誓いますか?」
「はい、誓います。」
エミリオンもヴェリティも、お互いを真っ直ぐ見つめて誓い合う。
「では、目に見える誓約の印として、指輪を交換します。
先ず、新郎が指輪を手に取って、新婦の左手薬指にはめ、次に、新婦が新郎の左手薬指にはめてください。」
牧師に促され、エミリオンはヴェリティの指に、ヴェリティはエミリオンの指に、それぞれ指輪をはめた。
エミリオンの指先が少し震えていたが、ヴェリティが一瞬優しく握ると治まった。
ヴェリティもまた、緊張して指先が震えるがエミリオンも優しく握った。
「婚姻の誓約を立てたことで、お二人を隔てるものがなくなりました。
このことを表す為に、新婦の顔を覆っているベールを新郎が上げ、誓いのキスをします。」
エミリオンが、そっとヴェリティのベールを上げた瞬間、あまりの美しさに息を呑む。
「ヴェリティ、愛してる。大切にするよ。」
「私も愛しています。」
二人の唇が重なった瞬間、あたたかい雰囲気に包まれた。
エミリオンが、そっとヴェリティを抱き締めると、もうヴェリティの涙腺は耐えることを止め、静かに大粒の涙を溢した。
「これにて、神様と列席者の前でお二人が夫婦となったことを宣言します。」
牧師の宣言で、名実共にエミリオンとヴェリティは、神の名の下で夫婦となったことを実感したのだった。
ーーーーーーー
こちらの本編のスピンオフとして
『嫌われ悪女は俺の最愛~グレイシアとサイファの恋物語~
不定期更新中です
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