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80.啐啄同時(そったくどうじ)
しおりを挟むヴェリティの悪阻も治まり、結婚前夜のエヴァンス公爵邸は、穏やかな時間を過ごしていた。
学園の寮から帰宅し、グラナードに甘やかされまくったリオラやリディアは、夕食後は二人の部屋でまったりしていた。
「リオラは、三年で学園を卒業出来そう?」
「うーん、たぶん。前ほど勉強も大変とは思わなくなったし。
今までリディアに頼り切りだったんだなぁと反省してるけど、リディアに勉強のやり方を教わったから、今は一人でも頑張れそうだよ!
逆に、リディアは皇太子妃教育と掛け持ちだから、どう?時間は足りてる?大丈夫?」
「皇太子妃教育は、エルがサポートしてくれているから、何とかなるかなぁ…
エルは、皇太子教育を終えているから、忙しそうだけど、凄く気に掛けてくれるし。
エレノア皇后陛下がお体が強くないから、ジェスティン皇帝陛下とエルで、対応されていらっしゃるから、正直皇太子妃教育は、頭に詰め込む知識だけだしね。」
「そっかぁ、リディアは淑女のマナーも知識も完璧だし、不安があればお祖母様やグレイシアお姉様に教えていただけばいいかもね!」
「うん!やっぱりお祖父様が皇弟殿下っていうのは凄いと思うの。
皇太子妃教育の先生達も、私を尊重してくださるし、びっくりする位に親切だわ。」
「陛下もエル殿下も、リディアの為に見張ってるかもねー!ふふふ!!」
二人共、不安はあるが、それなりに見通しはついていた。
学園生活が順調なおかげだからだ。
「やっかみも静かになったしね。リディアも落ち着いて勉強出来るようになったでしょう。」
「そうそう!入学した時は、エヴァンス公爵家に贔屓されてるって、随分言われたけど。」
「笑えなかったのは、お母様がお父様を誘惑して、再婚したって言われた時かなぁ…」
「リオラったら剣に手が掛かって、ジオルグが慌てて止めたわね。あはははっ!」
リディアは思い出し笑いが止まらない。
「そうねー、ブランフォード侯爵家からエヴァンス公爵家になった時は、そのこと以外は言われなかったわよね。
グレイシアお姉様、何かしてくださったのかしら…?」
「有り得る!!」
「それに、リディアがエル殿下の皇太子妃候補だからかな?」
「エルの存在も大きいかもしれないけど、ジオルグが守ってくれてない?
リオラにいちゃもんつける奴らをコテンパンにのしてるって噂があるわ。ふふふっ!」
「あら、私は自分の身は守れるわよ?リディアだって守ってあげる!」
「ありがとう、心強いわ。私達の周りには、強い人達がたくさん居るけど、リオラは頼りになるもんね。」
相変わらず、仲の良い二人は、産まれ来る弟妹にも思いを馳せる。
「お父様やお母様は、きっと赤ちゃんが産まれても、私達への態度は変わらないでしょうね。」
「うん、特にお父様は。今までも私やリオラに優しかったけど、更に気を遣いそうだよね。
本当のお父様よりも、ずっと私やリオラに関わってくれるしね。」
「そう言えば、お父様…ブランフォード元侯爵は…」
「そのことは、あまり探らない方がいいと思う。私は、お母様が生死を彷徨った時、もうあの人は父親だと思わないことにしたから。
冷たいようだけど、お母様を冷たく扱ったのはあの人だもの。」
「リディア…」
一瞬遠くを見るような目をしたリディアの気持ちは、きっとリオラしか共有出来ない気がした。
「そうね、私もリディアと同じ。あの頃、自分がのうのうと学園に行っていたことが一番悔しくて悲しくて。
お母様をあんな目に遭わせた人が、どうなろうと知らないわ。」
「私とリオラのお父様は、エミリオン父様だけ!
例え、あの人が死んでいても、もう思い出すこともないわ。
それが、お母様と私とリオラを救ってくれたエミリオン父様とお祖父様やお祖母様、グレイシアお姉様への恩返しだもの。」
リオラは、リディアが父だった者の死まで考えているとは思っていなかった。
冷たい目で言い放つリディアを、リオラはぎゅっと抱き締めた。
「リディア、それでいいよ。それでいい…」
「リオラァァァー!」
リディアは、感情を解放するように泣いた。
リオラですら、初めて見るリディアだった。
いつも責任感を持って、いろんなことに取り組む真面目なリディアだが、家族への想いはそれ以上だったのだ。
父としてのブランフォード元侯爵を完全に断ち切ることを決意したリディアを見て、逆にリディアがどんなに傷付いていたかをリオラは理解した。
リオラは、双子とは言え、どちらが姉とか妹とかの区別を付けられずに育ってきた。
しっかりしたリディアに着いて行けば何とかなっていたので、自分は妹気質だと自覚していた。
しかし、自分がリディアに頼り過ぎていたことを改めて反省した。
(お母様が『ゆっくり大人になりなさい』って言っていたのは、こういう意味だったんだ…)
リオラは、リディアを抱き締め、ヴェリティの真似をして頭を撫でた。
ヴェリティの撫でる手は、どんな時もリオラやリディアに安らぎや勇気を与えてくれていたからだ。
突き付けられる現実の中、リオラもリディアも、お互いの殻を打ち破ろうと、懸命に努力する子ども達であったが、それをあたたかい手と心でサポートしていたのは、ヴェリティを始めとする周りの人々であった。
「リディア、大丈夫。皆が居る。私も居る。
私達が家族であることは、死ぬまで変わらない。
だから、一人で溜め込まないで、私達も頼りにして欲しい。」
「ありがとう、リオラ、大好き。」
やっと泣き止んだリディアは、リオラに笑い掛けた。
「明日は、お父様とお母様の結婚式よ。あんまり泣いたら目が腫れちゃうから、冷やさないとね。
そんな目だと、エル殿下が驚くわ。
それに私達、お姉ちゃんになるんだから!
これから、いっぱい楽しいことや幸せなことがあるよ。」
「そうだね。お母様のウェディングドレス姿、お綺麗だろうなぁ。それに、お父様のタキシード姿も、きっと素敵ね!!」
「皆、ドレスアップして、お祝いしなきゃね。」
「うん!」
リオラは、リディアの目を冷やして、その後は手を繋いで眠った。
(リディアが皇宮入りしたら、こんな時間もあまり取れないんだなぁ…)
大人になるということは、家族と離れる時間も増えていく。
だからこそ、限りある時間を大切にしていこうとリオラは思うのだった。
ーーーーーーー
啐啄同時(そったくどうじ)
自分の殻を破ろう!であったり、変わろう!と思った時、自身側だけではなく外側からも殻に力を加えていくことで、とても頑丈で硬い殻も破られていくこともあるということ
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