【完結】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい

文字の大きさ
80 / 90

79.憧れた風景

しおりを挟む

ヴェリティとエミリオンの結婚式まで、あとひと月。
今日は、イヴ・カルーレがウェディングドレスのサイズ確認にやって来た。

「ご無沙汰しておりました。ヴェリティ様、お身体の具合は如何ですか?」

「こちらこそ、ご無沙汰しておりました。まだたまに悪阻がありますが、今は大丈夫です。」

「では、少しでも体調がすぐれなかったら、すぐにお申し出くださいね。
お式の頃は安定期に入るでしょうから、悪阻ももう少しの我慢ですね!」

「そうですね、早く治まって欲しいです。お気遣いありがとうございます。
イヴ様ったら、まるでお医者様みたい。ふふ。」

「私は仕事一筋の独身ですが、これでも姉や妹の妊婦生活は見てきましたし、産まれたお子はお世話してきましたから。
ドレス以外にも、何かありましたらお声掛けくださいね!
もちろん、お子様のお洋服も準備させていただいておりますから!!
あと、見習い侍女さん達の制服も、もう少しで仕上がりますので、お待ちくださいませね。」

「イヴ様、本当にありがとうございます!いろいろ楽しみにしています。
でも、ご無理はなさらないでくださいね?
お忙しいのは承知しておりますから。」

「はい!その点は大丈夫です。仕事も息抜きも私は上手いのです。
エヴァンス公爵家様に伺うのは、息抜きの方ですから!!
では、サイズの確認いたしますね。
あっ、ヴェリティ様はそのまま立っていてくださって構いませんから。
おつらかったら言ってくださいませ。」

イヴ・カルーレは、ヴェリティの負担にならないよう、立ったりしゃがんだり、忙しくドレスをチェックしている。

「やはりエンパイアラインのドレスにしておいて良かったですね!
お胸の下に切り替えがありますから、お腹も締め付けないし。
光沢のあるシルクですが、極限まで軽くしてありますから、ご負担にはならないと思います。」

「シンプルなようで、首元やお袖のシフォンが美しくて。
イヴ様、とても素敵なドレスをありがとうございます。」

「お礼ならエミリオン様に仰ってくださいませ。
ドレスもアクセサリーも、ご予算には糸目も付けず、ヴェリティ様にお似合いのドレスをと気合いが入っていらっしゃいましたから!
でも、相変わらず露出は控えめにとのご要望で、スタンドカラーにしましたのよ?
ほら、先程からヴェリティ様に見惚れて、言葉も出ないようですわ。ふふ!」

「エミリオン様、ありがとうございます。
流石、イヴ様です。とても綺麗で、着やすいドレスですわ。」

「に、似合ってる…凄く綺麗だ…とても上品で美しい…」

エミリオンは、右手で顔を覆っているが、耳まで赤くなっている。

「結婚式当日もサイズの確認に参りますからね!
遠慮なく、お腹のお子様と健やかにお過ごしくださいませ!!
当日は、素晴らしい花嫁様に仕立て上げて見せましょう。」

「イヴ様、よろしくお願いいたします。」

「では、私はファビオラ様やグレイシア様のドレスを見て参りますわね。
後から、お嬢様方のドレスも!きっと大きくなられてますでしょうから、サイズは完璧に確認しますわ!!」

イヴ・カルーレは、ヴェリティの着替えを手伝い、丁寧にウェディングドレスをクローゼットに掛けてから、にこやかに部屋を出て行った。

「相変わらず、イヴは賑やかだな。グレイシアみたいに一人で喋っていたな。クククっ!」

「そんなエミリオン様は、口数が少なかったですね。
あまり見ないお姿でした。ふふふっ!」

「だってさ、もう俺の妻なんだけど、やっぱりウェディングドレス姿って特別なんだよ。
ああ、ヴェリティと結婚式かぁ…そしてお腹に俺の子も居て、一緒に祝福を受けるのかと思うと感慨深い。」

「そうですわね。一緒に祝福!素敵ですね。」

エミリオンはヴェリティの肩を抱き、幸せいっぱいの笑顔を見せた。
ヴェリティもまた、こんなに幸せでいいのかと思いながら、笑顔を返した。

「そう言えば、リオラやリディアも、もうすぐ帰って来ますね。
あの子達のドレスも、イヴ様が準備してくださっているし、楽しみですね!
イヴ様、今日は一日中こちらにお引き留めしてしまいますけど。」

「そうだな、イヴにすれば俺達は親戚みたいなもんだからな。イヴに任せておけば大丈夫だ。
そろそろリオラやリディアが帰って来る時間かな?」

エミリオンは、窓の外に目をやった。

「おっ!ほんとに帰って来たぞ!!ヴェリティ、ゆっくりでいいから、迎えに出よう。」

「エミリオン様ったら、そんなに心配しなくても大丈夫です。でも、腕を組んでいいですか?」

「もちろん!エスコートしますよ、我が妻よ。」

ヴェリティとエミリオンが玄関先に向かうと、双子達が弾けるような笑顔で入って来た。

「「お父様、お母様、只今戻りました!」」

一瞬、エミリオンがきょとんとした。

「お父様…」

「「はい、お父様!」」

ヴェリティは察して、エミリオンの脇腹をつついた。

「お父様ですよ、エミリオン様。」

「だって弟か妹が出来るのに、エミリオン父様では長いので…赤ちゃんが話せるようになったら、お父様の方が呼びやすいかなぁって…駄目ですか?」

「そうなんです、リオラと相談して、今度帰宅したら『お父様』って呼びたいねって。」

エミリオンは、ヴェリティの腕を丁寧に解き、双子達を両腕に抱き上げた。

「嬉しいよ、リオラ、リディア!君達は俺の自慢の娘だ!お父様でも父様でも、好きなように呼んでくれ!!」

「「はい!お父様!!」

エミリオンは、『エミリオン父様』でも充分だった。
しかし、本当は『エミリオン』がない方が父親らしいなとも思っていた。
でも、血の繋がった実の父親ではない為、強制はしたくなかった。
それなのに、双子達が自発的に自分を『お父様』と呼んでくれたことに感動していた。

「お父様、重くないですか!?私もリディアも背が伸びたので…」

「リオラなんて、私よりも背が高くなってしまったんです!鍛えてるから!?」

「まだまだ当分抱っこ出来るよ。父さんは、これでも力持ちなんだぞ?
帰って来たばかりで悪いのだが、イヴがドレスのサイズをチェックしたいらしいから、このまま連れて行くよ?」

「「えーーーっ!?恥ずかしいっ!」」

「大丈夫だ、家族しか見てない。ククっ!」

ヴェリティは、そんな楽しそうな三人の後ろ姿を見て涙が溢れた。
充分過ぎる程の愛に包まれているのに、お腹の子が、今以上に家族の絆を強くしてくれる。

素直に甘えられる子ども達と、当たり前のようにそれに応える父親。
ずっと憧れた、あたたかい家庭がそこにあった。
エミリオンと結婚し、幸せを感じることはたくさんあったが、この瞬間も忘れないだろうとヴェリティは思った。
しおりを挟む
感想 252

あなたにおすすめの小説

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――? エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

処理中です...