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79.憧れた風景
しおりを挟むヴェリティとエミリオンの結婚式まで、あとひと月。
今日は、イヴ・カルーレがウェディングドレスのサイズ確認にやって来た。
「ご無沙汰しておりました。ヴェリティ様、お身体の具合は如何ですか?」
「こちらこそ、ご無沙汰しておりました。まだたまに悪阻がありますが、今は大丈夫です。」
「では、少しでも体調がすぐれなかったら、すぐにお申し出くださいね。
お式の頃は安定期に入るでしょうから、悪阻ももう少しの我慢ですね!」
「そうですね、早く治まって欲しいです。お気遣いありがとうございます。
イヴ様ったら、まるでお医者様みたい。ふふ。」
「私は仕事一筋の独身ですが、これでも姉や妹の妊婦生活は見てきましたし、産まれたお子はお世話してきましたから。
ドレス以外にも、何かありましたらお声掛けくださいね!
もちろん、お子様のお洋服も準備させていただいておりますから!!
あと、見習い侍女さん達の制服も、もう少しで仕上がりますので、お待ちくださいませね。」
「イヴ様、本当にありがとうございます!いろいろ楽しみにしています。
でも、ご無理はなさらないでくださいね?
お忙しいのは承知しておりますから。」
「はい!その点は大丈夫です。仕事も息抜きも私は上手いのです。
エヴァンス公爵家様に伺うのは、息抜きの方ですから!!
では、サイズの確認いたしますね。
あっ、ヴェリティ様はそのまま立っていてくださって構いませんから。
おつらかったら言ってくださいませ。」
イヴ・カルーレは、ヴェリティの負担にならないよう、立ったりしゃがんだり、忙しくドレスをチェックしている。
「やはりエンパイアラインのドレスにしておいて良かったですね!
お胸の下に切り替えがありますから、お腹も締め付けないし。
光沢のあるシルクですが、極限まで軽くしてありますから、ご負担にはならないと思います。」
「シンプルなようで、首元やお袖のシフォンが美しくて。
イヴ様、とても素敵なドレスをありがとうございます。」
「お礼ならエミリオン様に仰ってくださいませ。
ドレスもアクセサリーも、ご予算には糸目も付けず、ヴェリティ様にお似合いのドレスをと気合いが入っていらっしゃいましたから!
でも、相変わらず露出は控えめにとのご要望で、スタンドカラーにしましたのよ?
ほら、先程からヴェリティ様に見惚れて、言葉も出ないようですわ。ふふ!」
「エミリオン様、ありがとうございます。
流石、イヴ様です。とても綺麗で、着やすいドレスですわ。」
「に、似合ってる…凄く綺麗だ…とても上品で美しい…」
エミリオンは、右手で顔を覆っているが、耳まで赤くなっている。
「結婚式当日もサイズの確認に参りますからね!
遠慮なく、お腹のお子様と健やかにお過ごしくださいませ!!
当日は、素晴らしい花嫁様に仕立て上げて見せましょう。」
「イヴ様、よろしくお願いいたします。」
「では、私はファビオラ様やグレイシア様のドレスを見て参りますわね。
後から、お嬢様方のドレスも!きっと大きくなられてますでしょうから、サイズは完璧に確認しますわ!!」
イヴ・カルーレは、ヴェリティの着替えを手伝い、丁寧にウェディングドレスをクローゼットに掛けてから、にこやかに部屋を出て行った。
「相変わらず、イヴは賑やかだな。グレイシアみたいに一人で喋っていたな。クククっ!」
「そんなエミリオン様は、口数が少なかったですね。
あまり見ないお姿でした。ふふふっ!」
「だってさ、もう俺の妻なんだけど、やっぱりウェディングドレス姿って特別なんだよ。
ああ、ヴェリティと結婚式かぁ…そしてお腹に俺の子も居て、一緒に祝福を受けるのかと思うと感慨深い。」
「そうですわね。一緒に祝福!素敵ですね。」
エミリオンはヴェリティの肩を抱き、幸せいっぱいの笑顔を見せた。
ヴェリティもまた、こんなに幸せでいいのかと思いながら、笑顔を返した。
「そう言えば、リオラやリディアも、もうすぐ帰って来ますね。
あの子達のドレスも、イヴ様が準備してくださっているし、楽しみですね!
イヴ様、今日は一日中こちらにお引き留めしてしまいますけど。」
「そうだな、イヴにすれば俺達は親戚みたいなもんだからな。イヴに任せておけば大丈夫だ。
そろそろリオラやリディアが帰って来る時間かな?」
エミリオンは、窓の外に目をやった。
「おっ!ほんとに帰って来たぞ!!ヴェリティ、ゆっくりでいいから、迎えに出よう。」
「エミリオン様ったら、そんなに心配しなくても大丈夫です。でも、腕を組んでいいですか?」
「もちろん!エスコートしますよ、我が妻よ。」
ヴェリティとエミリオンが玄関先に向かうと、双子達が弾けるような笑顔で入って来た。
「「お父様、お母様、只今戻りました!」」
一瞬、エミリオンがきょとんとした。
「お父様…」
「「はい、お父様!」」
ヴェリティは察して、エミリオンの脇腹を突いた。
「お父様ですよ、エミリオン様。」
「だって弟か妹が出来るのに、エミリオン父様では長いので…赤ちゃんが話せるようになったら、お父様の方が呼びやすいかなぁって…駄目ですか?」
「そうなんです、リオラと相談して、今度帰宅したら『お父様』って呼びたいねって。」
エミリオンは、ヴェリティの腕を丁寧に解き、双子達を両腕に抱き上げた。
「嬉しいよ、リオラ、リディア!君達は俺の自慢の娘だ!お父様でも父様でも、好きなように呼んでくれ!!」
「「はい!お父様!!」
エミリオンは、『エミリオン父様』でも充分だった。
しかし、本当は『エミリオン』がない方が父親らしいなとも思っていた。
でも、血の繋がった実の父親ではない為、強制はしたくなかった。
それなのに、双子達が自発的に自分を『お父様』と呼んでくれたことに感動していた。
「お父様、重くないですか!?私もリディアも背が伸びたので…」
「リオラなんて、私よりも背が高くなってしまったんです!鍛えてるから!?」
「まだまだ当分抱っこ出来るよ。父さんは、これでも力持ちなんだぞ?
帰って来たばかりで悪いのだが、イヴがドレスのサイズをチェックしたいらしいから、このまま連れて行くよ?」
「「えーーーっ!?恥ずかしいっ!」」
「大丈夫だ、家族しか見てない。ククっ!」
ヴェリティは、そんな楽しそうな三人の後ろ姿を見て涙が溢れた。
充分過ぎる程の愛に包まれているのに、お腹の子が、今以上に家族の絆を強くしてくれる。
素直に甘えられる子ども達と、当たり前のようにそれに応える父親。
ずっと憧れた、あたたかい家庭がそこにあった。
エミリオンと結婚し、幸せを感じることはたくさんあったが、この瞬間も忘れないだろうとヴェリティは思った。
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