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37.ダンスの時間
しおりを挟む誕生パーティの会場は、音楽が流れ、ホルヘン皇帝とセラフィ皇后がまずダンスを披露した。
金糸の刺繍が施された揃いの衣装と、まだまだキレイのあるダンスに、皆が羨望の眼差しを送った。
二人のダンスが終わると、会場内は各々のパートナーとのファーストダンスが始まる。
レナリアとジークフリードも、もちろん二人で踊る。
「レナリア、ルーセントの顔、見たか?」
「見たわ。ちらりと見ただけだから、目は合ってないけど、随分驚いていたわね。」
「ああ、今夜は騒がないといいな。気付かれないうちにクロムウェルに出発してしまいたい。」
レナリアとジークフリードは、笑顔でダンスしながら、明日の出発の話を打ち合わせた。
準備万端で、このパーティが無事に終われば、問題なくクロムウェル公国に旅立てる。
(やっとだ…やっとここまで来た。)
ジークフリードの心は、完全に穏やかではないが、レナリアはきっと事を荒立てるよりも、今の幸せを守りたいだろうと思い、その気持ちを最優先にした。
隣で微笑むレナリアの為に、ジークフリードも笑顔を返した。
その頃、ルーセント殿下はロザリンドと踊っていた。
レナリアに話し掛けたかったが、第一皇子のエステファン殿下に止められたからだ。
ホルヘン皇帝の挨拶が終わり、レナリアを捕まえて話そうとした時、エステファン殿下が腕を掴んだ。
「お前とレナリア嬢とは婚約解消している。それに多大な貢献をしているクロムウェルの公子と揉めるのは、帝国にとってまずい。陛下のパーティで騒ぎを起こすことは許さん。今夜は他の令嬢の相手をしろ。いくらでも居るだろう?」
普段は温厚なエステファン殿下が厳しい表情で嗜めるので、ルーセント殿下は従うことにした。
(クソっ、何なんだよ、これは!あの騎士が公子だと!?しかも、レナリアと結婚だと?そんな話聞いてない!)
「ほら、ルーセント、ロザリンド嬢と踊ってこい。レナリア嬢と婚約していた時から親しかっただろう?」
エステファン殿下は、しれっと言った。
「はい…」
ルーセント殿下は、この場は怒りを抑え、後日レナリアと話そうと考えた。
社交の場は、自分にとっては重要だと思い、親交を深めることにした。
味方を増やし、レナリアを奪い返すことを考えながら。
そんなルーセント殿下の思惑は全く知らず、レナリアとジークフリードは、二曲目と三曲目も二人で踊り、会場の注目を集めた。
ジークフリードがふわりとレナリアを持ち上げた瞬間は、会場から拍手が湧いた位だ。
「お似合いね!レナリア様の笑顔、初めて見たわ!!」
「ジークフリード公子様、騎士様だった頃は笑わなかったのに!あんなに優しい笑顔、素敵よね!!」
最初は容姿の話題から、気付けば、何処からか二人の馴れ初めが噂として広がり、物語の主人公のように、皆に祝福されていた。
「ルーセント殿下に婚約解消されたのを、ジークフリード公子様が優しくお慰めして、お二人は恋に落ちたらしいわ。」
「いや、ジークフリード公子様がレナリア様に一目惚れして、身分を隠して護衛騎士になったらしいぞ?」
そんな様子を遠巻きに見ていたウィルヘルムとヘライザは、ひと安心していた。
ルーセント殿下がレナリアを無理矢理連れ出すようなことをすれば、流石のジークフリードもひっそりと携えた剣を抜きかねないからだ。
「陛下が、エステファン殿下に上手く指示を出してくれたようだな。」
「そうね。エステファン殿下は、レナリアを可愛がってくれましたし、きっと全て知りながらルーセント殿下を引き留めてくれたのでしょう。」
「ルーセント殿下が気付いた時には、レナリアとジークフリードは出発している。明日が楽しみだな。」
レナリアには優しいウィルヘルムとヘライザだが、可愛い娘を散々コケにされた恨みは根深い。
自らが手を下さずとも、勝手に転げ落ちていくルーセント殿下を楽しみにしている二人であった。
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