妹に婚約者を奪われた公爵令嬢は只今辺境伯に溺愛されています

紬あおい

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56.三つ子と陛下



山・湖、海といろいろな体験をしながらの旅。
約ひと月の長旅も、皇都の中心部の街並みが見えてきて、終わりを告げるのだと私はぼんやり馬車に揺られていた。

(相変わらず、騒がしいわね。三つ子の騒がしさなら平気なのに…兎に角、三つ子が元気に過ごせて良かったわ。)

そんな中、ヴェルシスと三つ子は、やや疲れた私を気遣い、皆で手遊びしている。

「ほら、カタツムリみたいだろ?」

「「「ほんとだぁーーー!!!」

「こっちは狐だ。」

「「「 うおーっ!!!」」」

手の甲に拳を乗せて、人差し指と中指を立てるとカタツムリのツノのように見えるし、狐は片手で簡単に出来るが、三つ子には初めて見るものだ。
ヴェルシスは、力技だけでなく、こうした遊びも取り入れて三つ子と遊ぶ。

(この人が第二皇子だったなんて…不思議…)

うとうとしそうになった時、ヴェルシスが私の肩をトントン叩いた。

「すまないが、先ず皇宮へ向かう。」

「はい、承知しました。カレノイド皇帝陛下とマリアフィール皇后陛下にお会いするのも随分と久しぶりだわ。お元気かしらね。」

「孫はまだか?の手紙から、もう三つ子も三歳だしな。きっと待ち侘びているだろう。兄上もな。」

「ヴェルシス似だから、喜んでくださるといいわね。
あ…そういえば、リシャール殿下の婚約者はお決まりになったのかしら…?」

「さあな…失恋は経験したけど、新たな恋や婚約は、まだじゃないかな?」

フェリスに恋をし、叶わなかった想いを胸に秘めたリシャール殿下の顔を思い出す。

「一途なところが似ているかもね、ヴェルシスも殿下も。」

「顔も似てるだろう?三つ子を自分の子だと言い出したら困るな。」

皇室もリュグラン公爵家も後継ぎ問題を抱えている。
でも、三つ子は私とヴェルシスの宝物だ。
そう易々やすやすと引き渡せるものではない。

「三つ子は渡しませんよ?本人達が望まない限り。」

「当たり前だ。」

そして、馬車は皇宮に到着した。







「おおっ!三つ子!!」

「まあ!ヴェルシスの幼い頃とそっくりね!」

謁見の間となった貴賓室で待っていると、カレノイド皇帝陛下とマリアフィール皇后陛下が飛び込んできた。

普段は走ることすら御法度だが、今の姿は、ただの祖父母の優しい笑顔だ。

皇族特有の黒髪と深い海のような碧眼の三つ子を見て、嬉々としている。

「お祖父様とお祖母様だぞ?俺の父上と母上だ。」

ヴェルシスが三つ子に紹介すると、もじもじとしているが、リュカが口を開いた。

「お祖父様、お祖母様、僕はリュカです。こっちがロイドとレオンです。」

「こちらにいらっしゃい、お顔を見せて?」

やわらかな笑顔で両手を広げたマリアフィール皇后に、先ずレオンが抱き付いた。
レオンの女性好きが功を奏し、ロイドもリュカも傍に寄る。

「お祖母様、良い匂い!」

くんくんし始めた三つ子を止めようとしたが、カレノイド陛下が私を目で止めた。

「構わん、マリアフィールが良い匂いなのは、私もよく知っている。」

「ーーーっ!?」

(ヴェルシスは、外見も内面も陛下似っ!?)

その瞬間、私は皇族の溺愛体質の家系図を見た気がした。

「さあ、おじいちゃんにも顔を見せておくれ。」

「「「お祖父様!」」」

血筋なのか、体の大きなヴェルシスと同じものを感じたのか、三つ子がしゃがんだカレノイド陛下の背中によじ登る。

「こらっ!」

「よいよい、気にするな。やんちゃで可愛いじゃないか。」

ヴェルシスが焦るが、カレノイド陛下は大笑いした。

「皆、お茶にしましょう。焼き菓子もあるわよ。」

「「「 はーい!!!」」」

「おっ!懐かしいな、このパウンドケーキ!!」

「ヴェルシスもよく食べていたわよね。リルアも召し上がれ。」

マリアフィール皇后が侍女に用意させたのは、ヴェルシスが好んで食べていた物らしい。

政務で忙しい中、孫の三つ子と触れ合う姿は、優しい祖父母でもある。
過去に遠い存在と感じていた皇帝陛下と皇后陛下も、やはり人で親で祖父母だった。

皆が笑顔の穏やかなお茶会に、私は癒されたのだった。



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