56 / 59
56.三つ子と陛下
山・湖、海といろいろな体験をしながらの旅。
約ひと月の長旅も、皇都の中心部の街並みが見えてきて、終わりを告げるのだと私はぼんやり馬車に揺られていた。
(相変わらず、騒がしいわね。三つ子の騒がしさなら平気なのに…兎に角、三つ子が元気に過ごせて良かったわ。)
そんな中、ヴェルシスと三つ子は、やや疲れた私を気遣い、皆で手遊びしている。
「ほら、カタツムリみたいだろ?」
「「「ほんとだぁーーー!!!」
「こっちは狐だ。」
「「「 うおーっ!!!」」」
手の甲に拳を乗せて、人差し指と中指を立てるとカタツムリのツノのように見えるし、狐は片手で簡単に出来るが、三つ子には初めて見るものだ。
ヴェルシスは、力技だけでなく、こうした遊びも取り入れて三つ子と遊ぶ。
(この人が第二皇子だったなんて…不思議…)
うとうとしそうになった時、ヴェルシスが私の肩をトントン叩いた。
「すまないが、先ず皇宮へ向かう。」
「はい、承知しました。カレノイド皇帝陛下とマリアフィール皇后陛下にお会いするのも随分と久しぶりだわ。お元気かしらね。」
「孫はまだか?の手紙から、もう三つ子も三歳だしな。きっと待ち侘びているだろう。兄上もな。」
「ヴェルシス似だから、喜んでくださるといいわね。
あ…そういえば、リシャール殿下の婚約者はお決まりになったのかしら…?」
「さあな…失恋は経験したけど、新たな恋や婚約は、まだじゃないかな?」
フェリスに恋をし、叶わなかった想いを胸に秘めたリシャール殿下の顔を思い出す。
「一途なところが似ているかもね、ヴェルシスも殿下も。」
「顔も似てるだろう?三つ子を自分の子だと言い出したら困るな。」
皇室もリュグラン公爵家も後継ぎ問題を抱えている。
でも、三つ子は私とヴェルシスの宝物だ。
そう易々と引き渡せるものではない。
「三つ子は渡しませんよ?本人達が望まない限り。」
「当たり前だ。」
そして、馬車は皇宮に到着した。
「おおっ!三つ子!!」
「まあ!ヴェルシスの幼い頃とそっくりね!」
謁見の間となった貴賓室で待っていると、カレノイド皇帝陛下とマリアフィール皇后陛下が飛び込んできた。
普段は走ることすら御法度だが、今の姿は、ただの祖父母の優しい笑顔だ。
皇族特有の黒髪と深い海のような碧眼の三つ子を見て、嬉々としている。
「お祖父様とお祖母様だぞ?俺の父上と母上だ。」
ヴェルシスが三つ子に紹介すると、もじもじとしているが、リュカが口を開いた。
「お祖父様、お祖母様、僕はリュカです。こっちがロイドとレオンです。」
「こちらにいらっしゃい、お顔を見せて?」
やわらかな笑顔で両手を広げたマリアフィール皇后に、先ずレオンが抱き付いた。
レオンの女性好きが功を奏し、ロイドもリュカも傍に寄る。
「お祖母様、良い匂い!」
くんくんし始めた三つ子を止めようとしたが、カレノイド陛下が私を目で止めた。
「構わん、マリアフィールが良い匂いなのは、私もよく知っている。」
「ーーーっ!?」
(ヴェルシスは、外見も内面も陛下似っ!?)
その瞬間、私は皇族の溺愛体質の家系図を見た気がした。
「さあ、おじいちゃんにも顔を見せておくれ。」
「「「お祖父様!」」」
血筋なのか、体の大きなヴェルシスと同じものを感じたのか、三つ子がしゃがんだカレノイド陛下の背中によじ登る。
「こらっ!」
「よいよい、気にするな。やんちゃで可愛いじゃないか。」
ヴェルシスが焦るが、カレノイド陛下は大笑いした。
「皆、お茶にしましょう。焼き菓子もあるわよ。」
「「「 はーい!!!」」」
「おっ!懐かしいな、このパウンドケーキ!!」
「ヴェルシスもよく食べていたわよね。リルアも召し上がれ。」
マリアフィール皇后が侍女に用意させたのは、ヴェルシスが好んで食べていた物らしい。
政務で忙しい中、孫の三つ子と触れ合う姿は、優しい祖父母でもある。
過去に遠い存在と感じていた皇帝陛下と皇后陛下も、やはり人で親で祖父母だった。
皆が笑顔の穏やかなお茶会に、私は癒されたのだった。
あなたにおすすめの小説
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました
チカフジ ユキ
恋愛
ヴィクトリアには年下の婚約者がいる。すでにお互い成人しているのにも関わらず、結婚する気配もなくずるずると曖昧な関係が引き延ばされていた。
そんなある日、婚約者と出かける約束をしていたヴィクトリアは、待ち合わせの場所に向かう。しかし、相手は来ておらず、当日に約束を反故されてしまった。
そんなヴィクトリアを見ていたのは、ひとりの男性。
彼もまた、婚約者に約束を当日に反故されていたのだ。
ヴィクトリアはなんとなく親近感がわき、彼とともにカフェでお茶をすることになった。
それがまさかの事態になるとは思いもよらずに。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
あなたと別れて、この子を生みました
キムラましゅろう
恋愛
約二年前、ジュリアは恋人だったクリスと別れた後、たった一人で息子のリューイを生んで育てていた。
クリスとは二度と会わないように生まれ育った王都を捨て地方でドリア屋を営んでいたジュリアだが、偶然にも最愛の息子リューイの父親であるクリスと再会してしまう。
自分にそっくりのリューイを見て、自分の息子ではないかというクリスにジュリアは言い放つ。
この子は私一人で生んだ私一人の子だと。
ジュリアとクリスの過去に何があったのか。
子は鎹となり得るのか。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
⚠️ご注意⚠️
作者は元サヤハピエン主義です。
え?コイツと元サヤ……?と思われた方は回れ右をよろしくお願い申し上げます。
誤字脱字、最初に謝っておきます。
申し訳ございませぬ< (_"_) >ペコリ
小説家になろうさんにも時差投稿します。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。