妹に婚約者を奪われた公爵令嬢は只今辺境伯に溺愛されています

紬あおい

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73.等価ではない交換




翌日、先触れとほぼ同時にリーヴェンス侯爵がやって来た。
サンドラに続くグレンの不始末で、顔面は蒼白だ。
私とヴェルシスと父のケインは、にこりともせずに、応接室のソファに鎮座して待ち受けた。

「誠に…申し訳ありません…」

只管頭を下げるリーヴェンス侯爵だが、リュカに対しての気遣いもなく、グレンの処罰についても言及しない。

「そなたの愚息に我が息子が傷付けられた謝罪すらしない気か?」

「い、いえ、ご子息様には大変申し訳なく思っております。」

「息子だけか?」

「とんでもありません!夫人にも!!」

「で?侯爵は、あの愚息をどうするつもりだ?」

ヴェルシスは一貫して冷酷に詰め寄る。

「グレンは…除籍してアルカロイド辺境地とは真逆の地で、男娼として働かせます…」

「リーヴェンス侯爵家としては、切り捨ててお終いか?」

「嫡男のローレンスは、生真面目な男です。
嫁いだ娘達も、それなりに上手くやっております。
その者達には、どうかご慈悲を…」

ヴェルシスと父のケインは、リーヴェンス侯爵がシェリーヌについて口にしないことに気付き、やはり養子縁組は可能だと判断し、目配せした。

「一度目は俺に不敬を働き、二度目は妻を護ろうとした息子に危害を加えた。
侯爵家ごと取り潰しても、俺の気持ちは到底収まらん!」

「そ、そこを何とか!お収めいただけるならば何でもいたします!!」

「ならば、シェリーヌを寄越せ。」

「シェリーヌ…を…?そ、側室か何かでしょうか…いや、愛妾!?」

ヴェルシスは怒りに震え、立ち上がった。

「貴様は俺を愚弄する気か!?愛する妻が居るのに、何故俺が側室や愛妾を求めていると思うのだ?
貴様がそんな考えだから、サンドラやグレンみたいな奴らが育つのだっ!!」

リーヴェンス侯爵は、土下座で床に頭を擦り付けた。

「も、申し訳ございません!」

ヴェルシスは必要以上に演技し、父と私は相変わらず静観する。

「このグレンの件で、リュカは心に大きな傷を負った。
今すぐにでもリーヴェンス侯爵家などぶっ潰してやりたい程だ。
しかし、シェリーヌの日頃の妻や三つ子への献身と、今回の手厚い治療で、シェリーヌには妻からも慈悲をと言われている。
だから、このままシェリーヌを主治医として雇用する。
しかし、リーヴェンス侯爵家に籍があるのも腹が立つ。
一層のこと、シェリーヌを養女として貰い受け、貴様達から切り離したい。」

「シェリーヌを…養女に?」

「そうだ。父上の親戚筋と養子縁組させ、アルカロイド辺境地にて主治医を続けさせる。
貴様にとっては、侯爵家の四女など、政略結婚しか使い途がないのであろう?」

「た、確かに…いつまでも医師などしていないで結婚しろとは申してきましたが…
シェリーヌを望む求婚書も届いておりまして…」

リーヴェンス侯爵は、この期に及んでも、まだ自分の娘を利用する手立てを模索していた。
明らかにサンドラよりは使えるという表情が見え隠れしている。

「サンドラの時は公にはしなかったが、二度目となると流石に…なぁ?俺が手を汚さずとも、陛下や社交界は見逃すまい。」

「シェリーヌでよろしければ!如何様にもなさってください!!
ご子息様への慰謝料もお支払いいたします!
ですから、リーヴェンス侯爵家だけはっ!! 
どうか、お願いいたします!」

リーヴェンス侯爵は、瞬時に頭の中で計算したようだ。
このままでは皇帝陛下や社交界からも見放され、実質リーヴェンス侯爵家は終了すると。

「リルア、どうする?」

ヴェルシスは、私の意向も尋ねた。

「サンドラもグレンも、二度と私達の目に触れぬようにしてくださいな。
シェリーヌは、私が預かります。
本人が希望しなければ、死に目にも会えないと思ってくださいませ?
リュカへの慰謝料は、侯爵の裁量に任せますが、私が何かを考慮する気はありません。」

「は、はいっ、承知いたしました!リーヴェンス侯爵家が存続出来るのでしたら、私の持てる最大限のものをお詫びとして形にいたします!!
どうか、ご慈悲を!!!」

「口だけではないことを期待する。」

リーヴェンス侯爵は、ヴェルシスに怯え、半泣きでこの条件を飲まざるを得なかった。

私としては、リュカの気持ちを思うと、リーヴェンス侯爵家の爵位剥奪でもいい位だが、シェリーヌの忠誠は、この先きっと得難いものとなる筈だ。
交換条件としては、リーヴェンス侯爵家一つ潰すよりも、シェリーヌの方が何倍も価値がある。

「では、早急に手続きをする。」

父の言葉で、リーヴェンス侯爵はふらふらと帰って行った。
その後ろ姿は、安堵なのか絶望なのか、私にもヴェルシスにもどうでもいいことだ。

身包み剥がされ、家名だけが残ろうとも、最早知ったことではない。



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