96 / 101
96.裏切り者の正体
ヴェルシスが坑道側から扉を蹴り、食料倉庫に入ると、ハルトに肩を抱かれたシェリーヌが泣きながら待っていた。
「奥様!申し訳ありません!!私がお傍を離れてしまったから…」
泣き崩れるシェリーヌは、頭に巻かれた包帯から血が滲んでいた。
「私は大丈夫よ。シェリーヌこそ、怪我をしてるじゃない!早く休みなさい。明日ゆっくり話しましょう。
ほら、ハルト、寝室へ!!」
「御意!」
「あっ、奥様、でも!」
「いいから!」
ハルトは暴れるシェリーヌを横抱きにすると、すたすたと歩き出した。
「さあ、リルア、俺達も寝室へ行こう。」
早歩きのヴェルシスは、あっという間に私を寝室へと連れて行った。
「こんなに腫れて…」
明るい部屋で私の頬を見たヴェルシスは、冷めやらぬ怒りと悲しみを碧眼に宿していた。
「ヴェルシスの顔を見たら、痛みなんて吹っ飛んじゃったわ!ふふっ!!」
「あぁ、もう!」
「んっ…ヴェルシス…」
「リルア…俺のリルア…」
ヴェルシスは私に深い口付けを落とし、角度を変えながら唇を貪った。
私の名前を呼びながら、愛おしげに交わす口付けは、とても甘かった。
「リルア、湯浴みしたら状況を話す。」
ヴェルシスは私を連れて浴室に行き、ドレスを脱がせながら全身を確認した。
「縛られた手や足が…」
痣となった手足を見て唇を噛むヴェルシスは、それ以上何も言わず、そっと私の体を洗ってくれた。
「湯に浸かれ。」
「さっきから思っていたけど、今日は浴室がいつもと違う匂いね。」
「ああ、薬草浴にしてもらった。アキレ・ミルフィユと言って、騎士の薬草として有名なんだ。
止血作用や殺菌作用があるから、切り傷や擦り傷、湿疹の治りを早める効果があるんだ。
皆、戦いが終わって家に戻ると、先ずこの湯に浸かるぞ?」
「そうなのね、ちょっと森みたいな匂いがするわ。」
私はヴェルシスの体をしげしげと見るが、古傷はあっても新たな傷はなかったことに安心した。
「さあ、リルア、そろそろ上がろう。」
立ち上がったヴェルシスは、股間を見せぬように背を向けたが、私の手は離さない。
妙な気遣いに私がくすくす笑うと、もう一度ぎゅっと手を握った。
そして、夜着を身に付け、ソファに腰を下ろすと、シャンパンのグラスを手にヴェルシスは状況を語り出した。
「リルアを捕らえたジョクリスは、フェリスの恋人だったベルトランの弟だ。」
「えっ……フェリスの…恋人だった…?亡くなったの?」
「ああ…」
「俺が騎士になって間もない頃に、フェリスとベルトランとジョクリスに出会ったんだ。
平民でありながら、腕の立つ騎士で、俺は三つ歳上のベルトランや二つ歳上のフェリスを頼りにしていた。
ジョクリスは俺の一つ歳下だが、甘えん坊なところが可愛くもあった。
三人ともアルカロイドを離れ、騎士としての経験を積んでいたんだ。
何れアルカロイドに戻るつもりで。」
ヴェルシスは遠くを見るような目で、過去を忍んでいた。
「あの頃、俺はまだ十四歳だったが、連戦連勝で調子に乗っていたのだろうな。
己の実力を過信し、一人でも勝てると勘違いしていた。
そして、少しの気の緩みから敵に囲まれ、防戦一方になってしまったんだ。
その時、身を挺して護ってくれたベルトランは犠牲となった。
俺の右脇腹に傷もその時のものだ。」
「………十四歳…そんな時から戦場に…」
「辛うじて勝利したが、ベルトランは…
その時からだろうな、ジョクリスに恨まれていたのは。
兄思いの優しい奴だったからな。」
私はヴェルシスの言葉を思い出していた。
『身内を失った者は、悲しみや怒りのやり場がなく、何れ不満を露わにし集団を乱す。
だから、俺が先頭に立ち、全責任を引き受ける。』
「そして今回、ジョクリスは隣国のガリヤ国と手を組んだようだ。
ジョクリスは俺への復讐、ガリヤ国はダイヤモンド鉱山を狙って。
だから、リルアを人質にしたんだが、リルアが上手く逃げられたから失敗した。
しかし、ガリヤ国はダイヤモンド鉱山を諦めておらず、アルカロイドに軍隊を派遣したらしい。」
「えっ!?」
「その数、数千は下らないだろう。」
「ーーーっ!?」
「だ、大丈夫なの!?」
ヴェルシスはシャンパンを飲み干し、せせら笑った。
「俺を誰だと思ってる?」
そうだった、私の夫は帝国の盾と呼ばれる人だった。
「アルカロイドの領民は、今は穏やかな暮らしをしているが元は騎士だ。
そして、そろそろ兄上が派遣した騎士団も到着するだろう。
例えガリヤ国が一万人の騎士を寄越そうとも、負ける気はしない。
それだけの経験を俺と兄上は積んできた。
もうこの件は、アルカロイド辺境地だけの話ではなくなってきたし、ガリヤ国を地図から消す時が来たな。」
自信満々なヴェルシスは、決して敵を甘く見ているのではない。
再び、帝国の盾となることを決意したのだった。
あなたにおすすめの小説
【完結済】25年目の厄災
紫
恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。
だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは……
25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
全てがどうでもよくなった私は理想郷へ旅立つ
霜月満月
恋愛
「ああ、やっぱりあなたはまたそうして私を責めるのね‥‥」
ジュリア・タリアヴィーニは公爵令嬢。そして、婚約者は自国の王太子。
でも私が殿下と結婚することはない。だってあなたは他の人を選んだのだもの。『前』と変わらず━━
これはとある能力を持つ一族に産まれた令嬢と自身に掛けられた封印に縛られる王太子の遠回りな物語。
※なろう様で投稿済みの作品です。
※画像はジュリアの婚約披露の時のイメージです。
公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした
佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。
その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。
長女ソフィア。
美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。
そして──もう一人。
妹、レーネ・アルヴィス。
社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。
姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。
だが彼女は知っている。
貴族社会では、
誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。
王立学園に入学したレーネは、
礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。
やがて──
軽んじていた者たちは気づく。
「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。
これは、
静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。
婚約者を病弱な妹に譲れと言われた夜、冷徹公爵が「では君は私がもらう」と手を差し伸べてくれました
ゆぷしろん
恋愛
伯爵令嬢リネットは、長年支えてきた婚約者エドガーを、病弱な妹ミレイユに譲るよう家族から一方的に命じられる。領地運営の書類作成や商会との交渉までこなし、婚約者を陰で支えてきたにもかかわらず、その働きはすべて当然のように奪われてきたのだ。
失意の中で婚約解消を受け入れたリネットの前に現れたのは、“冷徹公爵”と噂される王弟アシュレイ・クロフォード。
彼はリネットの才覚を見抜き、「では君は私がもらう」と告げて、公爵領へ迎え入れる。
ようやく自分の能力を正当に認められる場所を得たリネットは、北方公爵領で筆頭補佐官として活躍し始める。一方、彼女を失った元婚約者と家族は、次第に行き詰まっていき――。
これは、搾取され続けた令嬢が、自分の価値を認めてくれる人と出会い、後悔する者たちを置き去りにして幸せを掴む物語。
9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から言いたいことを言えずに、両親の望み通りにしてきた。
結婚だってそうだった。
良い娘、良い姉、良い公爵令嬢でいようと思っていた。
夫の9番目の妻だと知るまでは――
「他の妻たちの嫉妬が酷くてね。リリララのことは9番と呼んでいるんだ」
嫉妬する側妃の嫌がらせにうんざりしていただけに、ターズ様が側近にこう言っているのを聞いた時、私は良い妻であることをやめることにした。
※最後はさくっと終わっております。
※独特の異世界の世界観であり、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
あの約束を覚えていますか
キムラましゅろう
恋愛
少女時代に口約束で交わした結婚の約束。
本気で叶うなんて、もちろん思ってなんかいなかった。
ただ、あなたより心を揺さぶられる人が現れなかっただけ。
そしてあなたは約束通り戻ってきた。
ただ隣には、わたしでない他の女性を伴って。
作者はモトサヤハピエン至上主義者でございます。
あ、合わないな、と思われた方は回れ右をお願い申し上げます。
いつもながらの完全ご都合主義、ノーリアリティ、ノークオリティなお話です。
当作品は作者の慢性的な悪癖により大変誤字脱字の多いお話になると予想されます。
「こうかな?」とご自身で脳内変換しながらお読み頂く危険性があります。ご了承くださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。
愛されヒロインの姉と、眼中外の妹のわたし
香月文香
恋愛
わが国の騎士団の精鋭二人が、治癒士の少女マリアンテを中心とする三角関係を作っているというのは、王宮では当然の常識だった。
治癒士、マリアンテ・リリベルは十八歳。容貌可憐な心優しい少女で、いつもにこやかな笑顔で周囲を癒す人気者。
そんな彼女を巡る男はヨシュア・カレンデュラとハル・シオニア。
二人とも騎士団の「双璧」と呼ばれる優秀な騎士で、ヨシュアは堅物、ハルは軽薄と気質は真逆だったが、女の好みは同じだった。
これは見目麗しい男女の三角関係の物語――ではなく。
そのかたわらで、誰の眼中にも入らない妹のわたしの物語だ。
※他サイトにも投稿しています
婚約者のことが好きで好きで好きで仕方ない令嬢、彼に想い人がいると知って別れを切り出しました〜え、彼が本当に好きだったのは私なんですか!?〜
朝霧 陽月
恋愛
ゾッコーン伯爵家のララブーナは、3日間涙が止まらず部屋に引きこもっていた……。
それというのも、ふとした折に彼女の婚約者デューキアイ・グデーレ公爵子息に想い人がいると知ってしまったからだ。
※内容はタイトル通りです、基本ヤベェ登場人物しかいません。
※他サイトにも、同作者ほぼ同タイトルで投稿中。