妹に婚約者を奪われた公爵令嬢は只今辺境伯に溺愛されています

紬あおい

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96.裏切り者の正体




ヴェルシスが坑道側から扉を蹴り、食料倉庫に入ると、ハルトに肩を抱かれたシェリーヌが泣きながら待っていた。

「奥様!申し訳ありません!!私がお傍を離れてしまったから…」

泣き崩れるシェリーヌは、頭に巻かれた包帯から血が滲んでいた。

「私は大丈夫よ。シェリーヌこそ、怪我をしてるじゃない!早く休みなさい。明日ゆっくり話しましょう。
ほら、ハルト、寝室へ!!」

「御意!」

「あっ、奥様、でも!」

「いいから!」

ハルトは暴れるシェリーヌを横抱きにすると、すたすたと歩き出した。

「さあ、リルア、俺達も寝室へ行こう。」

早歩きのヴェルシスは、あっという間に私を寝室へと連れて行った。

「こんなに腫れて…」

明るい部屋で私の頬を見たヴェルシスは、冷めやらぬ怒りと悲しみを碧眼に宿していた。

「ヴェルシスの顔を見たら、痛みなんて吹っ飛んじゃったわ!ふふっ!!」

「あぁ、もう!」

「んっ…ヴェルシス…」

「リルア…俺のリルア…」

ヴェルシスは私に深い口付けを落とし、角度を変えながら唇を貪った。
私の名前を呼びながら、愛おしげに交わす口付けは、とても甘かった。

「リルア、湯浴みしたら状況を話す。」

ヴェルシスは私を連れて浴室に行き、ドレスを脱がせながら全身を確認した。

「縛られた手や足が…」

痣となった手足を見て唇を噛むヴェルシスは、それ以上何も言わず、そっと私の体を洗ってくれた。

「湯に浸かれ。」

「さっきから思っていたけど、今日は浴室がいつもと違う匂いね。」

「ああ、薬草浴にしてもらった。アキレ・ミルフィユと言って、騎士の薬草として有名なんだ。
止血作用や殺菌作用があるから、切り傷や擦り傷、湿疹の治りを早める効果があるんだ。
皆、戦いが終わって家に戻ると、先ずこの湯に浸かるぞ?」

「そうなのね、ちょっと森みたいな匂いがするわ。」

私はヴェルシスの体をしげしげと見るが、古傷はあっても新たな傷はなかったことに安心した。

「さあ、リルア、そろそろ上がろう。」

立ち上がったヴェルシスは、股間を見せぬように背を向けたが、私の手は離さない。
妙な気遣いに私がくすくす笑うと、もう一度ぎゅっと手を握った。






そして、夜着を身に付け、ソファに腰を下ろすと、シャンパンのグラスを手にヴェルシスは状況を語り出した。

「リルアを捕らえたジョクリスは、フェリスの恋人だったベルトランの弟だ。」

「えっ……フェリスの…恋人だった…?亡くなったの?」

「ああ…」

「俺が騎士になって間もない頃に、フェリスとベルトランとジョクリスに出会ったんだ。
平民でありながら、腕の立つ騎士で、俺は三つ歳上のベルトランや二つ歳上のフェリスを頼りにしていた。
ジョクリスは俺の一つ歳下だが、甘えん坊なところが可愛くもあった。
三人ともアルカロイドを離れ、騎士としての経験を積んでいたんだ。
何れアルカロイドに戻るつもりで。」

ヴェルシスは遠くを見るような目で、過去を忍んでいた。

「あの頃、俺はまだ十四歳だったが、連戦連勝で調子に乗っていたのだろうな。
己の実力を過信し、一人でも勝てると勘違いしていた。
そして、少しの気の緩みから敵に囲まれ、防戦一方になってしまったんだ。
その時、身を挺して護ってくれたベルトランは犠牲となった。
俺の右脇腹に傷もその時のものだ。」

「………十四歳…そんな時から戦場に…」

「辛うじて勝利したが、ベルトランは…
その時からだろうな、ジョクリスに恨まれていたのは。
兄思いの優しい奴だったからな。」

私はヴェルシスの言葉を思い出していた。

『身内を失った者は、悲しみや怒りのやり場がなく、何れ不満を露わにし集団を乱す。
だから、俺が先頭に立ち、全責任を引き受ける。』

「そして今回、ジョクリスは隣国のガリヤ国と手を組んだようだ。
ジョクリスは俺への復讐、ガリヤ国はダイヤモンド鉱山を狙って。
だから、リルアを人質にしたんだが、リルアが上手く逃げられたから失敗した。
しかし、ガリヤ国はダイヤモンド鉱山を諦めておらず、アルカロイドに軍隊を派遣したらしい。」

「えっ!?」

「その数、数千は下らないだろう。」

「ーーーっ!?」

「だ、大丈夫なの!?」

ヴェルシスはシャンパンを飲み干し、せせら笑った。

「俺を誰だと思ってる?」

そうだった、私の夫は帝国の盾と呼ばれる人だった。

「アルカロイドの領民は、今は穏やかな暮らしをしているが元は騎士だ。
そして、そろそろ兄上が派遣した騎士団も到着するだろう。
例えガリヤ国が一万人の騎士を寄越そうとも、負ける気はしない。
それだけの経験を俺と兄上は積んできた。
もうこの件は、アルカロイド辺境地だけの話ではなくなってきたし、ガリヤ国を地図から消す時が来たな。」

自信満々なヴェルシスは、決して敵を甘く見ているのではない。
再び、帝国の盾となることを決意したのだった。




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