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5.無実の罪
しおりを挟むエヴァンス公爵家は、父や母の管理が徹底しているので、使用人達に虐めはないと思っていた。
だから、僕付きの侍女となったヴェリティ嬢を安心して連れ回していた。
しかし、ヴェリティ嬢が来て三日目、僕が皇立学園に行っている間に事件が起こった。
それは、ファビオラの代名詞とも言える扇が壊れていたのだ。
「あなた達、これはどういうことかしら?」
清掃の後、私室に戻った母は侍女達を集めて問うた。
そこには途轍もない緊張感が漂い、若い侍女達は震え上がっていた。
「もう一度尋ねます。どうして扇が壊れているのかしら?
侍女長、今日の清掃は誰かしら?」
侍女長のクレシアは、落ち着いた表情で答えた。
「今日はオーレリアです。」
「オーレリア、前に。」
名前を出されたオーレリアは、ビクビクしながら一歩前に出た。
「わ、私、き、今日は、ヴェリティさんに代わっていただきました…て、手首を傷めていたので…」
突然名指しされたヴェリティは驚いた。
「ーーーっ!?」
ファビオラは、表情を変えぬまま、ヴェリティを見た。
「ヴェリティ、あなたなの?」
「い、いえ…私は…」
そこへベテラン侍女のスーザンが口を挟む。
「ヴェリティさんです!」
「そう…ヴェリティだけ残って、後は下がりなさい。」
ファビオラは、そういうと侍女達は部屋を出て行ったが、クレシアだけは残る。
「クレシアも出ていいわよ?」
「いえ、奥様、ヴェリティさんではございません。ですから、私も残ります。」
「クレシアは何か知っているの?」
クレシアは覚悟を決めたような顔で言った。
「公子様がヴェリティさんにお優しくなさるので、若い子達がどうやら僻んでいるようです。」
「あら…やっぱりね…」
ファビオラは予想していたように呟いた。
「も、申し訳ありません。私が…」
「ヴェリティが壊したの?」
「いえ!私は奥様のお部屋には入っていません。
でも、公子様に優しくしていただいて、きっと私が謙虚な態度を忘れていたのかもしれません。」
ファビオラとクレシアは、目を合わせて頷いた。
「ヴェリティ、やってもいない罪を被らなくていいわ。
エミリオンが勝手にあなたに優しくしているだけだし。
ただ、こういうことはあってはならないから、ちょっと考えるわね。
今日は、エミリオンを迎えに行くまで、部屋で謹慎していなさい。」
「畏まりました。申し訳ありません。」
ヴェリティは、クレシアに連れられ、自分の侍女部屋に戻った。
部屋のドアが閉まった瞬間、ファビオラはあることを決意したのだった。
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