【完結】 今度は初恋から始めよう〜エミリオンとヴェリティのもう一つの恋物語〜

紬あおい

文字の大きさ
21 / 37

20.記憶






エヴァンス公爵家の護衛騎士は大抵のことは出来るので、必要な支度を終えると、また控え室に戻って行った。
エヴァンス公爵家に雇われた者達は、弁えた者ばかりなのだ。

そして、エミリオンとヴェリティは、静かに食事や湯浴みを済ませ、客室でのんびりと過ごすことにした。
いつも隣同士の二人は、今夜は向き合ってソファに座っている。

「ヴェリティが隣に居ないと変な感じだ。」

エミリオンは、俯いて何も話さないヴェリティを見つめ、この距離が今の自分達の距離なのかと、寂しさを感じていた。
距離を詰めたいと思っていたのに、より距離が遠くなってしまった。
今まで何でも上手く熟してきたエミリオンが、初めて挫折感を感じていた。

会話のない時間だけが過ぎていき、エミリオンもどうすればいいか分からなくなってしまった。
そして、は、ヴェリティの考えがまとまるまで、なのではないかと思った。

「ヴェリティ、君はここで寝るといい。俺は別室に行くよ。」

ソファから立ち上がって、ドアに向かって歩き出すエミリオンを、ヴェリティは後ろから抱き付いて引き留めた。

「行かないで!」

泣いているような叫びに、エミリオンが驚いて振り返るが、腰にしがみ付いているヴェリティの表情は見えない。
ただ、しがみ付く強さが、行って欲しくない気持ちの強さと比例していたらいいのにと、エミリオンは願った。

「ヴェリティ?」

「行かないで…一緒に居て…お昼間も、そう言えば良かった…
エミリオン様が誰かと並ぶ姿なんて、見たくなかった…
あなたの隣は、いつも私がいい…」

ひと言ごとに床に崩れていく姿が堪らなく愛おしくて、エミリオンはヴェリティを抱き締めた。

「ヴェリティ、気持ちを話してくれて、ありがとう。
俺が焦っているように、ヴェリティもいろいろ悩んだり、思うことがあったんだね。
でも、家のこと、周りのこと、全てを取り払ったら何が残る?
俺は、ヴェリティを愛しているって気持ちしか残らないよ?
その気持ちだけで、全てを捩じ伏せられる男になるから、ヴェリティも覚悟を決めて欲しい。」

「私は…何も持っていません…差し上げられる物は何一つ…」

エミリオンは、ヴェリティをソファに座らせ、跪いた。

「ヴェリティ、その身一つで俺に嫁いできてください。
君が隣に居てくれたら、俺はどんな人間にもなりましょう。
毎日隣で愛を囁き、誰よりも君を大切にし、死ぬ瞬間には、俺と添い遂げて良かったと思わせます。
君より一日でも長生きして、絶対に一人にはさせません。
でも、すぐに後から追い掛けて、手を繋いで旅立ちましょう。
そして、生まれ変わっても初恋から始めましょう。」

ヴェリティは、その瞬間、自分が死んだ場面が頭を駆け巡った。
それは『エミリオン様と居ると、やっぱり胸が騒がしいですわね』と微笑み、安らかに旅立つ年老いた自分だった。

(エミリオン様は…前世でも…)

ヴェリティは、これは自分の記憶かもしれないと思った。
その時、エミリオンが『次は初恋から始めよう』と言ったのも。

ヴェリティは、エミリオンの手を取り、頷いた。
その目から溢れる涙は、嬉し泣きの涙だった。





感想 13

あなたにおすすめの小説

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。

お互い好きにいたしましょう ~無能な夫は捨てて愛人と人生を歩みます~

今戸日予
恋愛
セレスティーヌはロジャー・グラハム侯爵と政略結婚をする事となった。 挙式当日、式場ではなく侯爵邸にいて契約書を前にしていたが、ロジャーは愛人のクロエと共にいて「君を愛することはない」と言い放った。 セレスティーヌは「分かりました。それならば、お互い好きにいたしましょう」と容認し、ロジャーの許可を得て契約書にその条項を付け足し、二人がイチャついている間に他にも条項を付け足した。 政略結婚であってもロジャーと愛し合えればと思っていたセレスティーヌは失望し、案内された部屋の粗末さから益々嫌気が差し、契約書に足した条項である「愛人可」を利用して、ロジャーの護衛の中から相手を選ぶ事にする。 そして侯爵家騎士団兵舎へ行き、ヴォルフ・エンドリヒに目を付け、一夜の相手になるように命令した。 それ以来、ヴォルフが愛人となって情を交わし続ける事となり……。 ※AIのサポート(主に名詞)有

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

3月5日コミカライズ配信♡二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした

こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】 伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。 しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。 そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。 運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた―― けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった―― ※「小説家になろう」にも投稿しています。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。10~15話前後の短編五編+番外編のお話です。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。  ※R7.10/13お気に入り登録700を超えておりました(泣)多大なる感謝を込めて一話お届けいたします。 *らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.10/30に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。 ※R7.12/8お気に入り登録800超えです!ありがとうございます(泣)一話書いてみましたので、ぜひ!

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?