【完結・外伝更新】 「貴様との婚約は破棄する」から始まった私達

紬あおい

文字の大きさ
12 / 61

12.嵐の後で

しおりを挟む

応接間に漂う静寂。
話し合いが終わり、父も母もソファでぐったりとしている。
その中で、私の隣に座るクリストファー殿下だけは、めらめらと紅の炎に包まれた雰囲気を醸し出している。

「リーチェ嬢、何故あそこまで我慢したのだ?」

低い声で、クリストファー殿下は呟く。
閉じた瞳と横顔まで美しいと、私は的外れなことを考える。

「家の為、か…?」

父も口を開く。

「お父様が決めた縁談でしたし、私も十六歳になりますから、家の役に立てるならと…最初は、ちょっとした嫌がらせだけだったし、気にしないスタンスを貫いていたら、どんどん増長して…流石に耐えるのも難しくて…あ、でも、侍女や護衛騎士は怒らないであげて?私が口止めしたのだから。」

「リーチェ…お前は…本当に阿呆だな…家のことなんか、どうでもいいんだよ…お前が幸せなら…すまない、お前に我慢を強いたのは、きっと私だな…」

父は俯いて、肩を落としている。
それを見た母は、父の肩を抱く。

「リーチェは、私やお父様が思っていたよりも、この家のことを考えていてくれたのね。でもね、お父様も私も娘の幸せが一番大事なの。チカプリオン令息も、評判は悪くなかったからリーチェの相手に選んだの。でも、人の評価は千差万別なのね。ごめんね、リーチェ。」

「大丈夫よ。私自身、あまり社交に積極的ではなかったから、知らなかったし。我慢の容量キャパが人よりも大きかったから、助けを求めるタイミングを失ったのかもしれません…」

「我慢の容量キャパ、か…」

クリストファー殿下は、またもや重低音を響かせる。

「リーチェ嬢、これからは皆を頼れ。」

「た、よ、る…」

「そうだ、心が手折たおれる前に頼れ。あそこまでされて、心が傷付かない訳はないだろうに…君は自分の我慢強さを過信している。あの夜も、今日も、俺には君が諸刃の剣のように思えたんだ。よく耐えたな…」

突然目の前がぼやけて、頬に温かいものが伝う。

「あ…あれ…?」

「リーチェ、今思うことを話してごらん?」

クリストファー殿下は、私の手を握り、優しく微笑み掛ける。

「わ、私…悔しかった…婚約者なのに、馬鹿にされて、嫌われて…大勢の前で笑われたり、悪く言われたり…」

「うん、それから?」

「やってもいないこと、全部私の所為にされて…階段から突き落とされそうになった時も、刺されそうになった時も、怖かった…」

「うん、怖かったね…………それから?」

「魅力がなくて、愛されないんだ…だから、こんなことになるんだって…」

「それは違う。リーチェが我慢しているのをいいことに、あいつらが増長したんだ。リーチェは、心が麻痺してしまったんだ。決してリーチェが悪いんじゃないよ。」

「私…悪くないの?」

「ああ、リーチェは悪くない。現に、抜群の行動力で奴との婚約破棄に漕ぎ着けたし。」

「そっか…私……やり切った?」

「ああ、やり切ったよ。まあ、俺からすれば、皇族の力を駆使して、奴らを牢屋にぶち込んで、公開処刑したい位だが、それはリーチェにとって本意ではないだろう?」

「そこまでは…ただ、平穏な日を過ごせたり、欲を言えば、今の幸せをこの先もずっと…」

「リーチェの幸せは、俺が守ろう。約束する。」

真剣なクリストファー殿下の瞳に吸い込まれそうになる。

「リーチェ、殿下、いちゃこらしたいなら、正式に婿入りしてからにしてくれ。」

「ほら、あなた、仕事しなさいな。」

甘い雰囲気をぶち壊す父を引き摺って、母は応接間から出て行った。
ドアが閉まる瞬間、ウィンクした母に、私もクリストファー殿下も笑うしかなかった。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

(完)イケメン侯爵嫡男様は、妹と間違えて私に告白したらしいー婚約解消ですか?嬉しいです!

青空一夏
恋愛
私は学園でも女生徒に憧れられているアール・シュトン候爵嫡男様に告白されました。 図書館でいきなり『愛している』と言われた私ですが、妹と勘違いされたようです? 全5話。ゆるふわ。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)

青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。 けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。 マルガレータ様は実家に帰られる際、 「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。 信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!! でも、それは見事に裏切られて・・・・・・ ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。 エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。 元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。

(完結)だったら、そちらと結婚したらいいでしょう?

青空一夏
恋愛
エレノアは美しく気高い公爵令嬢。彼女が婚約者に選んだのは、誰もが驚く相手――冴えない平民のデラノだった。太っていて吹き出物だらけ、クラスメイトにバカにされるような彼だったが、エレノアはそんなデラノに同情し、彼を変えようと決意する。 エレノアの尽力により、デラノは見違えるほど格好良く変身し、学園の女子たちから憧れの存在となる。彼女の用意した特別な食事や、励ましの言葉に支えられ、自信をつけたデラノ。しかし、彼の心は次第に傲慢に変わっていく・・・・・・ エレノアの献身を忘れ、身分の差にあぐらをかきはじめるデラノ。そんな彼に待っていたのは・・・・・・ ※異世界、ゆるふわ設定。

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

(完結)私が貴方から卒業する時

青空一夏
恋愛
私はペシオ公爵家のソレンヌ。ランディ・ヴァレリアン第2王子は私の婚約者だ。彼に幼い頃慰めてもらった思い出がある私はずっと恋をしていたわ。 だから、ランディ様に相応しくなれるよう努力してきたの。でもね、彼は・・・・・・ ※なんちゃって西洋風異世界。現代的な表現や機器、お料理などでてくる可能性あり。史実には全く基づいておりません。

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

処理中です...