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14.父と息子 Side クリストファー
しおりを挟むリーチェと出逢ったのは、本当に偶然だった。
俺が三歳の時に亡くなった母シルヴィアの弟の親戚筋のパーティに、顔だけ出すつもりで行った。
身内と呼べるかも疑問だが、数少ない親戚に義理でも果たすかと、ほんの気まぐれで出掛けただけだった。
そんな時、いきなりリーチェに手を掴まれた。
「ちょっ、おまっ!?(お前は誰だ?)」
「しっ!黙って!!」
こんな出逢い、なかなかないだろう。
庶子とはいえ、第三皇子だ。
俺じゃなかったら、普通に不敬罪に問われただろう。
しかし、俺には新鮮に感じた扱い方だった。
この先に待つものは何だろう。
そんな好奇心だけで、リーチェに着いて行った。
そこで見たものよりも、リーチェの勇ましい姿に妙な感動を覚えた。
あの夜、俺が記憶する限り、生まれて初めてあんなに笑った。
リーチェの行動、表情、全てが面白かった。
何なんだ、この女は!?
その気持ちがどんどん膨らみ、この女が欲しいと思った。
偶然を格好良く言えば、運命かもしれないと思ったりもする。
そして、ヴァーミリアン侯爵家の温かい雰囲気が気に入った。
ヴァーミリアン侯爵のリーチェへの『阿呆』という言葉は愛に溢れている。
夫人の言う『不器用で愛らしい人』というのは、娘に対しても発揮されている。
そして、夫人の明るさも、俺が経験出来なかった母親像そのものだ。
俺は、母が側室だった期間が短かった為、小さな離宮を充てがわれ、ひっそりと暮らしていた。
最低限の待遇と使用人。
皇位継承は天変地異でも起こらなければないだろうという立場。
だが、その天変地異も想定して、受けさせられた皇太子教育。
面白味のない毎日が続く。
そんな日々の中で、いつしか笑わないことが当たり前になっていた。
人は俺のことを『要らない子』『不遇の皇子』『冷血皇子』と好き勝手に呼ぶ。
唯一、陛下は命日に離宮を訪れ、母を弔う。
父親らしいことと言えば、それだけだ。
リーチェを娶れば、愛しい妻と優しい両親が手に入るという打算がない訳ではなかったが、今となれば、ただあの家族の一員になって、毎日笑って暮らしたいと願う自分が居る。
その為に、初めて陛下に我儘を言った。
「リーチェ・ヴァーミリアン侯爵令嬢とテオナルド・チカプリオン伯爵令息の婚約破棄の手続きを至急お願いします!そして、俺とリーチェ・ヴァーミリアン侯爵令嬢の結婚を皇命としてください!!」
「はへっ!?」
父の口から変な音が漏れたが、俺の顔付きを見て察したのだろう。
陛下が父親の顔で笑った。
「はっはっはっ、クリストファーが我儘を!」
「はい、私を笑わせてくれる唯一の女性を見つけました。絶対に逃したくないので、皇命でお願いします!」
「そうか…忙しさや正妃との関係を言い訳にして、そなたを蔑ろにしていてすまない。あまり例はないが、そなたの為に父親として出来ることがあって、嬉しく思う。しかし、ヴァーミリアン侯爵家となると、入り婿となり、皇位継承は今よりも難しくなるだろう。そなたは、その覚悟も決めたのか?」
「元よりそのような欲もありません。リーチェでなければ、未だに自分の行く先も考え付かなかったでしょう。でも、リーチェとの出逢いで、自分の居たい場所を見付けた気がします。」
「分かった。自由に生きなさい。ヴァーミリアン侯爵は、ちょっと阿呆なところもあるが、なかなか漢気のある人物だ。」
「あははは、リーチェは侯爵似なんですよ!」
リーチェの阿呆が父譲りだと陛下にも認定されている気がして、俺はその場で笑ってしまった。
「ああ…そなたの笑顔を初めて見た…すまない、こんな父親で…早急に承認するから、幸せになりなさい。」
この日、皇帝陛下である人を、父親と感じた日だった。
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