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15.無理難題
しおりを挟む初めて口付けてから半月、クリストファー殿下は毎日侯爵邸で過ごしている。
朝から訪れ、夕方には帰って行き、決して泊まらない。
結婚するまでは純潔を守るという、クリストファー殿下なりの決め事らしい。
初めて口付けた日から、クリストファー殿下は私に触れる時、慎重になった。
それは、また私が意識を失ったら困るという理由だ。
あの後、大騒ぎになり、父の怒鳴り声で私の意識が戻ったのだ。
今日も、応接室でソファに並んで座っているが、拳二つ分は空いている。
「リーチェ、あの時はすまない。加減出来ずに刺激が強過ぎたのだな。」
未だに、しょんぼりするクリストファー殿下。
いつもは、その話題は聞くだけなのだが、結構な頻度で反省会をするので、流石の私も疑問を口にした。
「殿下は、本当は加減が利くのですか?」
「えっ!?それは、どういう意味?」
「いや、場慣れしていると加減が出来るものなのかしら、と…」
「ば、場慣れしていたら…あんなことにはならなかっただろう?あんな、がっつくみたいに…」
(…ん?もしや、経験がない…?)
「あの…殿下も初心者ということで?」
私は、珍しく言葉を選んだが、クリストファー殿下には違和感しかなかったようだ。
「リーチェ、はっきり言っていいよ?」
「いいんですか?」
「ああ。」
「殿下、童貞だったんですね?口付けも!?」
「はい、はい、そうです、その通りですよ。十八にもなって、恋愛初心者ですけど?気は澄んだか?」
「何か、嬉しいです。殿下の初めて、ぜーんぶぜーんぶ私なんですね!!私も初めてだから、一緒に学ばなきゃですね。」
無邪気に微笑むと、クリストファー殿下は両手で顔を覆う。
あれ以来、真っ赤になることも増えて、クリストファー殿下がかなりの照れ屋さんであることが分かった。
「んもう、ほんと、殿下、可愛いーー!!」
「そうやって、揶揄って!俺が本気を出したら、また気絶するくせに煽るな!!」
ぷいっと横を向く膨れっ面が愛おしくて、私は頬に口付ける。
「っ、なっ!?やめなさい!俺がやめられなくなるから!!」
「でも、それではちっとも慣れませんよ?練習しないと、初夜に気絶したらどうしましょう…」
「それは、やだっ!!なら、今日から少しずつ練習しよう。リーチェから口付けたら、きっと気絶しないぞ?」
わくわくした瞳が私を射抜く。
「えっ!?私、から…?」
「言い出しっぺからした方がいいのでは?タイミングとか、深さとか、好きに出来るぞ?」
「な、なるほど!では、殿下、目を閉じてください!!」
目を閉じたクリストファー殿下の顔があまりにも美しくて、じっと見惚れる。
(うわっ、綺麗!!)
何も起こらない状態に、薄目を開けたクリストファー殿下は、叫んで横に飛び退いた。
「うわぁー、リーチェ、鼻血!鼻血!!」
渡されたハンカチで鼻を押さえると、クリストファー殿下は既に笑い転げていた。
「リーチェは、やっぱり面白いな!」
やっぱり恋愛初心者の私には、自分からの口付けは難易度が高過ぎたようだ。
赤く染まるハンカチの刺繍を見つめながら、私は無理だと諦めた。
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