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6.夫の居ない夜
しおりを挟むアヴィスが不在の二日目。
「今夜も一人か…明日も…」
アヴィスはタチアナの元に居る。
それが、どうしようもなく悲しくて寂しい。
湯浴みも済んだのに、眠れずに執務室に来てしまった。
どうせ眠れないから、仕事でもしようかと。
私はアヴィスがとても好きだ。愛してる。
婚約の申し込みがあった時、全く知らない人なのに何故?と思ったが、会ってみてあまりに素敵な男性で一目惚れしたのだ。
シルバーアッシュの髪と碧眼、低くて落ち着いた声。
私は、アヴィスに一瞬で恋に落ちた。
でも、アヴィスの事情は知りたくなくても、どんどん耳に入ってきた。
こういう人と結婚して上手くいくのだろうかと、何度も自問自答した。
そして、一年の婚約期間中に出した答えが初夜でアヴィスに話したことだ。
私の気持ち全てを話したわけではないが、必要なことは伝えた。
子どもを産み育て、未来の公爵夫人としての責務を果たす、在り来りな貴族の結婚。
愛する人の傍に居られるなら、それで充分じゃないか。
政略結婚では、顔も知らない年の離れた人や暴力を振るう人に嫁がされることもある。
そう思えば、アヴィスは優しく親切で、申し分ない夫だ。
(そう!私には勿体ない位の夫だ。私も頑張らなくちゃ!!)
気を取り直して、仕事をすることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ふわりと石鹸の匂いがして、ふと気付くとベッドに居た。
「あれ…?私…」
「執務室で寝るな。風邪をひくだろ?」
驚いて飛び起きると、アヴィスがベッドに腰掛けて、濡れた髪を拭いている。
「え…何で?夢??」
「ふっ、夢じゃないぞ?旦那様のお帰りだが?」
「あ、お帰りなさいませ。」
正座して頭を下げると、アヴィスが吹き出す。
「ぷっ、あははっ!君は相変わらず、面白いな!!」
何が何やら分からず、私はひたすら動揺する。
「ほら、寝るぞ!」
腕枕してやると言いたげに、二の腕の所をトントンしている。
「はい、失礼します…」
そのまま包まれるように抱き締められ、耳に口付けられた。
くすぐったさに身を捩ると、抱き締める力が強くなったので、大人しく寝ることにした。
(何かあったのかな…ま、いっか!寝よっと。)
アヴィスのぬくもりが心地良くて、私はそのまま眠りに落ちた。
「アヴィス様、愛しております…」
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