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6.騎士団長の想い出
しおりを挟む「俺には初恋の女性が居てね。」
「はっ!?初恋?」
聞いて欲しいというのは、まさかのリースハルトの初恋の話で、リンネは一瞬ソファからお尻が浮きかけた。
「このまま聞いてくれ。」
「は、はい…」
リースハルトは、リンネの腰をがっつりと掴み、初恋の話を続ける。
「それは五年前、俺が十五歳の時だ。
護衛を忍ばせ、祖母と二人、街に買い物に出たんだ。
病気がちな祖母だが、その日は体調が良く、久しぶりに街に出たいと言われたんだ。」
「お優しいのですね。」
リースハルトは、リンネを見て微笑む。
「祖母と二人、刺繍糸や生地を見て、その後、街をゆっくり散策していたんだ。
その時、引ったくりに遭って、盗まれた物はないのだが、祖母が転んで怪我をしてしまってな…打撲だけでなく、腕の切り傷や、驚いて発作まで起こしてしまって、俺は慌ててしまったんだ。」
「それは驚かれたことでしょう…」
お祖母様思いのリースハルトに、リンネは心を打たれた。
「その時、俺よりも若そうで小柄な女の子が近寄ってきたんだ。
『そのお怪我にお薬を塗らせてください。この飲み薬は、気持ちを落ち着かせるお薬です。お体に負担を掛ける成分は含まれておりません。』と。
あどけない優しい微笑みで、祖母は落ち着きを取り戻し、飲み薬のおかげで、発作もじきに治まったのだ。」
リースハルトは、ふうっと息を吐き、喉が渇いたのか、飲み物をくいっと飲んだ。
(えっ!?待って、待って!それは、媚薬成分の高いやつの予備!!」
「騎士団長さまっ!それはお水ではありません!!」
「いいから、聞けっ!!!」
「はっ、はい…」
「すまない、話したい気持ちが先立ってしまったようだ。取り敢えず、聞いてくれ。
そして、その子は祖母の手を握り、更に落ち着くまで傍にいてくれたんだ。
俺はその時、彼女に恋をしたんだ。」
(あらまぁ、頬を染めていらっしゃる。素敵な初恋の想い出が始まるのかしら?)
リンネは、ちくりと胸の痛みを感じたが、この美しい騎士団長の恋の話をもっと聞いてみたかった。
「それから、俺は街に出る度に彼女を探したんだ。
でも、会えなくて、名前すら聞かなかったことを只管後悔したよ。
たった一度会っただけなのに、会いたくて、彼女の笑顔が夢に出てきて、切なくて胸が苦しかった。」
「それは、もう恋とか愛なのでしょうね。」
リースハルトは、リンネの肩に頭を乗せて、まるで恥じらう少年のようだった。
(何て、可愛らしいお方なのかしら。こんなお方に希われる女性は幸せでしょう…)
「そう、俺もそう思う。俺は、それからもずっと彼女を探して探して…もう五年だ。
いつも頭の片隅に彼女がいて。休みの日にも、ずっと彼女が頭から離れなくて。
もし見つけたら、女性に対しては極端に口下手な俺だが、彼女には絶対に、この想いを余すことなく伝えようと心に決めていたんだ。」
「そうなんですね。団長様みたいな素敵なお方にこんなに想われるお方は、とてもお幸せだと思いますわ。」
リンネは、目の前の恋する少年のようなリースハルトを応援したくなった。
「見つかるといいですね、そのお方が。」
「だから、自白剤を頼んだんだ。」
「はっ!?」
リースハルトは、頭を持ち上げ、喰い入るようにリンネを見た。
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