6 / 55
6.騎士団長の想い出
「俺には初恋の女性が居てね。」
「はっ!?初恋?」
聞いて欲しいというのは、まさかのリースハルトの初恋の話で、リンネは一瞬ソファからお尻が浮きかけた。
「このまま聞いてくれ。」
「は、はい…」
リースハルトは、リンネの腰をがっつりと掴み、初恋の話を続ける。
「それは五年前、俺が十五歳の時だ。
護衛を忍ばせ、祖母と二人、街に買い物に出たんだ。
病気がちな祖母だが、その日は体調が良く、久しぶりに街に出たいと言われたんだ。」
「お優しいのですね。」
リースハルトは、リンネを見て微笑む。
「祖母と二人、刺繍糸や生地を見て、その後、街をゆっくり散策していたんだ。
その時、引ったくりに遭って、盗まれた物はないのだが、祖母が転んで怪我をしてしまってな…打撲だけでなく、腕の切り傷や、驚いて発作まで起こしてしまって、俺は慌ててしまったんだ。」
「それは驚かれたことでしょう…」
お祖母様思いのリースハルトに、リンネは心を打たれた。
「その時、俺よりも若そうで小柄な女の子が近寄ってきたんだ。
『そのお怪我にお薬を塗らせてください。この飲み薬は、気持ちを落ち着かせるお薬です。お体に負担を掛ける成分は含まれておりません。』と。
あどけない優しい微笑みで、祖母は落ち着きを取り戻し、飲み薬のおかげで、発作もじきに治まったのだ。」
リースハルトは、ふうっと息を吐き、喉が渇いたのか、飲み物をくいっと飲んだ。
(えっ!?待って、待って!それは、媚薬成分の高いやつの予備!!」
「騎士団長さまっ!それはお水ではありません!!」
「いいから、聞けっ!!!」
「はっ、はい…」
「すまない、話したい気持ちが先立ってしまったようだ。取り敢えず、聞いてくれ。
そして、その子は祖母の手を握り、更に落ち着くまで傍にいてくれたんだ。
俺はその時、彼女に恋をしたんだ。」
(あらまぁ、頬を染めていらっしゃる。素敵な初恋の想い出が始まるのかしら?)
リンネは、ちくりと胸の痛みを感じたが、この美しい騎士団長の恋の話をもっと聞いてみたかった。
「それから、俺は街に出る度に彼女を探したんだ。
でも、会えなくて、名前すら聞かなかったことを只管後悔したよ。
たった一度会っただけなのに、会いたくて、彼女の笑顔が夢に出てきて、切なくて胸が苦しかった。」
「それは、もう恋とか愛なのでしょうね。」
リースハルトは、リンネの肩に頭を乗せて、まるで恥じらう少年のようだった。
(何て、可愛らしいお方なのかしら。こんなお方に希われる女性は幸せでしょう…)
「そう、俺もそう思う。俺は、それからもずっと彼女を探して探して…もう五年だ。
いつも頭の片隅に彼女がいて。休みの日にも、ずっと彼女が頭から離れなくて。
もし見つけたら、女性に対しては極端に口下手な俺だが、彼女には絶対に、この想いを余すことなく伝えようと心に決めていたんだ。」
「そうなんですね。団長様みたいな素敵なお方にこんなに想われるお方は、とてもお幸せだと思いますわ。」
リンネは、目の前の恋する少年のようなリースハルトを応援したくなった。
「見つかるといいですね、そのお方が。」
「だから、自白剤を頼んだんだ。」
「はっ!?」
リースハルトは、頭を持ち上げ、喰い入るようにリンネを見た。
あなたにおすすめの小説
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
4月2日コミカライズ配信♡二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
離宮に隠されるお妃様
agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか?
侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。
「何故呼ばれたか・・・わかるな?」
「何故・・・理由は存じませんが」
「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」
ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。
『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』
愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。
【恋愛】目覚めたら何故か騎士団長の腕の中でした。まさかの異世界トリップのようです?
梅花
恋愛
日下美南(くさかみなみ)はある日、ひょんなことから異世界へとトリップしてしまう。
そして降り立ったのは異世界だったが、まさかの騎士団長ベルゴッドの腕の中。
何で!?
しかも、何を思ったのか盛大な勘違いをされてしまって、ベルゴッドに囲われ花嫁に?
堅物騎士団長と恋愛経験皆無の喪女のラブロマンス?
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。