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25.辞職と送別会
しおりを挟むリンネは、一年ちょっと勤めた薬師部屋を辞めることになり、辞表を鞄に収め出勤した。
昨夜はリースハルトに抱き潰される寸前で制し、気怠さは残るも辞表を認めた。
辞職の理由は『一身上の都合』としたので、マルガリーテからの追及は逃れられない気がしていた。
案の定、翌朝出勤してきたマルガリーテに話すと、よくもまあそんなに文句が出るなと思う位の嫌味が炸裂した。
「大体、一年やそこらで一人前の薬師になれたとでも思っているの?
流石、クリオネア侯爵令嬢ね!リースハルト卿にも依怙贔屓されて、調子に乗ってしまったのかしら?後片付けばかりしていたくせに。」
「ご迷惑をお掛けすることになり、申し訳ございません。ただ侯爵令嬢ということは、今は関係ありません。」
リンネは只管頭を下げたが、マルガリーテの怒りは収まらない。
「迷惑掛ける程の腕前だったかしら?
まあ、いいわ。皆にも話さなければいけないし、今夜はリンネの奢りで送別会にしましょう。
お世話になった先輩方にご馳走しなさい。
店は私が予約しておくわ!」
「………はい…」
理不尽だと思いながらも、リンネは承諾した。
そして、昼休み、マルガリーテはいつも通り、人一倍早く昼食に出掛け、リンネは薬師部屋に残った。
最後だと思いながら、一人で部屋を見回していると、リースハルトが昼食持参でやって来た。
「リンネ、昼飯だ。」
「ありがとうございます。でも、あまり食欲がなくて…」
元気のないリンネに気付いたリースハルトは、心配そうに顔を覗き込んだ。
「どうした?辞表は出したのか?」
「はい…今夜は私の奢りで送別会らしいです。薬師長の勢いに、断り切れませんでした…」
リースハルトはリンネに気付かれないよう、静かにブチ切れていた。
(あの糞女、調子に乗りやがって!!)
「リンネ、金は気にしないで行って来い。帰りは、店まで迎えに行くから安心しろ。」
「でも、リースハルト様もお仕事が!」
「俺の仕事は、リンネを護ることだ。だから、気にするな。」
リンネはリースハルトが来てくれるならと、内心はホッとしたのだった。
その夜、総勢十二名がリンネの送別会に集まった。
「リンネ、辞めたら無職?お嬢様は違うわねぇ!」
「リースハルト卿をどうやって誑し込んだの?貧相な体付きかと思ってたけど?あはははっ!」
マルガリーテだけでなく、先輩薬師のカタリーゼやミルフィナにも嫌味を言われ、他の薬師達も嘲笑っているようだった。
リンネは精神的に疲れ果てていた頃、リースハルトが騎士を引き連れ、五人で乗り込んできた。
「リンネの送別会と聞いてきた。なかなか良い店じゃないか。楽しんでいるか?」
リースハルトが連れて来た騎士は、眉目秀麗な侯爵家や伯爵家の令息だった。
さっぱり分からないのはリンネだけで、薬師達は浮き足だった反応をしている。
「何だ?リンネは疲れた顔をしているな。」
「ええ…ちょっと…」
「では、リンネはこれで帰ろう。アルバート、後は頼んだぞ?」
「御意!」
リースハルトはアルバート・トドメシャス侯爵令息に声を掛け、にやりと笑った。
「団長、お任せください。さあ、薬師のお嬢様方、私達と飲みましょう!!」
「「「はい!」」」
リンネに嫌味を言っていた人々とは思えない程、皆頬を染め、アルバートを始めとする騎士達を囲んだ。
しかし、唯一マルガリーテだけは、リースハルトから目を離さなかった。
「ちょっと横暴ではございません?いきなり乱入してきて、主役を連れ去るのは。」
「俺の妻を連れ帰って何が悪いのだ?文句なら陛下に言え!」
「はあっ!?妻?」
そのままリンネはリースハルトに手を引かれ、送別会を抜け出した。
もちろん代金など払わないし、置いてきた騎士達には好きなだけタダ酒を呑めと言い含めて。
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