【連載版】 極秘任務で使いたいから自白剤を作ってくれと言った近衛騎士団長が自分語りをしてくる件について

紬あおい

文字の大きさ
25 / 53

25.辞職と送別会

しおりを挟む



リンネは、一年ちょっと勤めた薬師部屋を辞めることになり、辞表を鞄に収め出勤した。
昨夜はリースハルトに抱き潰される寸前で制し、気怠さは残るも辞表をしたためた。
辞職の理由は『一身上の都合』としたので、マルガリーテからの追及は逃れられない気がしていた。

案の定、翌朝出勤してきたマルガリーテに話すと、よくもまあそんなに文句が出るなと思う位の嫌味が炸裂した。

「大体、一年やそこらで一人前の薬師になれたとでも思っているの?
流石、クリオネア侯爵令嬢ね!リースハルト卿にも依怙贔屓されて、調子に乗ってしまったのかしら?後片付けばかりしていたくせに。」

「ご迷惑をお掛けすることになり、申し訳ございません。ただ侯爵令嬢ということは、今は関係ありません。」

リンネは只管頭を下げたが、マルガリーテの怒りは収まらない。

「迷惑掛ける程の腕前だったかしら?
まあ、いいわ。皆にも話さなければいけないし、今夜はリンネの奢りで送別会にしましょう。
お世話になった先輩方にご馳走しなさい。
店は私が予約しておくわ!」

「………はい…」

理不尽だと思いながらも、リンネは承諾した。

そして、昼休み、マルガリーテはいつも通り、人一倍早く昼食に出掛け、リンネは薬師部屋に残った。
最後だと思いながら、一人で部屋を見回していると、リースハルトが昼食持参でやって来た。

「リンネ、昼飯だ。」

「ありがとうございます。でも、あまり食欲がなくて…」

元気のないリンネに気付いたリースハルトは、心配そうに顔を覗き込んだ。

「どうした?辞表は出したのか?」

「はい…今夜は私の奢りで送別会らしいです。薬師長の勢いに、断り切れませんでした…」

リースハルトはリンネに気付かれないよう、静かにブチ切れていた。

(あの糞女、調子に乗りやがって!!)

「リンネ、金は気にしないで行って来い。帰りは、店まで迎えに行くから安心しろ。」

「でも、リースハルト様もお仕事が!」

「俺の仕事は、リンネを護ることだ。だから、気にするな。」

リンネはリースハルトが来てくれるならと、内心はホッとしたのだった。



その夜、総勢十二名がリンネの送別会に集まった。

「リンネ、辞めたら無職?お嬢様は違うわねぇ!」

「リースハルト卿をどうやってたらし込んだの?貧相な体付きかと思ってたけど?あはははっ!」

マルガリーテだけでなく、先輩薬師のカタリーゼやミルフィナにも嫌味を言われ、他の薬師達も嘲笑っているようだった。
リンネは精神的に疲れ果てていた頃、リースハルトが騎士を引き連れ、五人で乗り込んできた。

「リンネの送別会と聞いてきた。なかなか良い店じゃないか。楽しんでいるか?」

リースハルトが連れて来た騎士は、眉目秀麗な侯爵家や伯爵家の令息だった。
さっぱり分からないのはリンネだけで、薬師達は浮き足だった反応をしている。

「何だ?リンネは疲れた顔をしているな。」

「ええ…ちょっと…」

「では、リンネはこれで帰ろう。アルバート、後は頼んだぞ?」

「御意!」

リースハルトはアルバート・トドメシャス侯爵令息に声を掛け、にやりと笑った。

「団長、お任せください。さあ、薬師のお嬢様方、私達と飲みましょう!!」

「「「はい!」」」

リンネに嫌味を言っていた人々とは思えない程、皆頬を染め、アルバートを始めとする騎士達を囲んだ。
しかし、唯一マルガリーテだけは、リースハルトから目を離さなかった。

「ちょっと横暴ではございません?いきなり乱入してきて、主役を連れ去るのは。」

「俺の妻を連れ帰って何が悪いのだ?文句なら陛下に言え!」

「はあっ!?妻?」

そのままリンネはリースハルトに手を引かれ、送別会を抜け出した。
もちろん代金など払わないし、置いてきた騎士達には好きなだけタダ酒を呑めと言い含めて。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。 ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。 引き続きよろしくお願いいたします。

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完】皇太子殿下の夜の指南役になったら、見初められました。

112
恋愛
 皇太子に閨房術を授けよとの陛下の依頼により、マリア・ライトは王宮入りした。  齢18になるという皇太子。将来、妃を迎えるにあたって、床での作法を学びたいと、わざわざマリアを召し上げた。  マリアは30歳。関係の冷え切った旦那もいる。なぜ呼ばれたのか。それは自分が子を孕めない石女だからだと思っていたのだが───

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

処理中です...