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26.夢と護りたい人達
「リンネ、俺達の家に帰ろう。」
リースハルトはリンネを横抱きにし、馬車に乗った。
別邸に着くまで、リンネはリースハルトの胸に顔を埋めたまま何も言わず、ただ俯いていた。
別邸に到着すると、リースハルトは寝室までリンネを離さなかった。
リースハルトなりに、リンネの気持ちを慮っていたからだ。
「さあ、リンネ、茶でも飲もう。」
自らアールグレイの紅茶を淹れ、リンネに差し出す。
「わぁ、美味しい!」
「だろう?料理は出来ないが、茶は淹れられる。」
ゆっくりとひと口ひと口味わうリンネは、いつしか涙目だった。
「おいっ、リンネ、どうした?」
「私は…薬師部屋ですら居場所がなかったみたいです。名前だけの侯爵令嬢なのになぁ…」
乱入する前から会話を聞いていたリースハルトは、リンネが想像以上に傷付いていたことに心を痛めた。
「俺がリンネを見つけなかったら、リンネの夢は叶ったのか?」
リンネは驚いてリースハルトを見つめた。
リースハルトを責めていた訳ではなく、ただ自分という存在が情けなかっただけだ。
「違います。あそこに居ても私の夢は叶わなかったでしょう。また誰かと比較されて、ずっとあのままだったと思います。
ただ家格というものは、自分ではどうにもならないのだなと…
きっと側から見れば、私は何不自由なく生まれ育ったように見えるんでしょうね。
誰も私の努力など見てくれなかった…リースハルト様以外には。」
「少しだけ迷ったんだ。リンネを見つけた日、あの薬をくれた少女の夢が叶ったのに、国のごたごたに巻き込んでいいのかと…
でも、俺がリンネを諦められなかった。すまない。」
リースハルトは、リンネに頭を下げて、握った拳を見つめていた。
「そんなこと言わないでください。陛下や殿下をお助けする役割をいただいて、更に貧しい人達に薬を届けられるかもしれないのですから。
私、気持ちを切り替えて頑張りますよ?
今日は、ちょっと疲れてしまっただけです。
だから、リースハルト様、癒やして?」
顔を上げたリースハルトは、両手を広げて、ふわりと飛び込むリンネを抱き止めた。
「いくらでも癒しましょう、我が妻よ。」
リンネは、いつもの笑顔を取り戻し、リースハルトに口付けた。
啄むような口付けが少し物足りなくても、リースハルトはリンネからの口付けが嬉しい。
そして、リンネもリースハルトが黙って受け止めてくれることが嬉しい。
「リースハルト様、明日は温室に行けるのですか?私、薬草とか楽しみで!」
「ああ、案内しよう。調合台や器具もあるから、足りない物があったら好きに揃えていい。
助手が必要ならば言ってくれ。」
「取り敢えず、一人で始めてみます。何ならリースハルト様が助手で?お茶を淹れるのがお上手でしたから、もしかしたら向いてるかも!」
「それもいいな。近衛騎士団の方は優秀な部下が居るし、裏の指揮官はジルフリード殿下だ。
たまには殿下に働いてもらう。ククッ!」
「ジルフリード殿下はお強いのですか?」
「強いよ、俺の次に。巫山戯てばかりだが、剣の腕は確かだ。ていうか、ジルフリード殿下が俺に教えてくれたんだがな。いつの間にか追い越してしまった。」
「まあ、リースハルト様ったら!」
「仕方ないさ、あんな環境で育った俺と、優しい両陛下の元で育ったジルフリード殿下とでは、命の賭け方が違う。それでも、シルヴェスタ殿下が毒を盛られた時から、顔付きが変わったな。」
この時リンネは、自分の役割を改めて受け止めた。
優しい人達を護る為に。
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