【連載版】 極秘任務で使いたいから自白剤を作ってくれと言った近衛騎士団長が自分語りをしてくる件について

紬あおい

文字の大きさ
27 / 53

27.夢の始まり

しおりを挟む


翌日、リースハルトとリンネは、温室の鍵を受け取る為に、シルヴェスタ殿下に会いに行った。

「正式発表は、官報でリースハルトがガルディアン公爵を授爵し、温室担当となったリンネと結婚することのみとする。
それはApothicairアポティケール   impérialアンペリアルという存在自体が秘匿だからだ。
名目上の温室担当は、珍しい薬草を育て、必要な薬の調合をすることが業務とする。
実際の業務と掛け離れた、軽い地位となってしまうことは申し訳なく思う。
その代わり、一般的な治療薬を好きなだけ調合出来る予算を組んだ。
そこは収益関係なく、貧しい者達に無償で支給出来る。
そして、ガルディアン公爵家の設立や、二人の結婚が官報での公表というのも、すまない。
今、大々的に発表すれば悪目立ちする可能性がある。
一年程は結婚式も我慢してもらいたい。
その代わり、今君達が住んでいる皇子名義の邸は、そのまま進呈しよう。」
いろいろ後出しで申し訳ないが、これで手を打ってくれないか?」

「畏まりました。ご配慮に感謝いたします。」

リンネは今住んでいる別邸が皇室所有物件だったことに驚きながらも、シルヴェスタ殿下に従うことにしたが、リースハルトは少し不満だったようだ。

「しかし、貧しい者達に無償で支給するという予算はどこから出ているのでしょう?」

「国庫からだ。」

「税収からだと、自分で購入しているのと同じでは?」

「っ!?リースハルト、痛いところを突くな。しかし、現状これ以外は難しいのだ。その代わり、領主が不正に売ったり出来ないように、受け渡し記録を提出させ、背いた者は処罰する。
領地の民が健康ならば自ずと税収も確保出来ると文書も出す。」

「承知しました。」

二人のやり取りを聞きながら、いつもなら結婚式について不満を漏らしそうなリースハルトが、薬を行き渡らせることに注視していたことに感動した。

「リンネ嬢、今、リースハルトに惚れ直しただろう?」

シルヴェスタ殿下に揶揄われ、リンネは頬を染めてリースハルトの後ろに隠れた。

「殿下、リンネに話し掛けるのはおやめください。」

「分かったよ。全く…男の嫉妬は…はぁ…」

呆れるシルヴェスタ殿下を背に、リースハルトはリンネの手を引き、温室へと向かった。
そこは、一般的な花々が咲き乱れる温室とは別物で、薬草の宝庫という陛下の話は真実だった。

「凄いですね!キバナオウギにジギタリス、ベラドンナ、ハーブもたくさん!」

(本当に薬草が好きなんだな。リンネの力を活かしてやりたいな。)

きらきらした瞳のリンネを見て、リースハルトも心が弾むような気持ちになる。

「調合台とかも見てみよう。」

温室の一角が調合室になっていて、使われていない筈なのにきちんと整備されていた。

「大釜や専用暖炉や蒸留器アランビックも手入れもされているし、すぐにでも始められそうです。あとは、小瓶や薬包紙があれば皆に配れますね。」

「湿気対策で配布用の小さな缶も必要ではないか?薬を飲み切ったら、缶ごと返却してもらい、また別の缶に入れて渡せばいいだろう。陶器は割れて怪我をしたら面倒だしな。」

「リースハルト様!あなたは天才ですか!?私は調合を頑張りますので、配布については、地域やルートをお任せしてもいいですか?」

「ああ、もちろんだ。近衛騎士団に入る前は、下っ端騎士としてあちこち行っていたから、協力してくれる者も居るだろう。
解毒剤については、陛下や殿下達からの情報が来るまで待とう。」

「はい!」

リンネとリースハルトは、小さな目標から始めることにした。
ただ、これは本人達が小さな目標と思っていただけで、実は途轍もない試みだった。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。 ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。 引き続きよろしくお願いいたします。

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完】皇太子殿下の夜の指南役になったら、見初められました。

112
恋愛
 皇太子に閨房術を授けよとの陛下の依頼により、マリア・ライトは王宮入りした。  齢18になるという皇太子。将来、妃を迎えるにあたって、床での作法を学びたいと、わざわざマリアを召し上げた。  マリアは30歳。関係の冷え切った旦那もいる。なぜ呼ばれたのか。それは自分が子を孕めない石女だからだと思っていたのだが───

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

処理中です...