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27.夢の始まり
しおりを挟む翌日、リースハルトとリンネは、温室の鍵を受け取る為に、シルヴェスタ殿下に会いに行った。
「正式発表は、官報でリースハルトがガルディアン公爵を授爵し、温室担当となったリンネと結婚することのみとする。
それはApothicair impérialという存在自体が秘匿だからだ。
名目上の温室担当は、珍しい薬草を育て、必要な薬の調合をすることが業務とする。
実際の業務と掛け離れた、軽い地位となってしまうことは申し訳なく思う。
その代わり、一般的な治療薬を好きなだけ調合出来る予算を組んだ。
そこは収益関係なく、貧しい者達に無償で支給出来る。
そして、ガルディアン公爵家の設立や、二人の結婚が官報での公表というのも、すまない。
今、大々的に発表すれば悪目立ちする可能性がある。
一年程は結婚式も我慢してもらいたい。
その代わり、今君達が住んでいる皇子名義の邸は、そのまま進呈しよう。」
いろいろ後出しで申し訳ないが、これで手を打ってくれないか?」
「畏まりました。ご配慮に感謝いたします。」
リンネは今住んでいる別邸が皇室所有物件だったことに驚きながらも、シルヴェスタ殿下に従うことにしたが、リースハルトは少し不満だったようだ。
「しかし、貧しい者達に無償で支給するという予算はどこから出ているのでしょう?」
「国庫からだ。」
「税収からだと、自分で購入しているのと同じでは?」
「っ!?リースハルト、痛いところを突くな。しかし、現状これ以外は難しいのだ。その代わり、領主が不正に売ったり出来ないように、受け渡し記録を提出させ、背いた者は処罰する。
領地の民が健康ならば自ずと税収も確保出来ると文書も出す。」
「承知しました。」
二人のやり取りを聞きながら、いつもなら結婚式について不満を漏らしそうなリースハルトが、薬を行き渡らせることに注視していたことに感動した。
「リンネ嬢、今、リースハルトに惚れ直しただろう?」
シルヴェスタ殿下に揶揄われ、リンネは頬を染めてリースハルトの後ろに隠れた。
「殿下、リンネに話し掛けるのはおやめください。」
「分かったよ。全く…男の嫉妬は…はぁ…」
呆れるシルヴェスタ殿下を背に、リースハルトはリンネの手を引き、温室へと向かった。
そこは、一般的な花々が咲き乱れる温室とは別物で、薬草の宝庫という陛下の話は真実だった。
「凄いですね!キバナオウギにジギタリス、ベラドンナ、ハーブもたくさん!」
(本当に薬草が好きなんだな。リンネの力を活かしてやりたいな。)
きらきらした瞳のリンネを見て、リースハルトも心が弾むような気持ちになる。
「調合台とかも見てみよう。」
温室の一角が調合室になっていて、使われていない筈なのにきちんと整備されていた。
「大釜や専用暖炉や蒸留器も手入れもされているし、すぐにでも始められそうです。あとは、小瓶や薬包紙があれば皆に配れますね。」
「湿気対策で配布用の小さな缶も必要ではないか?薬を飲み切ったら、缶ごと返却してもらい、また別の缶に入れて渡せばいいだろう。陶器は割れて怪我をしたら面倒だしな。」
「リースハルト様!あなたは天才ですか!?私は調合を頑張りますので、配布については、地域やルートをお任せしてもいいですか?」
「ああ、もちろんだ。近衛騎士団に入る前は、下っ端騎士としてあちこち行っていたから、協力してくれる者も居るだろう。
解毒剤については、陛下や殿下達からの情報が来るまで待とう。」
「はい!」
リンネとリースハルトは、小さな目標から始めることにした。
ただ、これは本人達が小さな目標と思っていただけで、実は途轍もない試みだった。
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