29 / 55
29.野営にて
野営の準備が整い、リースハルトとリンネは騎士達と食事することにした。
干し肉を炙った物と野菜スープの簡素な食事ではあったが、一日動き回った皆には充分過ぎるメニューだった。
「奥様にこのようなお食事で申し訳ありません。」
「いえいえ、美味しくいただいています。味付けが私の好みです!お腹が満たされれば、心も満たされます。」
護衛騎士のグラッドは詫びたが、そもそも一人で荒屋に住んでいたリンネは、温かい食事だけでもご馳走だ。
リースハルトは、リンネが住んでいた貸家を思い出して、胸を痛めていた。
「グラッド、これからこういう野営の時、皆で食べる食料の質にも力を入れよう。我が妻は食いしん坊だからな。」
「ちょっ、リースハルト様!?」
「はっはっは!食いしん坊かは分かりませんが、野営に物怖じしない奥様ということは認識しました。」
リースハルトとリンネの親位の年齢のグラッドは、この新しい領主夫妻に期待をした。
本来、このような荒地に足を踏み入れる貴族など居ない。
しかし、二人は率先して行動している。
(躊躇わずに剣を振り下ろしていた苛烈な騎士団長のリースハルト卿を変えたのは、このほんわかした奥様なのだな。これから面白いことになりそうだ。)
グラッドは二人を見ながら、静かに高揚感を味わっていた。
「さあ領主様、今夜はあちらでお休みください。」
グラッドの示す方向には、キャンバステントが張ってあり、そこには簡易ベッドも準備されていた。
「ありがとう、グラッド。あなた達は?」
「私達は野営に慣れていますから大丈夫です。アランやエドワード、クリフやランダスは食事さえ与えておけば、一晩中でも辺りを巡回しますよ?」
「駄目よ!あなた達もしっかり体を休めてね?」
「我が妻は心配性か!?あまり他の男を気に掛けると…」
「奥様、私達のことはお気になさらず!まだ死にたくありません!!」
一番若そうなランダスが身震いしながら言うと、リースハルトが笑い出した。
「あはははっ、ランダスは空気を読むのが上手いな。あとは頼んだぞ。」
「「「「御意!!」」」」
リースハルトはリンネを抱えてキャンバステントへと向かった。
「あまり嫉妬させないでくれる?」
かなり真面目な顔のリースハルトに、今度はリンネが笑い出した。
「あはははっ、嫉妬なんて!リースハルト様より素敵な方は居ませんよ?
リースハルト様の部下だし、今日はたくさん働いてくださったから大切にしているのですよ?」
「分かってるが、リンネの瞳に俺以外の男が映るのは気分が良くない。」
「可愛い人ですね、リースハルト様は。」
リンネがふわりと抱き締めると、リースハルトが仕事モードを脱ぎ捨てる。
「リンネ、口付けだけ…してもいい?」
「はい。」
そっと触れる口付けを何度か交わし、リースハルトはリンネを抱き締めて眠りに就く。
(リースハルト様もお疲れだったのね。)
激しく求める夜もあれば、穏やかに眠る夜もある。
どちらもリンネには幸せな時間だ。
あなたにおすすめの小説
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
4月2日コミカライズ配信♡二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
離宮に隠されるお妃様
agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか?
侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。
「何故呼ばれたか・・・わかるな?」
「何故・・・理由は存じませんが」
「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」
ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。
『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』
愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。
【恋愛】目覚めたら何故か騎士団長の腕の中でした。まさかの異世界トリップのようです?
梅花
恋愛
日下美南(くさかみなみ)はある日、ひょんなことから異世界へとトリップしてしまう。
そして降り立ったのは異世界だったが、まさかの騎士団長ベルゴッドの腕の中。
何で!?
しかも、何を思ったのか盛大な勘違いをされてしまって、ベルゴッドに囲われ花嫁に?
堅物騎士団長と恋愛経験皆無の喪女のラブロマンス?
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。