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32.グラッドの役目
しおりを挟む「出来た…」
着手し始めて四ヶ月、万能解毒剤が完成したのは、グレシャム国の国王と第一王女が来訪する三日前のことだった。
リンネは、訪問式典に備えたドレスを誂える以外は、ずっと温室で寝泊まりしていた。
一方で、リースハルトは殿下達との打ち合わせの為に不在にすることが多かった為、グラッドがリンネの護衛に付いていた。
「奥様、そろそろきちんとしたお食事を摂ってください。」
ずっと見守っていたグラッドは、作業の進捗で完成が近いと感じていたので、リンネの好きな牛肉を柔らかく煮込んだシチューを用意していた。
「うわぁー、グラッド、ありがとう!パンも美味しそうだわ!!」
ビーフシチューの匂いに空腹を実感したリンネは、久しぶりの肉料理をゆっくり味わい、お腹が膨れると、こてんとテーブルに伏して眠りに落ちた。
そんなリンネにブランケットを掛け、グラッドは調合に使用した器具の後片付けをする。
リンネの傍で見ていれば、その器具が如何に大切な物かを自ずと知ることとなり、リースハルトだけでなく、グラッドも片付け上手になっていた。
「グラッド、リンネは寝てしまったのか?」
「はい、調合を終えられ、ビーフシチューとパンをおかわりして、その後すぐに寝てしまわれました。」
リースハルトが温室に戻ると、ぐっすり眠るリンネと、黙々と後片付けをしているグラッドが居て、リースハルトはなかなか良いコンビだと微笑んだ。
「なぁ、グラッド、リンネって可愛いだろう?」
「そうですね、私からしたら娘位のお歳ですが、一生懸命で、無邪気なところもあって、周りをほのぼのさせるお方ですね。」
「俺は、この温室に入れる位にグラッドを信頼している。だから、俺が傍に居られない時、リンネを頼んだよ。」
「お任せください。妻や子と死に別れ、独り身の私には何の制約もありません。公爵様と奥様の為なら、この命も投げ出しましょう。でも、叶うなら、この先奥様が起こすだろう奇跡のような出来事を、最前列で見ていたいですが。」
「もちろんだ。グラッドにも力を貸してもらわねばならない。だから、命は大事にしてくれ。」
「御意。」
子爵家の三男だったグラッドは、騎士をしながら、愛する妻や一人娘と幸せに暮らしていた。
しかし、ある日グラッドが留守にしている少しの時間に村が襲撃され、妻と娘は辱められて殺され、復讐の為に傭兵となった。
村を襲撃した窃盗団の手掛かりを掴み、単身乗り込もうとした時、リースハルトと出会ったのだ。
その頃のリースハルトは十四歳、第ニ騎士団の騎士をしていた。
リースハルトは、巡回中、赤眼を煮え激らせるような目付きのグラッドを引き留め、話を聞くと剣を掲げ騎士団に宣言した。
「窃盗団を殲滅する!!!」
リースハルトは、真っ先に窃盗団の根城に飛び込み、片っ端から斬り捲る苛烈振りを発揮した。
銀髪碧眼で見目麗しい少年は、ひと度剣を振り翳せば、殺戮の天使と化していたのだ。
窃盗団を制圧した後、リースハルトはグラッドに申し出た。
「どうせ捨てようとした命なら、俺と共に生きないか?そなたのような命知らずが、いつも傍に居るのも面白い。」
「承知しました。」
グラッドは即答し、それ以来ずっとリースハルトと行動を共にしている。
護る者の居ないことが強みであった筈のリースハルトに、護るべき存在が出来たと知った時、自分は捨て身でリースハルトと、その最愛を護ろうと心に決めていた。
それが人生を折り返した自分の最後の役目だと思って。
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