【連載版】 極秘任務で使いたいから自白剤を作ってくれと言った近衛騎士団長が自分語りをしてくる件について

紬あおい

文字の大きさ
32 / 53

32.グラッドの役目

しおりを挟む



「出来た…」

着手し始めて四ヶ月、万能解毒剤が完成したのは、グレシャム国の国王と第一王女が来訪する三日前のことだった。

リンネは、訪問式典に備えたドレスをあつらえる以外は、ずっと温室で寝泊まりしていた。

一方で、リースハルトは殿下達との打ち合わせの為に不在にすることが多かった為、グラッドがリンネの護衛に付いていた。

「奥様、そろそろきちんとしたお食事を摂ってください。」

ずっと見守っていたグラッドは、作業の進捗で完成が近いと感じていたので、リンネの好きな牛肉を柔らかく煮込んだシチューを用意していた。

「うわぁー、グラッド、ありがとう!パンも美味しそうだわ!!」

ビーフシチューの匂いに空腹を実感したリンネは、久しぶりの肉料理をゆっくり味わい、お腹が膨れると、こてんとテーブルに伏して眠りに落ちた。
そんなリンネにブランケットを掛け、グラッドは調合に使用した器具の後片付けをする。

リンネの傍で見ていれば、その器具が如何に大切な物かを自ずと知ることとなり、リースハルトだけでなく、グラッドも片付け上手になっていた。

「グラッド、リンネは寝てしまったのか?」

「はい、調合を終えられ、ビーフシチューとパンをおかわりして、その後すぐに寝てしまわれました。」

リースハルトが温室に戻ると、ぐっすり眠るリンネと、黙々と後片付けをしているグラッドが居て、リースハルトはなかなか良いコンビだと微笑んだ。

「なぁ、グラッド、リンネって可愛いだろう?」

「そうですね、私からしたら娘位のお歳ですが、一生懸命で、無邪気なところもあって、周りをほのぼのさせるお方ですね。」

「俺は、この温室に入れる位にグラッドを信頼している。だから、俺が傍に居られない時、リンネを頼んだよ。」

「お任せください。妻や子と死に別れ、独り身の私には何の制約もありません。公爵様と奥様の為なら、この命も投げ出しましょう。でも、叶うなら、この先奥様が起こすだろう奇跡のような出来事を、最前列で見ていたいですが。」

「もちろんだ。グラッドにも力を貸してもらわねばならない。だから、命は大事にしてくれ。」

「御意。」


 
子爵家の三男だったグラッドは、騎士をしながら、愛する妻や一人娘と幸せに暮らしていた。
しかし、ある日グラッドが留守にしている少しの時間に村が襲撃され、妻と娘は辱められて殺され、復讐の為に傭兵となった。
村を襲撃した窃盗団の手掛かりを掴み、単身乗り込もうとした時、リースハルトと出会ったのだ。

その頃のリースハルトは十四歳、第ニ騎士団の騎士をしていた。
リースハルトは、巡回中、赤眼を煮えたぎらせるような目付きのグラッドを引き留め、話を聞くと剣を掲げ騎士団に宣言した。

「窃盗団を殲滅する!!!」

リースハルトは、真っ先に窃盗団の根城ねじろに飛び込み、片っ端から斬り捲る苛烈振りを発揮した。
銀髪碧眼で見目麗しい少年は、ひと度剣を振り翳せば、殺戮の天使と化していたのだ。

窃盗団を制圧した後、リースハルトはグラッドに申し出た。

「どうせ捨てようとした命なら、俺と共に生きないか?そなたのような命知らずが、いつも傍に居るのも面白い。」

「承知しました。」

グラッドは即答し、それ以来ずっとリースハルトと行動を共にしている。

護る者の居ないことが強みであった筈のリースハルトに、護るべき存在が出来たと知った時、自分は捨て身でリースハルトと、その最愛を護ろうと心に決めていた。
それが人生を折り返した自分の最後の役目だと思って。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。 ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。 引き続きよろしくお願いいたします。

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完】皇太子殿下の夜の指南役になったら、見初められました。

112
恋愛
 皇太子に閨房術を授けよとの陛下の依頼により、マリア・ライトは王宮入りした。  齢18になるという皇太子。将来、妃を迎えるにあたって、床での作法を学びたいと、わざわざマリアを召し上げた。  マリアは30歳。関係の冷え切った旦那もいる。なぜ呼ばれたのか。それは自分が子を孕めない石女だからだと思っていたのだが───

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻
恋愛
 桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。  父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。  理由は多額の結納金を手に入れるため。  相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。  放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。  地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。  

処理中です...