山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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210.【線香花火】

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担任が持ってきたバケツに水を満たした俺達は早速花火に火をつけた。

柊が最初に火をつけるとシューッと赤と金の火花が勢いよく噴き出し、闇の中でキラキラと輝き始める。


夕太「ひゃっほー!!ついたついた!!」

蘭世「おー!!」

梅生「すごいな!!」


直ぐに弾けるような声が夜の公園に響き渡る。

手持ち花火なんて初めての俺は一条先輩が器用に火を
移すのを見て少しビビったが、見事に火が点いた瞬間輝く花火に誰よりもドキドキした。


雅臣「おおっ……」

三木「雅臣、火くれ」

雅臣「あ、は、はい……」


思わず感嘆の声を漏らすと三木先輩が隣から無造作に
花火を突き出すので俺は慌てて火を渡す。

それを機に次々と花火が点火され公園の暗闇を色とりどりの光が照らした。

火花はまるで小さな星屑のように舞い、皆の笑顔を一瞬ごとに浮かび上がらせる。

花火を手に持つだけでなぜか不思議なくらい心が弾み、軽く振るとパチパチと火花が飛び散ってまるで魔法の粉を振りまいているみたいだ。

しかし感動もつかの間、蓮池が手持ち花火を振り回しながらこちらに突進してきた。


楓「おい陰キャ、浸っとんなよ」

雅臣「うわ!!危ないな!!」


火傷したらどうするんだと騒ぐ俺を皆が笑いながら見ているが、


楓「夕太くん、それもつけなよ」

夕太「任せろ!!」


柊が小さな丸い輪っかの花火にそっと火を点けた瞬間、それはジジッと地面を焦がすような鋭い音を立て予測不能な動きで踊り狂うように駆け回った。


___な、何だこの危ない花火は!?


まるで意志を持つかのごとくその花火は地面を跳ね、這ってはくるりと弧を描いては消える。

俺の足元に火花が乱舞し逃げ惑っているとそれを見て梓蘭世はゲラゲラと笑った。


蘭世「やべぇ!!めっちゃウケる!!」

雅臣「わ、笑ってないで助けてくださいよ!!」


必死に叫ぶが責任者の担任はブランコに揺られながら我関せずスマホを片手に適当に写真を撮っているだけだ。

俺の手持ち花火の火が消えてから慌てて一条先輩の元へ逃げ込むと、先輩は筒型の花火を両手に勢いよく火花を噴き出させている。

キラキラと夜を切り裂くその光と普段穏やかな一条先輩の組み合わせが妙にちぐはぐでついじっと見つめるが、


梅生「藤城もやる?」


何故か一条先輩が突然花火を俺の方へ向けるので、バチバチと飛び散る火花にびっくりしてまた飛び退いた。


雅臣「ひどいですよ!!」

梅生「ははっ!」


今日1番の笑顔を見せる一条先輩だが、この人は特にスリリングな韓ドラが好みだったのを思い出す。


梅生「ほらほら、蘭世も」

蘭世「うお!!ちょ、梅ちゃん!!」


一条先輩は手筒花火を手に子供のようにはしゃぎながらブンブンと振り回し、意外な俊敏さで梓蘭世を追いかけ回した。

火花が夜空に舞い梓蘭世の絶叫が響く中、先輩はニヤリと笑ってさらにスピードを上げる。

一方で俺ばかりを狙う蓮池や柊にもわざと花火を向けて驚かせ2人を慌てふためかせた。

そのいたずらっぽい目とどこか男らしい大胆な振る舞いはやっぱり一条先輩の魅力そのものだった。


夕太「おりゃ」


柊も一条先輩に負けじとネズミ花火に次々火をつけていく。

皆の歓声と火花の輝きが混ざり合い夜の公園はまるで魔法がかかったみたいに楽しく感じた。


三木「リオン、それインスマに載せるのか?」

桂樹「もち」

三木「蘭世は写すなよ」

桂樹「……分かってるって」


三木先輩が釘を刺すとスマホを構えた桂樹先輩は少し
嫌そうな顔をする。

その瞬間柊がイタズラっぽい目つきでネズミ花火を放ると火花がまた予測不能な弧を描き、夜の地面を駆け回った。

いつもは冷静な三木先輩も珍しく飛び跳ねて避け、桂樹先輩は笑いながらもスマホを構え続けた。


夕太「ジュリオン先輩ー!スマホばっか見てんなよ!!」

桂樹「いいじゃん、思い出だろ? 写真に残したいんだよ」

夕太「バッカだなー、思い出なんて写真じゃなく目で
見て記憶に残しなよ!!一瞬一瞬が大事なんだよ!」


その言葉に、桂樹先輩は一瞬動きを止めた。


桂樹「……はいはい、俺も花火くれよ」


笑いながら柊に手を伸ばすが、軽い口調の裏にどこか柊の言葉が響いたような気がした。

3年生に一本ずつ花火が渡されると今度は黄色いススキ花火が振り回されきらめく光の輪が公園の地面に儚い軌跡を刻む。

火花はまるで星屑のように散って、あっという間に夜の闇に溶けていった。


蘭世「___マジ?もう花火ねぇの?」

梅生「最後は線香花火だな」

桂樹「お、じゃあ勝負すっか。最後まで残ってた奴が明日の晩ご飯何にするか選べる!どう?」

夕太「それめっちゃいい!小夜せんせー、審判してー!!」


柊の声が合図となり、7人で輪になってしゃがみ込んだ俺たちは直ぐに線香花火を手に持った。

担任がチャッカマンで1つずつ火をつけると、線香花火の先端がちりちりと光って小さな火球が生まれる。

その儚い7つの輝きが夜の静寂の中でゆらめき俺達の顔をほのかに照らした。


楓「フッ__」

雅臣「ちょ、おいやめろよ!?ズルすんなよ!」

蘭世「うるせぇな、落ちるだろ!!」


蓮池が俺の線香花火に息を吹きかけたので思わず叫ぶと、隣で真剣な顔をしていた梓蘭世に怒鳴られる。

最後まで誰の花火が残るのか分からない緊張感の中、
火球はまるで命の鼓動のように瞬き、つい真剣に見入ってしまう。


桂樹「うわまじ!?」

三木「……お前の声で俺のも落ちたじゃないか」


火球がぽとりと落ちるたびに笑い声や悔しがる声が夜空に溶けていく。

その声を聞きながら16年間生きてきて今が1番楽しいと心から思えた。


楓「うわ」

柊「まだいける! まだいける!」


俺の向かい側で粘る蓮池と柊を見て、あのぎこちない
4月の出会いを思い出す。


廊下で騒いでいた2年生やそれを追いかけてきた3年生、そして偶然出会った俺達……。


この火球のような刹那の輝きに似た毎日がいつか消えるかもしれないと考えると急に心がザワついた。

親父の顔、未来への漠然とした不安……頭をよぎる悩みがチリチリと縮こまる火球と重なって胸の奥を鋭く刺す。


この楽しい瞬間が消えないで欲しい。


心の底から願うのに火花はまるでその願いを嘲うようにゆらゆら揺れて小さくなり、無性に寂しさが込み上げると同時にぽと、と火球が地面に落ちた。


夕太「雅臣の1人勝ちかよー!!」

楓「真剣にやっとんなよ陰キャ」

梅生「でもすごいよ、かなり長い時間光ってた」

蘭世「雅臣変に丁寧だからなー、くっそー負けた」


ざわめきと共に皆が俺を取り囲み、顔を上げると誰もが笑顔を向けてくれる。

目が合った瞬間胸の奥に温もりがじんわりと広がり、
俺の孤独は溶けてなくなった気がした。


三木「これで終わりか?」

桂樹「だなー、さーて戻るか! 部室案内してくれよ!」

夕太「もち、ジュリオン先輩ビビるよ」


並んで歩き出す3年を抜いて柊が駆け出した。


合宿初日の夜に友達や先輩たちと花火を囲んだ記憶は俺の心に深く刻み込まれた。


この夜の輝きは、きっと一生、俺の胸から消えることはないだろう。


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