山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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柊夕太の帰還log3




でんちゃんが自信満々に語る半空想文句話もいつもならほんとにぃ?と1回は疑うんだけどさ。

さすがに今回は否定できないんだよね。

実際に伝説のとっとに会ってみたら俺らが想像してきたことのほとんどが当たってたんだもん。


夕太「……にしても、雅臣って自分がデキ婚でできた子とか言われてなかったんかな?」

楓「仮にデキ婚だとしてもそんなんとっとは口が裂けても言わないだろうよ。だって初期型陰キャを思い出してみなよ」


初期型陰キャって。

〝上品で育ちの良い俺ですけど何か?〟って雅臣が気取ってた頃の事なんだろうね。

育ちの良い家庭でデキ婚って滅多にないしきっと雅臣は自分の親がそんなんだとは思ってもいないんだろう。


夕太「ちょっと計算したら母ちゃんが自分をえらい若い時に産んだなーとか、その理由を色々考えるもんだけどね」

楓「どうせとっと(笑)に適当にパチこかれてたのさ」


それはそうかもしれない、と俺は頷いてしまった。

だって雅臣はとにかく信じやすいんだよね。

素直って言えば聞こえはいいんだけど、逆を返せば騙されやすくてトロいっていうか……。

白米を口に詰め込みながらグリーン車の窓の景色を眺めてあれこれ考えを巡らせる。

雅臣がとっとに簡単に言いくるめられたように雅臣の母ちゃんもホストに落っこちたみたいに好きな人の全部を信じちゃったのかもしれない。

過保護に育てられた箱入り娘なら尚更自由に生きるとっとが魅力的に感じたに違いない。


夕太「雅臣の母ちゃんって下界での生活が耐えられなくなって病んじゃったのかなー」

楓「かもね」


母ちゃんは自分で選んだ人なんだからしょうがないとしても、そこに生まれた雅臣が1番可哀想だ。

ふと雅臣は東京でどうやって暮らしてきたんだろうと思う。

どうせ名古屋の無駄に広いマンションよりも遥かにだだっ広い豪奢を極めたマンションで雅臣は大人しくとっとの帰りを待っていたんだろう。

いくら金があるとはいえ、物だけじゃ心は満たされない。

本当はかなり寂しかっただろうし、しかも何も情報を与えられず育てられてきたのなら降って湧いた父親の愛人話なんて耐えられなかったよね。


……改めてよくあんな風に純粋に育ったよ。


もぐもぐとシウマイを頬いっぱいに詰め込みながらつい感心してしまう。

それがでんちゃんのいう雅臣の母ちゃんの資質ならとっとは死んだ元嫁に感謝するべきだね。

東京なんて悪くなろうと思えばをいくらでも染まれる場所なんだから。

黙ってお弁当を食べる俺の隣で、でんちゃんは俺にペットボトルのアイスカフェオレを渡してくれた。


楓「にしても家柄も品性も初婚で手に入れたのにあのジジイはアホだわぁ……桜が死んで即ピーナポコと再婚だなんてただの女好きじゃねぇか」

夕太「え!?雅臣の母ちゃんの名前って桜なの?何で知ってんの?」

楓「夕太くんもあいつんちに飾ってある写真立て見たでしょ?見るからに桜ってツラしてるじゃん?」


……。

ほんとかよとは思うけど、あながち当たってなくもない気がする。

写真で見た限りだけど雅臣の母ちゃんは透き通るような白い肌の儚なげ美人だったもんなー。

見るからに品が良くて、長い睫毛の下の目が少し哀しげで………。

優しそうに笑った顔が雅臣がはにかんで笑う顔と同じで、俺は買ってもらったジュースを飲みながら確かに桜がピッタリかもと頷いた。


夕太「とっとが桜の家に頼み込んで婿入りさせて貰えば万事解決!だったのにね」

楓「死ぬほどプライドの高いとっとにそんなの無理だよ。それに桜の親も娘が猿みたいにヤリまくって子供ができたなんて認められんかっただろうしね」

夕太「でんちゃんってそゆとこあるよね」


意地悪く笑いながらでんちゃんは残りの唐揚げを口に入れチャーハンも一気に掻き込んだ。

新幹線は新横浜を通過し、俺たちは弁当を食べ終えてもまだ雅臣の家について話し足りない。


夕太「まぁでもそうだよなー。血統書つきの桜を野犬のとっとに孕ませられたなんて許せないよね。孫が雑種になる訳だし」

楓「夕太くんってそういうとこあるよね……ま、それでもほんとに桜が大事だったらしょっちゅう病院にお見舞いに行ったはずさ。所詮その程度の愛情なんだよ」

夕太「なら成金のロクデナシだろうがお金出してるだけとっとの方がマシなのかもね」


もし病気の桜を放置した挙句雅臣の面倒も見なかったグランパやグランマなら、一応金だけは困らせることなく育ててきたとっとの方が大分マシに思えてきた。

と、途中までは思ってたんだけど……。

よくよく考えたら俺らまずいことしたんじゃね!?


夕太「え!??やば、俺とっとに言いすぎたかな?逆に早期親金打ち切りのきっかけ作っちゃったんじゃね!?」

楓「ううん、むしろ親金継続の道を切り開いたさ」


でんちゃんは左口角を上げてニヤリと笑う。


楓「現在応慶在籍中の桜山に自分の痴態を聞かれたんだよ?息子を追い出したなんて噂が流れてるだけでもキツいのに金まで出さないなんてあのジジイはビビってようやらんて」


心配無用とばかりに一息で言い切るでんちゃんを見たら俺も何だかそう思えてきた。

でんちゃんが俺を止めなかったのも同業者の桜山先輩がいたからで、とっとが応慶生にどう思われてるのかを知らしめるチャンスと判断した上でのことだったらしい。

……まぁ、本当に応慶でそんな噂流れてんのかは知らないけど。

一通り気になっていたことをベラベラと話し終えた俺たちはしばらく無言のまま時を過ごす。


楓「……ねぇ、夕太くん」

夕太「何?」


緊張感が伝わらないよう、俺はワザと窓を眺めた。

窓越しに映るでんちゃんは真剣な眼差しで俺を見ていて、昨日の今日ということもあり何を言われるのかとつい構えるけど、


楓「名古屋着いたらそのまま韓国料理食べに行かない?」


あまりにいつもの通りのでんちゃんに俺はズッコケそうになる。

何なんだよ、もうっ!

もしかして変に気にしてるのって俺だけなの!?


夕太「やめてよ、弁当食べたばっかなのに韓国料理の口になっちゃったじゃん」

楓「これだけじゃ足りないんだよ」

夕太「えー?ま、俺もまだ全然食べれるしいいよ……何食べよう、サムギョプサル?」

楓「タットリタン一択だね」


相変わらずご飯のことになると譲らないでんちゃんに少しほっとした気もする。

どうかこの距離感のままいい具合に友達になれますように。

そんなことをぼんやり願っていると、でんちゃんはすっと目を瞑った。


楓「……」

夕太「でんちゃん?眠いの?」

楓「ごめん、名古屋着く前に起こして」

夕太「いいよ」


秋からもっと忙しくなるって言ってたし、休める時に休ませてあげないとね。

隣で直ぐに寝息を立てるでんちゃんを見ながら、俺たちが友達になるためには雅臣が必要だなってやっぱり思う。

……そうだ。

名古屋に帰ったら雅臣に連絡してあげよう。

風邪をひいてないかとか、ご飯は食べたのとか。

お土産を渡しがてら遊びに行ってあげてもいいしね。

グリーン車の窓の外に景色が流れていくのを眺めて、いつか雅臣ともどっか旅行に行けたらいいなと心が弾んだ。




_________
【後書き】
ご愛読いただきありがとうございます!
明日から本編戻ります!
感想 8

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