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3. 死体の髪を抜く婆も美少女にすり寄る男も、同等にキモい

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 人が少なくなった頃を見計らい、俺は学園を離れる。
 人が多いと、それだけ裸を見る機会が増えるからだ。
 ここ2ヶ月ほど過ごしてわかった。慣れるのは無理だ。
 多分、若い女性がいない、もしくは少ないであろう普通の職場に就職するまで我慢するしかない。
 そうだな、40-50代の人が中心の職場がいい。女性の露出ファッションは30代前半までという不文律がこの世にはあるらしいから、それくらいの職場を目指せばいいだろう。
 そんな杜撰な人生計画を立てながら歩いていると、何やら騒ぎ声が聞こえてきた。
 柱の陰に隠れながら、そちらを伺う。

「だから、無理です。諦めてください」
何故なにゆえ!この俺が諦めなければならんのかッ!」

 色素の薄い、長い髪を肩の下まで伸ばしたクールな美少女と、チャラそうな印象を全身から漂わせているイケメン(笑)がいた。
 まぁ美少女の方はしっかりとローターを挿入してリモコンをニーソックスに挟んでいたので、俺からしたらイケメン(笑)よりは美少女の方が変人に見えるが。

「あなたのことを好きではないからです。諦めてください、という意味がわかりませんか?」
「わからん!これから互いに絆を深めていけばいいだろう」

 俺の脳内評議会は、即座に奴からイケメン(笑)の称号を剥奪することを決定した。貴様にはかわりにストーカー男の称号をくれてやろう。

「…これ以上しつこいようであれば、先生を呼びますよ?」
「なっ!?そこまですることないだろう。体の相性だけでも確かめてみればわかる!」

 称号、レイプ未遂犯。
 不名誉称号更新RTA世界新、間違いなし。
 …そんな冗談は置いといても、さすがにまずい状況だ。
 いつの間にか、美少女はレイプ未遂犯によって隅に追い詰められていた。
 己の正義としては、ここで大声を出して先生を呼ぶのが正解だ。だが、俺は今後確実に奴に目をつけられる。
 どうしたものかとチキン思考を走らせていたその時、そよ風が吹いた。
 今は初夏だ。窓を開けている教室もあるだろう。それはいい。
 だが、風は廊下の端に溜まったホコリを舞い上げた。
 そしてそれは、俺の顔面へ。
 結果として…

「ぶぇーっくしょぉ!!!」

 俺は、死体の髪を抜く老婆も転げ落ちてくるほどの大きなくしゃみをぶちまけた。
 同時に、バランスを崩して柱の影から飛び出してしまった。

「…え?」
「なんだ、お前…?」

 二人の視線が突き刺さる。
 客観的に見れば、一番の変人が俺であることは疑いようのない事実であった。
 どうしよう。帰っていいか。いいわけないよな。

「いやー…その…嫌がる女の子を無理矢理犯すのはやめたほうがいいんじゃないかなーって…ハハ」

 なにわろてんねん、俺…

「何だい君は?これは俺と彼女の問題だぞ、口を突っ込むなぁ!」
「いや…あんたとあの子の会話、もう終わってるじゃないすか」
「やかましいッ!俺はこれから彼女をゆーっくりと説得してだな」
「最終下校時刻、もう過ぎてますよ」

 なんか、このレイプ未遂犯のノリがキモくてだんだんと冷静に対応することができるようになってきた。

「そろそろ残ってる生徒がいないか先生が見回りに来る頃でしょう。ま、俺としてはあんたをレイプ未遂の現行犯として警察に付き出すのも吝かではないんですがね」
「ぐぬ…っ…覚えていろ!!」
「覚えたよ、お前の悪事をしっかりと」

 捨て台詞にカウンター=ハイクをブチ込んでやると、レイプ未遂犯はついに言葉を失い、ドタドタと音を立てて駆け出していった。
 しかし奴にはとことん運がなかったらしい。
 曲がり角から出てきた体育教師と強かに正面衝突したのだ。

「いってぇな…何廊下走ってやがる」
「ご、ごごご、ごめ、ごめんなさい!!」

 レイプ未遂犯はそのまま走り去っていった。

「ったく…なんだ、お前らも残ってたのか。早く帰れよ」
「その前に…一つ先生のお耳に入れておきたいことがございまして」

 俺は事の顛末を事細かに先生に話した。

「…なるほどな。わかった、明日しっかりケリをつけてやる」
「本当ですか!ありがとうございます」
「なに、他ならぬお前の頼みだからな」

先生は笑って、「早く帰れよ」と言葉を残して去った。
さて、それじゃあ俺もお暇させてもらうとしよう。

「あの…ちょっと待って!」
「ん?」
「えっと…その、ありがとう…」
「あー、いいのいいのお礼なんて。ま、ああいう話をする時は隅っこに追い詰められないようにするんだな。呼び出されて体育館裏なんて行くなよ?じゃーな!電車に遅れるんで」
「え、ちょっ…」

 俺は早口で出任せをまくし立てて、逃げるように走り去った。
 半裸の美少女と二人きりになってレイプ未遂犯にならない自信はとてもなかったのだ。
 それに…多分今夜のオカズは彼女になってしまうから、お礼される筋合いなんてないのだ。
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