女の子がエロい服を着てる世界でもラブコメはできる!

キューマン・エノビクト

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14. 嫌なヤツには、早めに退場してもらうほうがいい

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 ああ、最悪だ。
 想定していた中で、一番最悪だ。
 人が来ないこのトイレの中で、ドア1枚隔てているとはいえ奴と対峙してしまうなんて。

「ふん…しらを切るつもりか。今出てくれば許すと言ったのに、馬鹿な奴め」

 いいから早く出ていけ。
 心臓が早鐘を打つように鼓動する。
 白宮さんが、体を縮こませている。

「俺は、貴様のせいで退学の憂き目に遭った。貴様のせいでだ。それを許すと言っているのに、機会をみすみす逃すとは…それがどういうことか、わかっているのだろうな」

 俺たちはまだ、黙り続ける。

「そうか」

 スリッパの音が遠ざかっていく。
 踵を返したらしい。
 二人して、ほっと息を漏らす。
 が、次の瞬間――

「舐めんじゃねえぞクソがァ!!」

 大きな叫び声と同時に、ドアを殴る音が俺たちの鼓膜に暴力的な振動を与えた。

「きゃあっ!!」

 耐えきれず、白宮さんが悲鳴を上げる。

「ん…?白宮も一緒だと…!?テメエ、嵌めやがったな!?このクソ野郎!クソアマ!」

 ついに、矛先が白宮さんにまで向いてしまった。

「最初から俺を嵌めるつもりだったんだなこの売女!!この俺の純情を弄びやがって!!」
「――っ!!」

 震えて口を開こうとした白宮さんの頭を、俺は胸に抱き寄せて口を塞ぐ。

(口を利くな。耳を貸すな。奴の言葉を理解しようとするな。そんなもので白宮さんを汚したくない)

 耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言の嵐。
 俺は白宮さんを抱き寄せて庇うので精一杯で、耳を塞ぐことなどできず、直接そのヘドロのような言葉の雨をくらい続けた。
 我慢、我慢だ。
 ここで言い返しても、何も良くはならない。
 強固な妄想に取り憑かれた人間を説得するなど、地球の自転を止めるのと同じくらいには無理な話だ。
 俺でいい。
 俺さえ耐えれば、耐えて乗り切れば――

「こっちです!!」
「わかった!おい、何やってんだ!!」

 闖入者の声がした。
 大人と、女の子の声。

「な、なにしやがる、離せ!!」
「黙れ!取り押さえたぞ、器物損壊の現行犯で逮捕だ!!」
「うるっせえ、何が逮捕だ警官でもないくせに!!」
「私人逮捕を知らんのか!いいから来い!傷害罪も追加されたいか!!」

 騒ぎはトイレのドアを出て遠ざかっていった。

「…もう、大丈夫だよ」
「ったく、あんなマジモンのやべぇやつだったとはな…災難だったな、奥原」
「島地…それに、浜場…」
「一応後をつけてて正解だったよ。おかげで警備員を呼んでくることができた」
「そうか。…本当に、助かった。ありがとう」
「もう出てきても大丈夫だからね」

 ゆっくりと、白宮さんを離す。
 だが、白宮さんは俺から離れようとしない。
 ふと、足元に生温い液体を感じた。
 視線を下ろせば、それは薄い黄色の、特徴的な香りを放つ液体。

「う…うぅ…見ないで…」

 か細い声で、白宮さんが言う。
 …無理もない。男に恫喝されるなんて体験、男の俺ですら怖かったのだから。
 彼女にとっては、失禁するほど怖かったのだろう。

「すまん、落ち着いたらそっち行くから」
「了解」

 二人は男子トイレの外へと出ていった。
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