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15. 嵐が去ったあとのひとときは、大切にしたい
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シャワーでおしっこを洗い流して、俺たちは売店の方へと向かった。
「こっちだ」
浜場が手を上げて俺たちを呼んだので、そちらへと向かう。
4人席を確保してくれていたようだ。
「ほれ、お茶だ。二人とも」
「フライドポテトもあるよー、たくさん買ってきたから遠慮しないで食べてね」
「唐揚げも置いとくぞ」
「ホットドッグも」
ぽんぽんと俺たちの前に食べ物を置いていく島地と浜場。
「ありがとな。あとで払うから」
「中間テストの勉強会付き合ってくれりゃそれでいいよ」
「あたしはまたイベントの手伝いしてほしいかなー」
友人たちの優しさに涙がこぼれそう…と思っていたら、隣で白宮さんが涙を零していた。
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫です。ただ、安心してしまって…」
白宮さんは涙を拭って、ポテトを1本つまんで口の中に放り込んだ。
俺も唐揚げを爪楊枝に刺して食べる。
塩気が体に滲みていく。どうやら、さっきの逃避行で俺も相当に疲れていたらしい。
…まあ、あんな罵詈雑言を直接聞いてしまったものだから、わりと心にダメージが蓄積されたのだろう。
俺たちが落ち着いたタイミングを見計らって、浜場が口を開いた。
「正式な手続きはまだ先だが、あいつは多分刑務所行きだってよ。さっき連絡が来たんだけど、なんか色々と余罪があるらしい」
「まあ退学になってるくらいだしね。なにやらかしてるんだか」
「そうか、じゃあ今後アレの影に怯えて生活する必要はなくなるわけだな」
「少なくとも向こう数年は大丈夫だと思うよ」
良かった。本当に良かった。
こんな常識改変世界に来た上ストーカーに追い回されるなんざ絶対に御免だ。
「…怖かった、です」
ぽつりと白宮さんが声を漏らした。
「助けていただいて、ありがとうございました」
いつの間にか、口調が学校のものになっていた。
「本当に気にしなくていいから。それで、このあとどうする?4人でいろいろ回るか?」
「そうだな」
人が多いほうが、白宮さんも安心するだろう。
「…いえ、私は…奥原くんと、二人がいいです」
だが、白宮さんはその提案を断った。
俺と一緒に、回ることを選んだ。
「一つ、やりたいことがあるので」
「ふーん…わかった」
島地は立ち上がると、俺のそばにきてポンと肩を叩いた。
「ま、頑張りな」
「何をだよ…」
「そんじゃおふたりとも、ごゆっくりー。ほら、はまちー行こうよ」
「あいよ。んじゃな、それ全部食っていいから」
浜場と島地は仲睦まじく手を繋いで去ってゆく。
この場には、俺と白宮さんとそこそこの量の食べ物が残った。昼飯には丁度良い。
「それで、やりたいことってなんだ?」
俺はホットドッグに噛りつきながら白宮さんに尋ねた。
白宮さんは少しの間逡巡して、またポテトを一本摘んだ。
「泳ぎを、教えてほしい。泳げるようになりたい」
「泳ぎ?」
「うん。…逃げるとき、足手まといになっちゃったから」
「別に気にしなくてもいいんだぞ?結局なんとかなったわけだし」
「それでも、泳ぎが必要な場面ってこの先もあると思うから」
なかなかに食い下がってくる。
なんでかは知らないが、泳げるようになりたいらしい。
「まぁそういうことなら別にいいけど、俺も素人だからな?」
「大丈夫。私よりは上手いはずだから」
謎に信頼されている。折角なら応えてやりたい。
俺はどう教えるべきか、カリキュラムを脳内で組み立て始めた。
「こっちだ」
浜場が手を上げて俺たちを呼んだので、そちらへと向かう。
4人席を確保してくれていたようだ。
「ほれ、お茶だ。二人とも」
「フライドポテトもあるよー、たくさん買ってきたから遠慮しないで食べてね」
「唐揚げも置いとくぞ」
「ホットドッグも」
ぽんぽんと俺たちの前に食べ物を置いていく島地と浜場。
「ありがとな。あとで払うから」
「中間テストの勉強会付き合ってくれりゃそれでいいよ」
「あたしはまたイベントの手伝いしてほしいかなー」
友人たちの優しさに涙がこぼれそう…と思っていたら、隣で白宮さんが涙を零していた。
「だ、大丈夫!?」
「大丈夫です。ただ、安心してしまって…」
白宮さんは涙を拭って、ポテトを1本つまんで口の中に放り込んだ。
俺も唐揚げを爪楊枝に刺して食べる。
塩気が体に滲みていく。どうやら、さっきの逃避行で俺も相当に疲れていたらしい。
…まあ、あんな罵詈雑言を直接聞いてしまったものだから、わりと心にダメージが蓄積されたのだろう。
俺たちが落ち着いたタイミングを見計らって、浜場が口を開いた。
「正式な手続きはまだ先だが、あいつは多分刑務所行きだってよ。さっき連絡が来たんだけど、なんか色々と余罪があるらしい」
「まあ退学になってるくらいだしね。なにやらかしてるんだか」
「そうか、じゃあ今後アレの影に怯えて生活する必要はなくなるわけだな」
「少なくとも向こう数年は大丈夫だと思うよ」
良かった。本当に良かった。
こんな常識改変世界に来た上ストーカーに追い回されるなんざ絶対に御免だ。
「…怖かった、です」
ぽつりと白宮さんが声を漏らした。
「助けていただいて、ありがとうございました」
いつの間にか、口調が学校のものになっていた。
「本当に気にしなくていいから。それで、このあとどうする?4人でいろいろ回るか?」
「そうだな」
人が多いほうが、白宮さんも安心するだろう。
「…いえ、私は…奥原くんと、二人がいいです」
だが、白宮さんはその提案を断った。
俺と一緒に、回ることを選んだ。
「一つ、やりたいことがあるので」
「ふーん…わかった」
島地は立ち上がると、俺のそばにきてポンと肩を叩いた。
「ま、頑張りな」
「何をだよ…」
「そんじゃおふたりとも、ごゆっくりー。ほら、はまちー行こうよ」
「あいよ。んじゃな、それ全部食っていいから」
浜場と島地は仲睦まじく手を繋いで去ってゆく。
この場には、俺と白宮さんとそこそこの量の食べ物が残った。昼飯には丁度良い。
「それで、やりたいことってなんだ?」
俺はホットドッグに噛りつきながら白宮さんに尋ねた。
白宮さんは少しの間逡巡して、またポテトを一本摘んだ。
「泳ぎを、教えてほしい。泳げるようになりたい」
「泳ぎ?」
「うん。…逃げるとき、足手まといになっちゃったから」
「別に気にしなくてもいいんだぞ?結局なんとかなったわけだし」
「それでも、泳ぎが必要な場面ってこの先もあると思うから」
なかなかに食い下がってくる。
なんでかは知らないが、泳げるようになりたいらしい。
「まぁそういうことなら別にいいけど、俺も素人だからな?」
「大丈夫。私よりは上手いはずだから」
謎に信頼されている。折角なら応えてやりたい。
俺はどう教えるべきか、カリキュラムを脳内で組み立て始めた。
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