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30. 意図も意識も、全くしていなかった
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仲良く歩いていく浜場たちを見送る。
通知に震えたスマホを見てみると、浜場から一言「サンキュ」とだけ来ていた。
一瞬迷って、俺は「がんば」とだけ返した。
「さて…どうしよう」
「全く考えてなかったな…」
残ってしまった俺たちは、互いにそう呟いた。
まさかここでハイさようならと帰ってしまうわけにもいかない。
いや、帰ってもいいのだが、この後には花火大会が待ち構えている。
流石にそれを逃すのはせっかく来た意味がないような気がしてしまう。
「適当に歩き回って時間潰すか?」
「賛成。まだ見てないお店とかもあるし、見て回ろっか」
俺たちは、二人で屋台巡りを始めた。
「金魚すくいだって。やる?」
「俺はいいや、生き物の面倒みたくないし」
そんな感じで金魚すくいをスルーしたり。
「嬢ちゃん、また来たのかい…」
「大丈夫ですよ、そんなに大物は取りませんから」
言ったそばから射的屋でお菓子を乱獲したり。
「甘いな」
「わかる」
デザートにりんご飴を食ったりと、さっきまでのように夏祭りを満喫していた。
そのうち、食べてながら歩いているせいか、二人とも口数が少なくなっていった。
足を止めていないので、じんわりとした疲労感が足先を覆い始める。
「…疲れたね」
「そうだな」
白宮さんの呟きにそう返して、なんとなくスマホを取り出す。
花火が始まる午後8時まで、残り30分を切っていた。
「そろそろ、場所取りでもするか」
「うん、行こう。さっきの芝生のあたりがいいと思う」
俺たちは足を揃えて歩き始めた。
◆ ◆ ◆
芝生のあるスペースは、既に混雑し始めていた。
手にたこ焼きやらかき氷やらヨーヨーやらを持った人々が、花火の開始を今か今かと待ちわびている。
「座れるかな…」
「二人だしなんとかなるだろ。あの辺にしよう」
俺は他人を踏まないよう気をつけながら、ゆっくりと人混みの間を通っていった。
後ろから白宮さんもついてくる。
「よし、これくらいあれば座れるな」
「そうだね…うわっ!」
地面に置かれていたバッグを避けようとして、白宮さんがバランスを崩した。
そのままこちらへ倒れ込んでくる。
「うぉっと!?」
肩を受け止め、バランスを崩さないようにゆっくりとしゃがみ込む。
「大丈夫か?」
「うん、ありがと…」
顔を上げた白宮さんの顔が、至近距離にあった。
さっきよりもずっと近い距離で目が合った。
そう、とても――キスできるほど、近い距離に。
「…っ!」
バッ、と互いに顔を背ける。
…危なかった。
この世界でのキスは、元の世界でのセックスと同じ意味合いを持つ。
もし偶然でそんなことをしてしまえば…少なくとも、俺はただでは済まないだろう。
しかも、今の俺は偶然ではなく…キスしたいと、ほんの一瞬だが、そう考えてしまった。
「あ、あの…手…」
遠慮がちに発された言葉に、俺はずっと白宮さんの肩を掴んでいたことを思い出した。
そっと手を外すと、少し汗ばんだ肌が手のひらに吸い付くような感覚がした。
それだけに、掴んだ肩の感触が消えてくれない。
女の子の、柔らかくて、滑らかな肌。
意識するだけで顔が赤くなるのがわかる。
あたりがもう暗くなっていることは救いだった。
「…ありがとね、支えてくれて」
「…互いに怪我しなくてよかったよ」
それだけ言って、腰を落ち着ける。
座ってみると、想像以上にスペースが狭い。
どうしても、肩が触れ合ってしまうことは避けられなさそうだ。
「あと10分だね」
白宮さんがスマホの時計を見て呟く。
俺はその10分の間、触れ合った肩の存在を意識した状態で過ごした。
通知に震えたスマホを見てみると、浜場から一言「サンキュ」とだけ来ていた。
一瞬迷って、俺は「がんば」とだけ返した。
「さて…どうしよう」
「全く考えてなかったな…」
残ってしまった俺たちは、互いにそう呟いた。
まさかここでハイさようならと帰ってしまうわけにもいかない。
いや、帰ってもいいのだが、この後には花火大会が待ち構えている。
流石にそれを逃すのはせっかく来た意味がないような気がしてしまう。
「適当に歩き回って時間潰すか?」
「賛成。まだ見てないお店とかもあるし、見て回ろっか」
俺たちは、二人で屋台巡りを始めた。
「金魚すくいだって。やる?」
「俺はいいや、生き物の面倒みたくないし」
そんな感じで金魚すくいをスルーしたり。
「嬢ちゃん、また来たのかい…」
「大丈夫ですよ、そんなに大物は取りませんから」
言ったそばから射的屋でお菓子を乱獲したり。
「甘いな」
「わかる」
デザートにりんご飴を食ったりと、さっきまでのように夏祭りを満喫していた。
そのうち、食べてながら歩いているせいか、二人とも口数が少なくなっていった。
足を止めていないので、じんわりとした疲労感が足先を覆い始める。
「…疲れたね」
「そうだな」
白宮さんの呟きにそう返して、なんとなくスマホを取り出す。
花火が始まる午後8時まで、残り30分を切っていた。
「そろそろ、場所取りでもするか」
「うん、行こう。さっきの芝生のあたりがいいと思う」
俺たちは足を揃えて歩き始めた。
◆ ◆ ◆
芝生のあるスペースは、既に混雑し始めていた。
手にたこ焼きやらかき氷やらヨーヨーやらを持った人々が、花火の開始を今か今かと待ちわびている。
「座れるかな…」
「二人だしなんとかなるだろ。あの辺にしよう」
俺は他人を踏まないよう気をつけながら、ゆっくりと人混みの間を通っていった。
後ろから白宮さんもついてくる。
「よし、これくらいあれば座れるな」
「そうだね…うわっ!」
地面に置かれていたバッグを避けようとして、白宮さんがバランスを崩した。
そのままこちらへ倒れ込んでくる。
「うぉっと!?」
肩を受け止め、バランスを崩さないようにゆっくりとしゃがみ込む。
「大丈夫か?」
「うん、ありがと…」
顔を上げた白宮さんの顔が、至近距離にあった。
さっきよりもずっと近い距離で目が合った。
そう、とても――キスできるほど、近い距離に。
「…っ!」
バッ、と互いに顔を背ける。
…危なかった。
この世界でのキスは、元の世界でのセックスと同じ意味合いを持つ。
もし偶然でそんなことをしてしまえば…少なくとも、俺はただでは済まないだろう。
しかも、今の俺は偶然ではなく…キスしたいと、ほんの一瞬だが、そう考えてしまった。
「あ、あの…手…」
遠慮がちに発された言葉に、俺はずっと白宮さんの肩を掴んでいたことを思い出した。
そっと手を外すと、少し汗ばんだ肌が手のひらに吸い付くような感覚がした。
それだけに、掴んだ肩の感触が消えてくれない。
女の子の、柔らかくて、滑らかな肌。
意識するだけで顔が赤くなるのがわかる。
あたりがもう暗くなっていることは救いだった。
「…ありがとね、支えてくれて」
「…互いに怪我しなくてよかったよ」
それだけ言って、腰を落ち着ける。
座ってみると、想像以上にスペースが狭い。
どうしても、肩が触れ合ってしまうことは避けられなさそうだ。
「あと10分だね」
白宮さんがスマホの時計を見て呟く。
俺はその10分の間、触れ合った肩の存在を意識した状態で過ごした。
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