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80. 意図を見抜けぬ、謎のお誘い
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自分の中にある気持ちを整理して、悩みと不安は取れずとも、向き合おうという覚悟ができた。
少しずつ自分の中で解決して、いずれは――と思っていた俺は。
「さ、カード出そう」
「…ん」
夕日の差し込む、誰もいなくなった教室で。
得意げな表情を浮かべる白宮さんの前で弱い手を出すハメになっている。
なぜなのか。
話は、ほんの1時間前に遡る――
◆ ◆ ◆
「というわけで、初日の売上はこんな感じでしたー!」
色葉がパソコンを操作すると、グラフが黒板に貼られたスクリーンに映し出された。
初日に集計された各クラス・部活ごとの売上を示す色とりどりの棒グラフの一番左にあるのは、明るい赤色の一番背の高いバー。
二位以下は目に入らない。なぜなら…
「もちろん、これがうちの『CASINO H』の売上ね。最終的に優勝するとなるとちょっと不安はあるけど、明日もこの調子でいけるなら問題ないと思うよ。というわけで、おつかれ!」
バニー姿の彼女が、右手に持ったペットボトルを勢いよく振り上げる。
それに合わせて、クラスの皆が思い思いに声を上げ、拳を振り上げた。
色葉と同じようにペットボトルを持っていたり、咄嗟に迷った結果筆箱やらスマホやらを掲げている奴らもいる。
高揚感が教室のそこかしこに渦巻いて、冬に似合わぬ高気圧すら生み出しそうだ。
その『おつかれ』コールが解散の合図だったものの、皆顔を合わせて喋っている。
「よう、MVP!」
ガシッと肩を抱いてきたのは、いつだったかのハイテンションな男子。
「お前すげーじゃん!正直カジノって聞いたときはびっくりしたけどさ」
「いやぁ、俺だってここまで盛り上がるとは…」
「ほれ、こいつは奢りだ!」
話を聞いているのかいないのか、彼は小さなリンゴジュースのボトルを勢い良く机に置いた。
「お、おう…サンキュ…」
「明日もお互い頑張ろうな、それじゃ!」
彼は上機嫌のまま離れて行った。
俺は浜場のほうを向いて、言った。
「アイツ誰だっけ?」
「まだ覚えてなかったの!?」
――とまあ、そんな明日も頑張ろうムードのうちに人は消えていき。
なんとなく残っていた俺は少し掃除でもしようと、教室内を見回っていた。
「台の下にチップ落ちてるじゃん、ただでさえ足りないのに」
ぶつぶつと独り言を呟きながらホコリを払ったりチップを回収したりしていると、ふと人の気配を感じた。
振り返ってみると、ちょうど扉を通りかかろうとする女子が一人。
偶然にも目が合った。
「あれ、まだ帰ってなかったんだ」
「白宮さん…うん、片付けをちょっとね」
「入ってみてもいい?今日忙しくて出られてなかったんだ」
「どうぞ」
昼間のこともあり若干緊張しながらも、俺は白宮さんを教室に招き入れた。
断るほうが、ここでは不自然だった。
「へー、すごいね。本格的」
「うちの美術班が頑張ってくれたからな」
「こりゃ売上一位も頷けるね。負けるわけだ」
静かな教室に小さな足音を響かせながら、白宮さんは歩を進める。
「ねぇ、これってポーカーの台だよね?マンガで見たことある」
「うん…ありゃ」
目を向けてみると、トランプの束が一つ、そこに残されていた。
テーブルの端の方だ。台と同じ緑色の背面をしたカードだったから、見逃されてしまったのだろう。
「片付けておかないと」
「これって揃ってるんだよね?」
手を伸ばそうとすると、白宮さんが質問してきた。
「台の上にまとめて置かれてるから、足りないってことはないだろうな」
「じゃあさ…せっかくだから、ポーカーしようよ。負けたらなにか言うこと聞くって条件付きでさ」
「…え?」
白宮さんは、束を掴み上げてカードを揃えた。
少しずつ自分の中で解決して、いずれは――と思っていた俺は。
「さ、カード出そう」
「…ん」
夕日の差し込む、誰もいなくなった教室で。
得意げな表情を浮かべる白宮さんの前で弱い手を出すハメになっている。
なぜなのか。
話は、ほんの1時間前に遡る――
◆ ◆ ◆
「というわけで、初日の売上はこんな感じでしたー!」
色葉がパソコンを操作すると、グラフが黒板に貼られたスクリーンに映し出された。
初日に集計された各クラス・部活ごとの売上を示す色とりどりの棒グラフの一番左にあるのは、明るい赤色の一番背の高いバー。
二位以下は目に入らない。なぜなら…
「もちろん、これがうちの『CASINO H』の売上ね。最終的に優勝するとなるとちょっと不安はあるけど、明日もこの調子でいけるなら問題ないと思うよ。というわけで、おつかれ!」
バニー姿の彼女が、右手に持ったペットボトルを勢いよく振り上げる。
それに合わせて、クラスの皆が思い思いに声を上げ、拳を振り上げた。
色葉と同じようにペットボトルを持っていたり、咄嗟に迷った結果筆箱やらスマホやらを掲げている奴らもいる。
高揚感が教室のそこかしこに渦巻いて、冬に似合わぬ高気圧すら生み出しそうだ。
その『おつかれ』コールが解散の合図だったものの、皆顔を合わせて喋っている。
「よう、MVP!」
ガシッと肩を抱いてきたのは、いつだったかのハイテンションな男子。
「お前すげーじゃん!正直カジノって聞いたときはびっくりしたけどさ」
「いやぁ、俺だってここまで盛り上がるとは…」
「ほれ、こいつは奢りだ!」
話を聞いているのかいないのか、彼は小さなリンゴジュースのボトルを勢い良く机に置いた。
「お、おう…サンキュ…」
「明日もお互い頑張ろうな、それじゃ!」
彼は上機嫌のまま離れて行った。
俺は浜場のほうを向いて、言った。
「アイツ誰だっけ?」
「まだ覚えてなかったの!?」
――とまあ、そんな明日も頑張ろうムードのうちに人は消えていき。
なんとなく残っていた俺は少し掃除でもしようと、教室内を見回っていた。
「台の下にチップ落ちてるじゃん、ただでさえ足りないのに」
ぶつぶつと独り言を呟きながらホコリを払ったりチップを回収したりしていると、ふと人の気配を感じた。
振り返ってみると、ちょうど扉を通りかかろうとする女子が一人。
偶然にも目が合った。
「あれ、まだ帰ってなかったんだ」
「白宮さん…うん、片付けをちょっとね」
「入ってみてもいい?今日忙しくて出られてなかったんだ」
「どうぞ」
昼間のこともあり若干緊張しながらも、俺は白宮さんを教室に招き入れた。
断るほうが、ここでは不自然だった。
「へー、すごいね。本格的」
「うちの美術班が頑張ってくれたからな」
「こりゃ売上一位も頷けるね。負けるわけだ」
静かな教室に小さな足音を響かせながら、白宮さんは歩を進める。
「ねぇ、これってポーカーの台だよね?マンガで見たことある」
「うん…ありゃ」
目を向けてみると、トランプの束が一つ、そこに残されていた。
テーブルの端の方だ。台と同じ緑色の背面をしたカードだったから、見逃されてしまったのだろう。
「片付けておかないと」
「これって揃ってるんだよね?」
手を伸ばそうとすると、白宮さんが質問してきた。
「台の上にまとめて置かれてるから、足りないってことはないだろうな」
「じゃあさ…せっかくだから、ポーカーしようよ。負けたらなにか言うこと聞くって条件付きでさ」
「…え?」
白宮さんは、束を掴み上げてカードを揃えた。
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