女の子がエロい服を着てる世界でもラブコメはできる!

キューマン・エノビクト

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102. ここは一つの到達点だが、通過点でもある

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 ウィンドウショッピングをしたり、買い食いをしたり、ゲーセンまで戻ってさっきのシューティングゲームをやったりと(今度は普通にちゃんとしたスコアが出た)、あちこち歩き回りながら楽しんでいたら、すっかり日が落ちてしまった。

「わぁ、もう空が真っ黒だ」
「時間的にはまだ五時半かそこらなんだけどな」

 店先にあるクリスマスツリーが輝く様子は、黒い空と合わせるともはや夜以外の何物でもない。
 そんなことをとりとめもなく考えながら…俺は、心臓を鳴らしていた。
 ひんやりとした空気を思い切り吸い込んでも、熱は取れない。
 当然だ…俺がこれからやることを考えれば。

(告白…するんだよな、俺)

 鼓動が一層速くなる。
 そうだ、俺は今日、告白する。
 考えないようにして自分の中で誤魔化し続けていたが、今日のこれはまさしくデートだった。
 クリスマス当日に誘うという行為に、言い逃れはできない。

「なぁ、」

 俺は平静を装って、白宮さんを誘った。

「そこの公園に行かないか」

 ◆ ◆ ◆

 商店街から道を一本か二本外れたところに、小ぢんまりとした公園がある。
 小さな滑り台とブランコが一台ずつあって、あとはベンチと水飲み場が一つずつという、本当にミニマムな公園だ。

「今日は曇ってるね…」
「ワンチャン雪降ったりしないかな」

 他愛のない会話をしながら、歩いていく。
 他愛のない会話しか、できない。緊張を隠せなくなってしまうから。

『知るには、動くしかない』

 浜場の言葉を脳内で反芻する。
 動くというのは、よく考えればデートに誘うことだけではない。
 本当に気持ちを知るなら、自分の想いを伝え、告白するしかないのだ。
 幸いにして、公園には人っ子一人いなかった。

「座ろうか。疲れたしさ」

 本心半分、誤魔化し半分の言葉を吐いて、俺たちは隣り合って座った。

「白宮さん…今日、楽しかったか?」
「うん。商店街を歩き回ったのは久しぶりだったけど、案外楽しいものだねぇ」
「そうか…よかった。商店街なんて、って言われたらどうしようかと思ってた」
「そんなこと言わないよ。せっかく考えてくれたんだしさ」

 白宮さんの人の良さ、優しさが沁みる。
 思えば、俺はきっと彼女のこういう性格に惚れてしまったのだろう。
 選ぶ基準が体やら顔やらなら、誰でも良かったはずだ。
 こんなにも違う常識の世界において、こんなにも普通の恋をできたことは、俺にとっては幸せなことだ。

(…ここで幸せだと結論を出すのは、早すぎるな)

 緊張ゆえか、失敗への保険か、自分は今も十分に幸せだと考えてしまう。
 悪いことではない。だが、やるべきことはやらねばならない。
 決意を固め、口を開こうとして――

「なんか、さ」

 静かに、白宮さんが喋りだす。
 俺は口を閉じて、彼女の言葉を待った。

「こうして二人で出かけてるのって、不思議だよね」
「不思議?」
「うん。私たちが友達になったきっかけって、あのとき奥原くんが私を助けてくれたことでしょ?」
「そうだな」

 今となっては懐かしい。
 だが、その出来事は今も脳裏に焼き付いている。

「奥原くんがくしゃみしたのって、偶然だったんでしょ?もしくしゃみしてなかったらどうなってたのかな、って時々考えるんだ」

 もし、教室の窓が閉まっていて。
 もし、ホコリが舞い上がらなくて。
 もし、俺がくしゃみをしなければ。

 少なくとも、今の白宮さんはなかっただろう。
 改めて考えてみると、声を出したら目をつけられて云々とか考えていた俺の思考は…

「…恐ろしいな」
「うん。私がこうして無事でいられるのも、奥原くんのおかげだから」
「俺も、白宮さんのおかげで無事に生活できてる。こっちの常識を覚えられたのは白宮さんがいてこそだ」
「…えへへ、どういたしまして」

 しばし言葉が途切れる。
 白宮さんの顔がほんの少し下を向いたのか、街灯に照らされていた表情に影がかかって見えなくなった。

「正直さ…俺は、今の今まで白宮さんがいない生活なんて考えられなかった。…今も、これからもそうだ」

 白宮さんが息を呑む音が、かすかに聞こえる。

「あの日から今日まで、ずっと俺と友達でいてくれて、すごく感謝してる。でも、」

 心臓がさらに鼓動を速める。
 どくんどくんと、鼓膜を通して耳に伝わっているような感覚すら覚える。

「俺は、もっと…一緒にいたいと思ってる、多分。放課後会うのをなしにしようって言ったとき、後悔したんだ」

 俺は、体を横に向けて、それから背筋をほんの少し伸ばす。
 白宮さんも、同じようにして俺と顔を見合わせた。

 大丈夫だ。言える。

「俺は、白宮さんが好きです。俺と、付き合ってくれませんか」

 白宮さんが、双眸を閉じ――数瞬を経て開かれたそれは、少し濡れているように見える。

「私も、奥原くんが好きです。私と、付き合ってください」
「…よろしく、お願いします」

 腰を少しだけ浮かせて、白宮さんとの距離を縮める。
 そして、驚かせないようゆっくりと両腕を持ち上げて――俺は、白宮さんを抱きしめた。

「…ありがとう」
「こちらこそ。先に言われちゃったなぁ」

 俺の背中に、細い腕が回されて、そっと力が込められる。
 分厚いコート越しなのに、体温を感じるような気がした。

 何秒か何分かわからない時間が流れた後、俺たちは互いを離した。
 それから、俺はバッグの中身を思い出す。

「そうだ、これ…渡そうと思ってたんだ」

 それは、俺がこっそり買っていたもの。

「あ、あのお店のニット!」
「気に入ってそうだったから、クリスマスプレゼントに…と思って」
「ありがと、嬉しい」

 実は気になってたんだよね、と言いながら、服の包装をそっと抱きしめる白宮さん。
 その姿に、愛おしさとか嬉しさとかいろいろな感情が湧き上がってきた。

(ああ、本当に好きなんだなぁ)

 当たり前のことをわざわざ脳内に浮かべてしまうほどには。

「私も、渡そうと思って買ってたんだ。気にいるかどうかは、ちょっとわからないけど…」

 白宮さんは、ラッピングされたそれを自信なさげに渡してきた。

「開けてみて」
「いいのか?」
「いいよ。気にいるかどうか聞きたいの」

 俺は包装を雑に破ったりしないよう気をつけながら、そっと開けていく。

「…これは…」
「ペンケース。男の子が好きそうなデザイン…って言っても、よくわからなかったから…」

 黒を貴重として青とか緑のラインが入っているサイバーな感じのペンケース。
 デザインだけ見れば好みでも嫌いでもないのだが…

「嬉しいよ。白宮さんからもらったってだけでも嬉しい。それに…好みは、これからお互い知っていけばいいだろ」
「…うん!」

 白宮さんは笑顔で頷いた。

「それじゃ、帰ろうか。次は、初詣のときにでも」
「…待って」

 立ち上がろうとした俺のコートの裾を、白宮さんが摘む。

「今日、お母さんたちいないから…泊まりに、きて」
「えっ…」

 収まったはずの鼓動が、再び速くなり始めた。
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