甘いの辛いのどっちにするの?

ずんだもち

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本編 第一章 過去の傷跡編

秘密の共有と、震える共犯者

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トイレの一件を終え、僕たちはアキラの案内でようやく寮へと向かった。

「にしても、さっきのあいつ全然大したことなかったなー、クラスの奴ら以下だったぜ!」

(一様、新しいチームのリーダらしかったけど)

「……なぁ、さっき中から悲鳴聞こえた気がしたんやけど、空耳やんな?」 

アキラがおそるおそる聞いてくる。

 「ああ、ただのBGMだ。気にすんな!」 

二織兄さんがガハハと笑いながらアキラ
の肩を叩く。 

「BGMにしては断末魔すぎひん……?」 

アキラは引きつった笑顔で

「聞かんかったことにするわ!」

と歩行速度を上げた。

しばらく行くと、コンクリート造りの質実剛健な建物が見えてきた。

「ここが君らの住む寮や。……あ、言っとくけど、ここは持ち込み検査がめちゃくちゃ厳しいからな。お菓子とかゲームとか、余計なもんは一切禁止やで!」 

アキラの言葉に、僕は「まぁ、やっぱりそうだよね……」と肩を落とす。しかし、後ろの二人は何やら怪しい笑みを浮かべていた。

「よし、着いたな! さっそく部屋に入るぜ!」 

案内されたのは、三段ベッドが一つ置かれただけの、ごく普通の、少し手狭な三人部屋だった。

「うわぁ、本当に普通……っていうか、なんか殺風景だね」 

僕がそう呟いた瞬間、兄さんたちがゴソゴソと動き始めた。

「みしきさん、安心してください。があります!」 

一織兄さんが制服の裏地から、手品のように小さな袋を取り出した。 

「これ……お菓子?」 

「ふふ、私が検査官の目を盗んで完璧に隠し通しました。糖分は脳の活性化に不可欠ですからね」

「俺も見てろよー! ほらよっ!」  

二織兄さんも靴底の隠しスペースから、ぺちゃんこになったポテチの袋をドヤ顔で取り出す。

(うわ、きたな)

「お前ら! 検査官の目ぇ節穴か!? どんな隠し方しとんねん!」 

アキラの鋭いツッコミが響くが、二人はどこ吹く風だ。

「さあみしき、パーティーだ! 見つかったら連帯責任で反省文だけどな!」 

「……いや、二人とも普通にルール守ろうよ」 

「大丈夫だぜ! もしバレそうになっても、が庇ってくれんだろ!」 

二織兄さんが、ニヤニヤしながらアキラを見る。

「いや、問題の解決になってないけど! 」

「っていうか、なんで僕も巻き込まれることになってるん!?」

 「だってよぉ、アキラ」 

二織兄さんはポテチの袋をアキラの鼻先に突きつけた。

 「……お前、この匂いを嗅いで、まだそんなことが言えるのか?」

「……ッ!? こ、この寮は食事が質素やから、スナック菓子なんて一ヶ月は食べてへん……あかん、理性が……!」

 アキラの喉がゴクリと鳴る。そこへ、一織兄さんが優雅に、かつ逃げ場を塞ぐように背後に立った。

「アキラさん。あなたがこのことを黙っていれば、誰も不幸になりません。むしろ、この高級チョコレートをあなたにも分けて差し上げます!……どうしますか? 密告して一人で正義を貫くか、ここで私たちと至福の時を共にするか」 

一織兄さんの目が、「わかりますね?」と無言で語っている。

「ちょっと、二人ともやめたほうがいいって!」 

僕は慌てて間に割って入った。 

「アキラ君は案内してくれただけなんだよ? 巻き込んでバレたら、アキラ君まで怒られちゃうじゃん」

「大丈夫ですよ、みしきさん、バレなければいいだけのことです」 

 「そーだぜ! それに、美味いもんはみんなで食ったほうが美味いだろ?」 

「そういう問題じゃなくて……!」

僕の制止も虚しく、二人の兄による誘惑という名の脅迫に、ついにアキラが折れた。

「……くっ、卑怯やぞ、糖辛子団……! ……うっま。なんやこれ!!!」

 アキラは震える手でポテトチップスを口に運び、あまりの美味さに天を仰いだ。

「よし、決まりだ! これでアキラ、お前も今日から俺たちの共犯者だな!」

 二織兄さんがアキラの肩をガシガシと叩く。 「共犯者って……俺、ただ案内してただけやのに、なんでこんなことに……」

「……あーあ、もう知らないからね」 

僕はため息をつきながらも、結局差し出されたチョコを受け取ってしまった。
一瞬、兄さん達のアレンジがされていないかと心配になったが、アキラの反応を見る限り大丈夫そうだ。

狭い部屋で、こっそり分け合う隠し持ったお菓子。 見つからないかハラハラするけど、二人の兄と共犯者が僕の両隣に座っているだけで、なんだか修学旅行みたいな気分になってきた。

「いいかアキラ! これから何が起きても、俺たちは一蓮托生だぜ!」

 「ええ。もしバレそうになったら、先輩のアキラさんが『全部自分がやった』と言えば丸く収まります」 

「なんで僕だけ犠牲前提やねん!!」

アキラの叫びに、僕たちは声を殺して笑い合った。 窓の外には高い壁。だけど、この部屋の中だけは、どこにでもある普通の男子高校生の放課後のようだった。

「なー、みしき。この学校、ヤバイ奴らばっかだけどよ、俺らがいれば毎日お祭り騒ぎ間違いなしだぜ!」 

「ええ、私たちがこの学校を、みしきさんにとって最高の居場所に変えてみせますよ」

人のこと言えないけどね。そう思いながら、ポテチの袋を開ける小さな音にさえビクビクしながら、僕たちは顔を見合わせて笑った。
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