甘いの辛いのどっちにするの?

ずんだもち

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本編 第一章 過去の傷跡編

衝撃!?ポッキーゲーム

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「にしても、三人ってよう似とるなぁ」 

アキラがポテチをつまみながら、僕たちをまじまじと見つめる。

 「双子なら見たことあるんやけど、三つ子は初めてやわ」

 「やっぱり、私たちって珍しいんですね!」 

一織兄さんが優雅に頷く。その横で、二織兄さんが身を乗り出した。 

 「そうだ! お前、いっそ糖辛子に入ら――」

「あ! そうやそうや! 思い出した! 僕、この後用事あるんやった!」 

アキラが食い気味に、不自然なほど素早く立ち上がった。   

「楽しすぎて忘れとったわ! チョコごちそうさん、僕行くわ!」

嵐のように去ろうとするアキラだったが、ドアの隙間からひょこっと顔を戻した。

 「あ、最後に一つ。最初見た時はごっつ怖い奴らやと思てたけど、意外におもろいな!僕、隣の部屋やから、困ったことがあったら何でも聞いてや!」

 「おう、またな!」 

 「じゃ!」 

バタン、とドアが閉まり、部屋に三兄弟だけが残された。

「……さて、始めるか」 

二織兄さんが不敵に笑う。

 「そうですね」 

一織兄さんも奥の瞳を光らせた。

 「えっ、何が? 何が始まるの?」 

身構える僕に、二人が声を揃えて言った。

「決まってんだろ! 三段ベッドと言えば――」 

「場所の取り合いです」

「俺、一番上!」

 「いいえ、私が一番上です」 

さっきまでの兄弟愛はどこへやら、二人が醜い争いを始めた。

 「なんでもでいいじゃん……」 

「ダメだ! 俺たちの秩序に関わる!」 

「じゃあ、ゲームで決めたら?」 

僕の提案に、二人は顔を見合わせた。 

「それもそうだな!」

 「いい考えです、みしきさん」

二織兄さんが、どこからか細長い箱を取り出した。

 「それじゃ、今ここにあるポッキーで勝負しようぜ!」 

「ポッキーで勝負って…..どうするの?」 

 もしやポッキーゲームじゃないよね…流石にないよね

「決まってんだろ!ポッキーゲームだ!」 

 僕の心を読んでたように、にしきがびしっと言う

「いや、兄弟同士でするゲームじゃないでしょ!?」

 僕がツッコむ間もなく、一織兄さんがその箱をまじまじと見つめ、顔を引きつらせた。

 「……二織さん。私、これは食べられませんよ」

 箱には大きく『辛口ポッキー』と書いてある。

 「私、辛いものは苦手なんです。私の舌が、この刺激に耐えろとは言っていません」

「あー、そうだったな! お前、おつむはいいけど舌はお子様だもんなぁ」 

二織兄さんがニヤニヤと笑い、僕に振り返った。

 「それじゃ、いっしきの代わりはみしきだな!」

 「いや、僕関係なくない!? なんで代打なの?」 

「私のためにお願いします、みしきさん。この激辛から私を守れるのは、あなたしかいないのです」

「……はぁ、わかったよ。やればいいんでしょ」 

しぶしぶ、僕はポッキーの端をくわえることになった。 

「本当にやるの?」

 僕は顔を真っ赤にしながら、辛口ポッキーの端をくわえた。 目の前には、やる気満々で反対側をくわえようとしているにしき兄さんがいる。至近距離で見つめられると、改めて二人の顔が自分とそっくりであることを突きつけられているようで、猛烈に恥ずかしい。

「(当たり前だろ! 男に二言はねぇ。いくぜ、みしき!)」 

「(ちょっ……近いってば!)」

二織兄さんの顔がグイッと近づいてくる。 ポリポリ、とポッキーが短くなる乾いた音が、静かな部屋にやけに大きく響く。 おまけにハバネロの刺激が鼻を突き、熱いのか恥ずかしいのか、もう自分でもよく分からない。

「(っ……)」 

あまりの至近距離に、僕は思わず目をつむった。

 「(おっ、みしき、顔真っ赤だぜ。可愛いなぁおい!)」

 「(からかわないでよ……っ!)」

 そんな僕たちの様子を、特等席で眺めている男が一人。一織兄さんだ。 彼は辛いものが食べられないから僕に代打を頼んだはずなのに、一人で優雅に話はじめた。

「現在の状況をこの私が解説いたしましょう!」

何か始まった!
一織兄さんが、まるでお気に入りの論文でも読み上げるような平坦な声で口を開いた。

「みしきさん、あなたの現在の心拍数は通常時の1.5倍、頬の毛細血管は過度に拡張し、呼吸は浅くなっています。
これはハバネロの成分による物理的刺激に加え、二織さんの顔面が自身のパーソナルスペースを20センチ以上侵食していることへの心理的拒絶、および近親者との過度な接触に対する原始的な羞恥心が複合的に作用した結果です」

「(……っ、ちょっと、いっしき兄さん! 解説やめてよ!)」 

恥ずかしさを言葉で解体されるのが、こんなに惨めだなんて思わなかった。

「(黙って集中しろよみしき、今がいいところなんだからよ!)」

 「二織さん、あなたの口角が3ミリ上がっています。それは勝利への執着ではなく、単なる劣情の表れではありませんか? 実に浅ましいですね!そしてみしきさん、今あなたの涙腺が刺激され、瞳が潤みましたね。その『拒絶しながらも逃げられない姿』は、統計学的に見ても相手の加虐心を煽るのに最も適した表情です。実に非効率的です!非常に、目に毒ですね!」

「(うっせぇぞいっしき!)」

 一織兄さんの淡々とした、けれど執拗な実況に耐えられなくなり、僕はついに限界を迎えてポッキーを噛み砕いた。

「っ……はぁー!! 辛い! 痛い! もう無理!!」 

口の中に広がる激痛と、解剖されるような羞恥心で、僕はソファに突っ伏した。

「おっしゃぁ! 俺の勝ちだ!!」

ギリギリまで攻めきったにしき兄さんが、最後に残ったわずかなポッキーをパクリと食べ、勝利の雄たけびを上げた。 

「負けてしまいましたか」

「いや、いっしき兄さんのせいだからね!」

「よく頑張ったな、みしき!……おい、動くなよ」

 にしき兄さんがニヤリと笑いながら僕の顔を覗き込んできた。

 「え……?」

彼の視線が僕の口元に固定される。 (や、やめてよ……まだこんなに近くに……!) ポッキーゲームの興奮が冷めやらぬまま、鼓動がうるさいほど鳴り響く。

二織兄さんは、ゆっくりと顔を近づけてきた。 そして、僕の口元に残ったポッキーの欠片を――まるで猫が毛づくろいするかのように、ペロッと舌で舐め取った。

「っ!?!?!?」

一瞬、何が起きたのか分からなかった。 

「よっし、取れた。ポッキーの欠片、ついてたぜ?」 

二織兄さんは、満足げに笑い、僕の頭をガシガシと撫でた。

「どした?顔赤いぞぉ?もしかして…チューされるとか思ったのかよ!www」

しかし、パニック状態の僕の脳内では、その行為が別の意味に変換されてしまっていた。 (……え? いま、僕の口に……? チューした!? しかも、兄さんが!?)

「な……ななな、何すんだよぉぉぉ!!!」

――パァァァンッ!!!
乾いた音が部屋に響き渡った。僕のフルスイングのビンタが、にしき兄さんの頬にクリーンヒットする。 その瞬間、それまで冷静だったいっしき兄さんが「ふっ……」と吹き出した。

「みしきさん」

 「な、なに?」 

「にしきさんは、ただポッキーがついていたので舐めとっただけですよ」 

「えっ!」


その瞬間、血の気が引いていくのがわかった。 どうしよう、勘違いで殴っちゃった。


「に……にしき兄さん……?」 

にしき兄さんは無言のままだ。頬を赤く腫らし、じっと俯いている。

 (絶対怒ってる! どうしよう、謝らなくちゃ……!)

「めんどくさいことになりましたね」 一織兄さんが他人事のように呟く。

「ごめ……っ」 

「……たった」 

「え?」 

二織兄さんの声が小さすぎて聞こえない。
「……たった」 

「えっ?」

隣で一織兄さんが深くため息をつき、静かに身構えた。

 「来ますよ、みしきさん」

 「えっ、何が?」

「だかーら、勃ったってんだろぉぉぉ!!?」

 「はぁ!?」

にしき兄さんが弾かれたように顔を上げた。その目は怒りどころか、見たこともないようなギラギラとした歓喜に満ちている!

「最高だぜみしき! 容赦のないスイング! もっとやってくれ! 次はもっと強めがいいなぁ、オイ!」

 「ひっ……!」

混乱する僕の方へ、にしき兄さんが猛烈な勢いで迫ってくる。 

「やってくれ! 頼む、みしき!!」

 「こ、来ないで!」

いよいよ悲鳴を上げようとしたその時、一織兄さんがスッと間に入った。 

「その辺にしておいてください、みしきさんを怯えさせないでください、にしきさん」

「えっ! そ……そんなことねーよな、みしき?」 

「怖いよ!変態!」 

露骨にショックを受けてガックリと肩を落とす二織兄さん。 いや、今のを見て怖がらない奴がいるなら連れてきてほしいよ。

「……っていうか、さっきの何なの? 勃ったって……」

 僕がおそるおそる尋ねると、二織兄さんは鼻を鳴らして胸を張った。

「そのまんまの意味だぜ!気持ちよかったつうことだ! まぁ、いわゆる俺は『ドM』ってやつだ!」 

(へ、変態だ)

「あ、ちなみに世間一般的に言うと私もですよ。二織さんとは系統が違いますがね」

(やっぱり、いっしき兄さんのあのチョカーは変態だったことの伏線だったか)

「そうだぜみしき、Mには種類があるんだぜ!」 

いやそんなアまるミカさんのように言われても…

「痛みを『気持ちいい』と感じる俺みたいな奴と!」 

「支配、または快楽を快感と捉える私のようなタイプ」 

 「「がいるんだぜ(いるんです)!!」」

(いや、二人してドヤ顔で言うことじゃないから!)

「痛快ですね、みしきさん!さあ、夜はこれからですよ!」

 「俺を一番上に寝かせて、下からみしきに踏まれるのも悪くねぇなぁ……」

「もう嫌だ……このままここいたら僕までも変態になりそうアキラ君の部屋に行きたい……」

「逃さねぇぞ!!」

「逃しませんよ!」

—————————————————


一方、その頃。 学園の喧騒から離れた、薄暗い一角では重苦しい空気が漂っていた。

「酷くやられたなぁ隆二?」

低い、地を這うような声が室内に響く。 そこには、昨日クラスで襲いかかってきた男…..隆二が跪いていた。

「……そうじゃ……情けない限りじゃ」

報告を聞き、ソファに深く腰掛けた長髪の男が、ふっと不気味に口角を上げた。 暗がりのせいでその瞳は見えないが、彼から放たれる圧倒的な威圧感に、周囲の空気さえも凍りつかせる。

「ふんっ、この俺たちの庭で、新入りが喧嘩を売ってくるとはな。おもしれーじゃねぇの」

男は立ち上がると、長く伸びた髪を指先で弄りながら、窓の外を見据えた。その視線の先には、みしきたちが眠る寮がそびえ立っている。

「明日行くぞ」

「えっ! いきなりじゃな!?」 

驚きに目を見開く。

「まずは、その顔拝ませてもらわねぇとな。お前をこんなにした、犯人の面をな」

「その……かしら」

 隆二が何かを言いかけて口を噤む。

「なんだ、言いたいことがあるなら言え」

「……いや、なんでもないのじゃ……」

「……明日が楽しみだな」

長髪の男は、闇の中で獣のように目を細めた。
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